第11話 能力の有用性
武器収納能力とは、文字通りの意味である。
世の中には魔法収納という異次元に沢山の荷物を収納できる特殊で便利な能力があるが、その劣化版というべきものが、この武器のみ収納できる能力である。
これにはさらに条件があり、自分のスキルにあった専門武器しか出し入れ出来ず、人の武器を預かる事は出来ないから、とても不便で限定的な能力だ。
無いよりはあった方がいいというレベルの能力ではあるが、意外に使用できる者は少なく、最年少王国騎士団団長にまで上り詰めた母セイラでもこの能力を使う事が出来ない。
父ランスロットの方は使用できて、入れられる専門武器は槍と斧だけらしい。
本人は剣を一番得手として使用しているのだが、本人の意思とは関係なく最初から決まった専門武器の種類だけのようだ。
だからランスロットは、武器収納能力は使用する事無く、剣をいつも腰に佩いている。
「カズマの専門武器は『刀』という事みたいね。他の武器も入れられるか一応試してみましょう」
母セイラは自分に無い能力を息子が持っている事が嬉しいのか地下に下りていくと、両手いっぱいに色んな種類の武器を持って戻って来た。
そこで一つ一つ試す事になる。
だがどれも入らない。
「……今のところ脇差し以外入らないね……」
カズマが、不便な能力に残念がった。
「やっぱり最後はこの長い方の『刀』ね」
母セイラはそう言うとカズマに渡す。
まだ六歳のカズマにはその長刀は手にあまり、両手で受け取っても重さでガクンと下に落としそうになる。
そして、両手で武器収納能力を試すと長刀はここではない次元に消えた。
両手を離すと長刀は消えてなくなる。
そして、長刀が必要だと思いながら次元の彼方に手を入れると、握った感触があり、引っ張り出すと長刀が出てきた。
「成功ね!」
母セイラは息子の新たな能力の発見に喜ぶ。
「でも、結局は『刀』以外は入らないみたい」
「普通は得手の専門武器以外は入らないものだから仕方ないわよ。ランスロットは得手以外の槍と斧しか入らないからそうとばかりも言えないけれどね」
母セイラはおかしそうにクスクスと笑う。
カズマはそれを聞いて、父ランスロットの本当の適正武器は槍と斧で剣以上に向いているのではないか?とも思うのだが、剣で王国騎士団副団長まで昇りつめたのだからはっきりとは言いきれない。
母セイラの言う通り、父ランスロットは特殊なのかもしれない。
カズマはそう思う事にして口にはしないのであった。
それにしても、自分の武器が出し入れできるのは、楽でいい。
特に、長刀は六歳の自分では持ち歩くのは重いし、何より邪魔になる。
背中に背負う事も可能だが、とっさに抜く事も出来ないから、武器収納している方がいいだろう。
「お母さん、脇差しと長刀、どちらとも、普段から僕が持っていていい?」
カズマはこれからの修練の為にも手許に持っておきたいのだ。
だがしかし、今のところ、真剣を持たせるにはまだ六歳で危険もあるし、何よりかなりのお金をかけて王都の名工に作らせた高価なものなので、狙われないように使用する時以外に持たせておくのは親のセイラにとっては危ぶまれた。
「うーん……。お父さんに相談してみなさい。それで許可が下りたら持っていていいわよ」
母セイラも六歳の息子に真剣を持たせるのは危険だと本来なら反対するところである。
しかし、今の状況ではいつカズマが、また一人の時に襲われるとも限らない。
抵抗できずに斬られて死にました、とあっては今度こそ親として後悔するだろうと思うところであったので即答は避けるのであった。
父ランスロットが帰ってくると、早速、この日の内にわかった息子カズマの能力についての報告が行われた。
セイラは嬉しそうにカズマに代わって説明する。
ランスロットはすぐにカズマが刀を持つ事を許した。
確実に命を狙われている事がわかっている以上、カズマにも防衛手段は必要だと判断したのだ。
それよりも、能力の説明について興味を示した。
「ハラキリによる『霊体化』?それはつまりどういう事だ?」
セイラに説明されても今一つ理解が出来ない。
話しているセイラもよくは理解していないのだから、その辺りの説明もあやふやだから伝わらなくて当然である。
「えっと……。簡単に言うと、肉体が実態を失って透明化するって事かな?」
カズマが今度は母セイラに代わって説明する。
人の幽霊の存在が理解されていないこの世界では、説明するとしたらそれが一番近いものだと思えた。
「透明化……だと!?」
ランスロットは、何を想像したのかそれを非常に問題視するように反応した。
そして続ける。
「……それは、どこにでも自由に出入りできるという事ではないか?」
「うん。自由といえば自由かな。でも、『霊体化』している時は人や物が掴めないから、移動くらいにしかメリットがないかも……」
カズマは前世である幽霊時代の数百年間、何も触れる事が出来ず浮遊しているだけであった事を思い出してそう答えた。
それに人に憑りついていた時には、移動も憑りついた相手が移動するところの周辺しか動けなかったから不便だったのだ。
「カズマ……、お前はまだ六歳だ。可能性を否定したらいけない。例えばだ。女湯とか、女湯とか女湯をこっそり覗き見する事も可能なんだぞ……?」
ランスロットは男のロマンを口にする。
だが次の瞬間、セイラの拳がランスロットの頭に飛来していた。
「ぐはっ!」
ランスロットは勢いよく床に叩きつけられた。
かなりの威力の拳骨だ。
元王国騎士団副団長が、床にのびる程だから相当である。
「馬鹿な事をカズマに教えるんじゃないのよ、あなた!」
握り拳のまま、そう注意するセイラの頭に、錯覚で角が生えているように見えたカズマであった。
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