第10話 スキルの一端
カズマは早速、母セイラと共に、スキル『ゴーストサムライ』について、どんな能力があって、どう成長しそうなのか研究する事にした。
と言っても、セイラにとっては『ゴーストサムライ』という単語が聞き慣れないものだから、首を捻るところであったが、カズマの脳裏で聞こえ、説明に答えてくれたという「声」をヒントに探る。
「──それで、発動した時に何て言われたんだっけ?『何とか完全耐性』?」
セイラが息子カズマの説明を思い出しながら確認した。
「『ハラキリ完全耐性』と、『クビキリ完全耐性』だよ。ハラキリの方は、お腹が完全に負傷しないらしくて、クビキリも同じ感じみたい」
カズマは自分で説明しながらどんな能力だよ!とツッコミを入れたくて仕方がないふざけた能力であった。
「……そんなふざけた能力初めて聞くけど……、でも、最初から完全耐性が付くというのも珍しいというか、初めて聞くわ……」
セイラもカズマ同様の反応で、答えるのも仕方がない。
普通なら、発動して間もないスキルが覚える能力と言えば、○○(小)とか△△(弱)といったように弱い能力であるのが普通だ。
それらも、成長して少しずつ強化されて行くのだが、最初の内はそれでも十分に役に立つものである。
それがいきなり、完全耐性なのだから、驚くのは当然だ。
「……じゃあ、まずは『ハラキリ完全耐性』を確認してみましょうか?」
母セイラはそう言うと、いつの間にか手にしていた裁縫用の針を予告も無しにぷすりとカズマのお腹を服越しに刺してみせた。
「い、痛っ!──痛いよ、お母さん!」
カズマは涙目で針を刺されたお腹を擦りながら、非難した。
「あら、ごめんなさい。完全耐性って言うから、大丈夫だと思ったのだけど……」
セイラは茶目っ気のある笑顔で答える。
「そう言えば、そうだよね?普通に痛いよ……。あれ?でも、血が出ていないかも?」
カズマは擦っていたお腹を確認して、そう答えた。
「まさか……、痛覚はあるけど負傷はしない、という事かしら?」
セイラはそう考えると、今度はセイラが普段から肌身離さず持ち歩いているナイフを取り出した。
「お、お母さん?まさかと思うけど……」
カズマは今から母セイラの目的が予想出来てちょっと青ざめる。
「大丈夫、傷は皮一枚で浅く済ませるから服をまくってみなさい」
セイラはそう言うと、カズマの返答を待たずに、服をまくり上げ、ナイフを持った右手を一閃させた。
「痛い……!──けど、傷が無い?」
カズマは母セイラの迷いのない鮮やかな一閃に痛みもあまり感じる事無く傷の具合を確認した。
「どうやら本当に、『ハラキリ完全耐性』は、傷が出来ないみたいね……。痛みがあるのは多分、内臓の動きなんかも感じられるようになっているからかも。無痛だとわからないものね」
セイラは一人納得してそう分析した。
「じゃあ、『クビキリ完全耐性』も、そういう事なのかな?」
「そうね。でも、首を落とすような斬撃を浴びたらどうなるのかしら……。さすがにそれは怖くて確認できないわね……」
さすがのセイラもそこまで鬼では無いようだ。
だがカズマは少し疑問が残っていた。
それは、『ハラキリ』の意味があるのかと思ったのだ。
『ハラキリ完全耐性』が、前々世で無念の死を迎えた時の切腹を意味するのであれば、切腹の「ハラキリ」行為ならどうなのだろうかと、思った。
先程母セイラが、ナイフで薄くお腹を斬った時、痛みはあったが、傷はなかった。
しかし、痛覚があるようでは完全耐性にならないのではないだろうか?
「お母さん、短い方の刀で試してみていい?」
カズマは地下の隠し部屋に納めている刀の事を口にした。
「刀で?」
セイラは意図がわからず、疑問符を頭にいっぱい浮かべた。
「うん、ちょっと、確認しておきたいんだ」
カズマの目は真剣だ。
それを察したセイラは黙って頷くと、地下に降りて行き、しばらくすると脇差しを手に戻って来た。
「ありがとう」
カズマは脇差しを受け取り、鞘から抜き放つ。
カズマは上着を脱いで上半身裸になると静かに正座し、まるで今から切腹するかのように脇差しを逆手に持って、深呼吸する。
そして、その脇差しをカズマは目を瞑って自分のお腹に突き立てた。
前々世以来数百年ぶりの切腹である。
傷つかないのはわかっているから痛みを覚悟しての切腹であった。
「……あれ?……痛くない?」
目を瞑っていたカズマは恐る恐る目を開く。
そうするとどうだろう。
カズマは家の天井近くから母セイラを見下ろしていた。
セイラは、
「カズマ!?どこに消えたのカズマ!?」
と慌てている。
「?お母さん、僕は頭上にいるでござるよ!──頭上?──え?何で僕、浮いているでござるか!?」
カズマは慌てた為か、ござる口調になりながら、自分の姿を確認しようと手や足に視線を向けた。
手はある。
お腹に脇差しも刺さっている。
だが、足は無かった。
体が半ば透けて見えるその光景は、誰よりもカズマが見た覚えがある。
それは前世の幽霊時代だ。
それはつまり……。
「自分は霊体化しているでござるか!?」
カズマが自分の姿に驚いていると、
「刀によるハラキリを確認しました。能力『霊体化』を入手しました。おめでとうございます」
という声が脳裏に響いてくる。
とは言っても、幽霊なのでその声は霊体の体に響いて聞こえた。
「……ちなみにハラキリによる『霊体化』の発動は、脇差しでのハラキリが条件でござるかな?」
「その通りです。能力の発動には刀でのハラキリが必須です」
「これ、お母さんにはもちろん見えていないでござるか?」
カズマは眼下でカズマを探す母セイラを見下ろしながら確認した。
「この世界において、人の幽霊という概念が存在しない為、あなた以外の人間が霊体を捉える術はありません」
「……それって幽霊は僕だけという事でござるか?」
「その通りです」
「……元に戻るには?」
「お腹に刺さった刀を抜くと『霊体化』は解除されます」
「ありがとう。また、わからない事があったら教えて欲しいでござる」
カズマはそう答えると、お腹に刺さったままの脇差しを抜いた。
するとセイラの手許にカズマが落ちて来て、それをとっさに受け止めた。
「カ、カズマ、……無事?」
セイラは脇差しを手に赤ちゃん抱っこ状態に照れるカズマの顔を確認した。
「……大丈夫みたい」
カズマの返答にホッとするセイラ。
「刀は危険だからちょっと片付けなさい」
セイラは母親らしくカズマの手にある脇差しが危ないから注意して、下に降ろした。
「あはは……。ごめんなさい」
カズマは謝りながら、鞘に脇差しを納め、自然な流れで違う次元の空間に脇差しを握った手を突っ込んでいた。
その左手が次元の狭間に入っているので手首から先が消えているように見える。
「それは武器収納能力!?」
セイラの驚きと共にカズマは、
「僕の左手が無い!?」
と、そこで初めて気づいて驚くのであった。
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