そして僕と幼馴染は

 何だかんだ必死に立ち回っていたけれど、僕の体はもう限界を超えていたんだと思う。

 霧島と高水さんに言われ、僕は廃倉庫の階段を登っていた。もう、ふらついて手摺に寄りかからないと真面に進むことすらできなかった。

 再び辿り着いた廃倉庫の二階には、霧島にやられて気を失っているヤンキーたちが無造作に転がり、寂しさを感じる程閑散としている。

 


 「ひ……毘奈」



 毘奈は先程と同じように、古びたソファーの上で気を失い、横たわっていた。呑気なもんだ……と言いたいところだが、今回はこいつを大変な目に合わせちゃったよな。

 僕は毘奈を縛っていた紐を解き、肩を優しく擦る様にして呼び掛けた。



 「毘奈、もう大丈夫だ、起きろ、毘奈」

 「……吾妻……なの?」

 


 毘奈は僕の呼び掛けに慌てて飛び起きるも、キョロキョロと周囲を見回して状況を理解できていない様子であった。



 「吾妻……私は……? 凄い怪我! 本当に大丈夫なの!?」

 「ああ、細かくは言えないけど、もうみんな終わったんだ。何も心配はいらない、一緒に家に帰ろう」



 僕は毘奈を安心させようと、優し気な声で宥めるように言い聞かせた。そうすると、毘奈は緊張の糸が切れたのか、僕にしがみつき、子供のように声を上げて泣きじゃくったんだ。



 「あずまぁぁ!! 私……怖かった、怖かったよぉぉーーー!!!」

 「ああ、そうだな、よく頑張ったよ……」



 しっかり者の毘奈が、こんな子供みたいになるなんていつ以来だろうな。僕は自分の体の痛みに耐えながら、僕の胸に顔を埋める毘奈の背中を優しく撫で続けた。

 一頻り泣きじゃくった毘奈は、少し落ち着いたようで、顔を上げて涙で滲んだ瞳を僕に向けた。



 「私ね……吾妻に嫌われてるんだと思ってた。昔と違って、一緒にいても素っ気ないし、先輩と付き合い出してからは、特に避けられてるような気がして……」

 「べ……別にそんなこと」

 「だからね、吾妻じゃ絶対敵わないのに、必死になって私を助けようとしてくれて……嬉しかったよ」



 幸か不幸か、この幼馴染の突然の本音の告白に、僕は少し呆気に取られてしまった。普段、僕を揶揄ってるくせして、こいつはこんなことを考えていたのかよ。

 僕は痛みと疲労で気を失いそうだったが、毘奈の態度に絆されたのか、最大限の気持ちで、このお節介で嫌味なくらいハイスペックな愛すべき幼馴染の思いに応えたんだ。



 「お前はさ……家族みたいなもんだから、一緒にいると何だか照れ臭かったんだよ。……それに、やっぱり彼氏ができたんなら、そいつと仲良くやって欲しい……って言うか、どうせならお前に幸せになって欲しかった……からさ」



 それを聞いた毘奈は、僕にも増してとても驚いた様子だった。だけど、毘奈も霧島と同じように、すぐに穏やかな微笑みを僕に返してくれた。



 「吾妻のくせに気なんか遣っちゃって……馬鹿みたい」

 「悪かったな、馬鹿で」

 「ううん、やっぱり馬鹿は私だよ……大事なこと、何にも分かってなかった」



 そして、僕の体力はもういい加減限界だった。僕はこのお節介で鬱陶しく、少し苦手な幼馴染とやっと分かり合えた気がして、毘奈の体にもたれ掛かる様に深い眠りに落ちたんだ。



 ――吾妻……来てくれてありがとう、大好きだよ」

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