第30話 デスナイト討伐

※デスナイト討伐

 内容:墓地に生まれたデスナイトの討伐。

 報奨金:100,000ガルド

 期限:一週間


「デスナイト討伐か...今日はこれにしよう...かな?」


 場所は、プリモシウィタス南西に下った湿地帯の墓地エリア。

 報奨金も、今現在のランクで受けられる依頼の中では格段に高いものだ。


「よし!デスナイト討伐にしよう!」


 依頼書を掲示板から手に取り、受付へと向かった。

 周囲を見渡し、空いている受付で討伐依頼を受理して貰う。


「本日は、どう言ったご用件でしょうか?」

「討伐依頼を、お願いします」

「かしこまりました。では冒険者カードに、依頼書のご提示をお願い致します」


 職員に言われた通り、冒険者カードと持参した依頼書を提示する。

 もう、何百回と繰り返されているやりとりだ。


「ご提示ありがとうございます。では、こちらで処理致しますので、少々お待ち下さいませ」


 職員は、受け取った冒険者カードと依頼書を重ねて、魔法具を取り出した。

 その上から魔法具をかざし、職員が魔力を込めると、依頼書の文字が次々と宙に浮かび上がった。

 すると、依頼書の文字が、次々と冒険者カードへと吸い込まれて行く。

 依頼書の内容、全ての情報が冒険者カードへと反映されているのだ。


「...お待たせ致しました。今回のデスナイト討伐は、期限が設けられております」

(まあ、今日中に終わらせるんだけどね)

「期限を守り、違反が無いようにご注意お願い致します。では、いってらっしゃいませ」


 今回の討伐対象であるデスナイトは、闇属性の骨騎士族だ。

 弱点になりそうなものは、火、炎、聖属性辺りかな?

 ただ、ようやく剣が装備出来るようになった今。

 剣対剣の勝負。

 騎士と名が付く敵との勝負は、とても楽しみな事だった。


「よし!準備も出来たし、湿地帯の墓地に向かおう!」


 プリモシウィタスの街を出て、南西の湿地帯へと向かう。

 馬があると便利なのだが、移動手段はまだ徒歩のみだ。

 ただ、僕は飛行が使えるので比較的、楽に移動が出来る。


「今の段階で、空を飛べるプレイヤーって他にいないのかな?...って言うか、僕以外で飛行スキルを使用しているところ見た事が無いんだよな...天使って、そんなに人気が無いのかな?」


 この世界はオープンワールドで、全プレイヤーが混在している仮想世界。

 多種多様な種族が居ると言うのに、僕と同じ天使族を使用しているプレイヤーが殆ど居ないのだ。


「精霊人(エルフ)が一番人気で、後は、獣人族が人気なんだよね...こんなに格好良いのに...何でだろう?」


 プレイヤーは精霊人(エルフ)族が圧倒的人気で、全プレイヤーの半数を占めていた。

 後は似たり寄ったりなのだが、その中でも、種族としては獣人族が人気だった。

 獅子人族、猫人族、犬人族、兎人族が上位を占めている形だ。

 天使族を使用しているプレイヤーは、1%にも満たない。

 僕にはその理由が解らないのだが、圧倒的不人気種族なのだ。

 ...攻撃判定のある翼の所為か?


「そろそろ、湿地帯が見えて来たようだな...何だか空気も悪いし、もの凄く視界も悪いな...」


 湿地帯はジメジメとしていて、身体に「ベトッ」と纏わり付く空気が気持ち悪い。

 その空気も視界が悪く、全体的に靄掛かっている場所だ。

 今回の討伐目的の場所。

 その墓地は、この湿地帯を抜けた森の中にあるらしい。

 どうやら飛行で降り立つ事は出来ず、正門からその場所へと向かわなければならないようだ。

 入り口からして、とても雰囲気があった。


「何で、こういう場所って...危険な雰囲気が出ているんだろう?そう言った場所だからなのか?はたまた戦う相手がホラーだからなのか?...鶏が先か?卵が先か?みたいな...いや、ホラーだからこそ、そういった場所になるのか...」


 ランプの灯りが全体には行き渡らず、周囲2、3mを照らすだけの空間。

 奥行きが全然見えない事は、嫌な想像を膨らませるものだ。

 そこには何も無い筈なのに、何かが有るように意識をしてしまう。

 そして、何か得体の知れない生物の鳴き声が反響し、更なる恐怖感を助長させるのだ。

 静かな筈の空間で、何かが居るかも知れないと言う恐怖。

 自分で自分を追い込んで行しまう感覚。

 これが、普通の人ならば。


「墓地は、あそこかな?」


 何故か、僕は、お化けや幽霊を怖いと思った事が無かった。

 僕にとって怖いものは、常に自分以外の他人なのだから。

 独りで居る事が普通だった僕。

 お化けや幽霊でも現れては、友達になって欲しいと思っていた程だ。

 きっと、お化け屋敷とかに行っても、僕一人全然驚かずに、周りから興醒めされてしまうタイプだろう。


「蔦が絡まった門...土の臭いに、湿った空気の臭い...うん。雰囲気が良いね!」


 墓地に辿り着けば、余計に空気がジメジメとしていた。

 水分を含んだ土の臭い。

 森の中に漂う湿った草木の臭い。

 如何にも、お化けや幽霊が出そうな雰囲気が丸出しである。


「墓地の中は余計に見辛いな...さて、デスナイトは何処にいるんだろう?」


 霧掛かった空間だ。

 “一寸先は闇”では無いが、その一寸先がまるで見えない。

 エクトプラズムと言ったものや、人魂が浮かんでいればまさに完璧。

 決戦の場に相応しい舞台だ。

 すると、奥の方で影がチラッと動く事が見えた。


「...あれか?」


『デスナイト』

 骨騎士族(骨人族の一つ上の種族)。

 身長250cm。

 黒い鎧を身に纏い、ツヴァイヘンダーを片手に、タワーシールドを片手に持つ。

 核を持つ幻想種。


 墓地の中の一際大きい墓石の前で、何かが蠢いていた。

 僕がその何かに近寄れば、顔は骨だけだと言うなのに赤い光がギョロギョロと動きまわっていた。

 そして、間も無く僕を捉えた。


「霧掛かっているというのに、見えているのか...?いや、視えているのか!?」


 デスナイトからドス黒いオーラが発せられていた。

 兜から覗く剥き出しの顔。

 鎧の隙間から覗く胸。

 その両方から発せられる、血のように赤い光が嫌でも目立つ。


「核が丸見えではあるけど...隙が無いな!?」


 相手の全体を良く見るのだが、鎧やシールドでガッチリと守られていた。

 これで僕が普通に攻撃を仕掛けても、その攻撃が成功する事は無さそうだ。

 どうやら、相対した雰囲気では、デスナイトの方に分があるようだ。


「スケルトンナイトよりも、一回りも二回りも大きいのに、その性能が違い過ぎるぞ!?」


 僕が剣を使用出来るようになったのはつい最近の事。

 素人に毛が生えた程度の腕前しか無い。

 だが、今後は剣を主流に、状況に合わせながら武器を変えて魔法を併用して行く事が僕の理想だった。

 こんなところで、その信念を曲げてられない。


「アンデット系なら弱点は火、炎、聖属性か...」


 ただ、墓地で魔法を使用した場合。

 ひしめき合う墓石を破壊してしまう恐れがあった。

 世知辛いものになるのだが、破壊してしまった物は弁償となるので、損害を考えれば墓地では魔法が使用出来なかった。


「魔法を使えれば、もっと楽なんだけどな...闇の指輪を使用すれば、貫通付与で核を破壊...出来るのか?」


 デスナイトは核によって生命活動をしている幻想種。

 その核さえ壊せれば、一撃で倒せる相手だ。

 その身を鎧で固めているのだが、闇の指輪を使用すれば貫通効果が付与されるので、簡単に核を破壊出来るだろう。

 そして、浮遊を使用すれば、もっと楽な方法で相手の攻撃が届かない場所から弓矢で核を破壊出来てしまうだろう。

 だが、僕はそれを望んでいない。


「せっかくの剣での戦いだ!それも、相手は騎士!僕の練習を含めて、剣技の糧になって貰う!!」


 剣技の練習から、技術の向上を求めて、自分に条件を課して戦闘を行う。

 ただ、敵を倒すだけなら必要の無い事。

 ただ、魂位を上げるだけなら必要の無い事。

 だが、僕が目指している場所は、ラグナロクRagnarφkNo.1プレイヤーなのだから。


「ヴァーーーー!!!」


 デスナイトが、“ア”と“バ”の丁度中間のような低い音で叫ぶ。

 そして、その大きい身体を「ダッ!ダッ!ダッ!」と地面を駆けて僕へと近寄りながら。


「お前も、戦いを求めているのか!?」

 

 僕には、腹の底が震えてしまうその低い声が、何処か嬉々とした叫びにも聞こえた。

 剣で戦える事が嬉しいのだと。

 実際は、久しぶりに人を殺せるのだと、快楽を求めたものらしいけど。

 嬉々としている事に変わり無い。


「はははっ!!そうか、お前も楽しいのか!!じゃあ、行くぞ!!」


 僕はバスタードソードを両手で構え、デスナイトへと駆け寄った。


「スピードは僕の方がある!後はどこを狙うかだ!?」


 デスナイトよりも僕の方が速い。

 だが、相手は要所を鎧で守っていた。

 狙える部分は鎧の隙間から見える胸、それぞれの関節部分となるのだが、相手の構えや巨大なタワーシールドによって隙が無い状態だ。


「ヴァー!!」


 僕がどうすれば良いのかと悩んでいる間も、相手の動きは止まらない。

 その戦いの最中で判断をしなければならないのだ。

 必要になるのは、決断力と対応力。

 しかも、間違えれば即死に繋がる緊張感。

 この心が高揚する感じ、胸躍る戦い、これらは僕にとって堪らなく生き甲斐を感じられるものだった。

 そうして間もなく両者が激突する瞬間。

 デスナイトはツヴァイヘンダーを真上に振り上げた。


「っ!?」


 デスナイトが剣を振り上げた時。

 右上腕部分、右脇腹部分と骨が剥き出しになった。

 狙うならば、そこしか無いのだと。


「がら空きだぞ!!」


 僕は激突を恐れずに更に加速する。

 そして、相手の側面を抜き去るように、剣を右脇腹へと狙いを絞り、すれ違い様に切り付けて行く。


「そこだ!!」


 がら空きの右脇腹へと一撃を叩き込む。

 すると、相手の骨を叩き壊し、胴体がボロボロと崩れていった。


「グァッ!!」


 だが、デスナイトは身体が壊れても、お構い無しに次の攻撃へと移っていた。

 タワーシールドを横に寝かせて振り回し、勢い良く僕にぶつけて来たのだ。


「なっ!?ガハッ!!」


 その打撃が途轍も無く重い一撃。

 振り回しただけだと言うのに、衝撃は車がぶつかって来たものと同等の威力。

 僕はそのまま吹き飛ばされれしまい、肋にヒビが入った。


「くっ!?」


 僕は宙を吹き飛ばされている状態なのだが、空中で身を翻し、衝撃を分散させながら受け身を取った。

 だが、直ぐに肋の痛みが脳へと駆け昇った。


「クソっ!肋の痛みが邪魔だ!骸骨だからこその捨身の攻撃か...核があるせいで壊れても修復してしまう...厄介だな」

 

 デスナイトは、名前にもナイトが付く騎士と言う存在の為、もっと洗練された剣技を使うのかと思っていた。

 だが、実際はそんな事が無く、自身の特性を活かした大味な攻撃。

 良くも悪くも、力任せでしか無かった。


「くっ!もう目の前に!?」


 デスナイトの右脇腹は壊れたまま。

 だが、今まさに修復が始まっているところ。

 しかも、相手には痛覚が無い。

 そのおかげなのか?

 相手には核以外を防御する必要が無いのだ。

 肉体を気にする必要が無いので、常に捨身の攻撃で良いのだ。


「ヴァーーー!!」


 デスナイトの剣を振り上げた攻撃が、僕へと襲い掛かって来る。


「僕だって、剣を受けるくらいなら出来る!!」


 相手の上段の攻撃に合わせて、僕は下段から剣を振り上げた。

 剣と剣がぶつかる衝撃。

 勝手に手が痺れてしまう程の威力だ。


「ぐっ!!」

「ヴァ!ヴァ!」


 デスナイトはツヴァイヘンダーを勢い良く振り下ろした後。

 僕の剣とぶつかった反動を利用して右に回転し、タワーシールドを振り回した。

 だが、僕も同じように、剣を弾かれた勢いをそのまま利用して、地面スレスレを水面蹴りして掻い潜る。


「そう来ると思っていたぞ!!はっ!!」


 デスナイトの足を勢いのまま振り払い、その体勢を崩す。

 回転をしたまま背後を向けて倒れて行くデスナイトは、僕からすれば格好の的。

 兎にも角にも無防備な状態だ。


「まだだ!!くらえ!!」


 僕は更に、水面蹴りからの勢いを利用して、身体の回転軸を横から無理矢理、縦へと切り替えた。

 水面蹴りからの胴回し蹴り。

 そうして相手の背中を通して、核付近に勢い良く踵を落とした。

 バキバキと骨が砕ける音。

 だが、核そのものにはダメージを与えられていなかった。


「ヴァーーーー!!!」


 デスナイトは骨が砕けようが、ボキボキに骨が折れようが、全く関係が無い。

 それどころか、回転の勢いそのままに身体を捩じ切ったのだ。

 下半身はうつ伏せなのに、上半身は仰向け。

 かのエクソシストもお手上げと言うものだ。

 そうしてデスナイトは身体の上に乗っている僕の方へと無理矢理向き直し、剣を下から突き上げた。


「そうだよな!!これくらいじゃあ、止まる訳が無いよな!!」


 僕は、デスナイトに痛覚が無い事を確認している。

 相手の骨を折ったくらいでは止まらない事を。

 それが解っている僕も、決して手を休めない。

 下から突き上げて来る攻撃を、僕は独楽のように一回転をして弾いた。

 しかし、デスナイトは身を鎧で包んでいる為、上から“切る”事が出来無い。

 だが、“叩いて”壊す事が出来る。

 正直、これは剣を扱う者として、頂けない行為だ。

 僕は剣を剣として扱うのでは無く、かのオルグが使用したように剣を鉄の塊として、デスナイトを破壊して行く。


「武器の使い方には問題があるだろう。だが、このまま、お前を破壊する!!」


 僕は、剣で相手の部位を破壊するように攻撃を加えて行く。

 叩いて、叩いて、叩いて。

 先ずは、ツヴァイヘンダーを持っている右腕。

 次に、タワーシールドを持っている左腕。

 下半身は、デスナイト自身が捩じ切って切り離しているので放って置く。

 そうして残ったのは、デスナイトの頭と胴体だけ。

 だが、核の部分は、一際硬い鎧で頑丈に守られていた。


「だが、これでもうお前は何も出来ないよな!!ここから先は、根を上げた方が“負け”だ!!」


 僕は、鉄の塊を振り回して、鎧の上から叩き付けて行く。

 相手の鎧が壊れるまで何度でも。

 何度でも。

 何度でも。

 すると、鉄の塊を持つ僕の手からは、皮が捲れて血が滲んでいた。

 手を濡らす赤い液体。

 気が付けば、皮と鉄が擦れてドス黒い赤へと変色をしていた。

 そうして鉄の塊とデスナイトの鎧がぶつかる度に、その衝撃が、僕の手首、腕、肩へと駆け巡って行く。

 だが、僕は手を止めない。

 何度でも。

 何度でも。

 何度でも叩き付けて。

 僕の攻撃がデスナイトの核に届くまで。

 手から流れる鮮血が宙を舞う。

 剣だった鉄の塊は、その破片が宙に散らばっていた。

 身体が壊れだしても、武器が壊れだしても、それでも手を止めない。

 すると、ようやく兆しが見え始めた。

 相手の鎧に亀裂が入ったのだ。

 僕はデスナイトでは無いけれど、痛覚をお構い無しに攻撃を繰り返す。

 手が壊れようが。

 腕が折れようが。

 肩が外れようが。

 痛みが全身を駆け巡っていた。

 だが、それ以上に脳内麻薬(アドレナリン)が過剰分泌され、痛みを放棄して行く。

 既に、壊れている身体で、更に、叩き付けて行く行為。

 そう。

 一心不乱に、我武者羅に。

 すると、相手の鎧の亀裂が広がり、遂に破壊する事に成功した。

 鎧は完全にその役割を失ったのだ。

 鎧から、骨から、その両方から剥き出しになった核。


「言っただろう?先に根を上げた方が負けだって。どうやら、我慢比べは僕の“勝ち”だ!!」


 僕は、核に向けて最大の一撃を叩き込んだ。

 渾身の一振り。

 そうして核を破壊されたデスナイトは、その形を維持出来なくなり、骨が砂のように砕けて行った。

 宙にサラサラと流れて行く骨。

 そして、デスナイトの魂が僕へと流れて込んで来た。


「終わった...」


 戦闘が終わった事を認識した僕。

 すると、脳内麻薬(アドレナリン)が切れて、痛みが脳を支配していった。


「ぐっ!?」


 僕の身体の全てが痛みによって支配されている。


「ぐっ...。はっ、はは、はははっ!!全く...不細工な戦闘だったな...」


 剣技を練習するつもりだったものが、全くその意味を成さなかった。

 しかも、バスタードソードはボロボロだ。

 もう、剣の形すら残っていなかった。


「まさか、こんな形になるとは...でも」


 思い通りの戦闘では無かった。

 剣を振るった時も、イメージ通りには触れていない。

 相手を“斬る”感覚には、まだ程遠い。

 だが、それでもだ。


「僕は、やり切ったぞ!!」


 今回の戦いで、僕が得たもの。

 正攻法では無い戦い方に、諦めない忍耐力。

 そして、最後まで意思を貫く精神力。

 不細工な戦いながらも、自分の信念を貫き通したのだ。


「これで、依頼達成だ!!」

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