第29話 フレイムウルフ討伐

 全身が炎で出来た狼。

 メラメラと燃え上がる身体(炎)は、周囲の温度を否応無しに引き上げる。

 フレイムウルフの肉体は炎で形成されている為、骨や内臓などの器官が見当たらない。

 この魔物は、核によって活動する魔法生命体だ。

 そのフレイムウルフが、僕の目の前に5体。

 僕を囲むように広がっていた。


「次から次へと...キリが無いな」


 火山地帯で異常発生したフレイムウルフの討伐。

 これが今回の討伐依頼だ。

 僕は、目の前に大量発生しているフレイムウルフを、宙に浮かんだ状態で魔力弓で攻撃をしている最中。

 だが、何度フレイムウルフを倒しても、何処からか直ぐに目の前に現れては、戦闘を繰り返していると言う異常事態。

 相手は魔法生命体で、心臓となる核を破壊すれば一撃で倒せるとは言え、あまりにもフレイムウルフの数が多いのだ。


「あの炎の塊に囲まれているだけで、体力を消耗するって言うのに...」


 それもその筈。

 炎は、燃焼するのに最低でも400度が必要になる。

 振り幅が大きいがマッチで400度から一1,500度。

 蝋燭の火で700度から1,400度。

 ライターで800度から1,000度。

 白い炎の太陽(地球から見た場合オレンジ色に見える。これは地球の地表にまで他の色が届かない事が理由で、オレンジ色に見えているだけ)で約5,000度から7,000度。

 それらを超えると、炎の色は再度、色が変わり、青色と変化をするのだ。

 これらの事を踏まえて、フレイムウルフの燃え上がる色から、僕が感じる体感から、2,000度から3,000度の間だろう。

 ただ、凄いのはこれだけ燃え上がっているのに、酸素を必要としていない事。

 太陽のような核融合の場合は別となるが、少なくとも燃焼には酸素が必要なのは明白。

 しかも、これだけ高温を発していると言うのに、周囲の物が発火をしない不思議。

 通常、周囲の温度が上昇する事で、それに伴って物体の温度も上昇し、化学反応の速度が増して行く。

 すると、その化学反応に生ずる発熱が増え、その物体の温度が上昇して行くのだ。

 そうして上昇が繰り返される事で、物体の瞬間発火温度に到達してしまい自然発火が生じてしまうのだが、此処ではそれが無い。

 流石は、魔法世界と言う事だ。


「更に、動き回るフレイムウルフの核を狙わなければいけないだなんて...」


 集中し辛い環境の中。

 無理矢理、集中をしなければならない状況。

 この時点で、既に僕は邪念を抱えている訳だが、今のところ、フレイムウルフの核を狙えるくらいには集中が出来ていた。

 だが、フレイムウルフは仲間が直ぐに駆けつけて来てしまい、目の前で延々と増えて続けている。

 まあ、今のところは、フレイムウルフが増えるスピードよりも、倒すスピードの方が速い事が救いだった。


「暑さで意識が鈍るよ...暑さ対策はしっかりとしている筈なのに」


 僕は火山帯に入ると言う事で、耐熱装備を一式揃えていた。

 ファイアリザードの革帽子。

 ファイアリザードの革鎧。

 ファイアリザードの革靴。

 全て革で出来た装備だが、現状購入出来る耐熱装備の中では、随一の性能を誇っている代物だ。

 しかも、革なのに通気性も良く、体感温度を下げてくれる優れものだ。

 装備品は染めていないのに、最初から炎のように波打つ模様が特徴的で、赤色が目立つ。

 これだけ万全の装備を整えて来たと言うのに、異常なフレイムウルフの数によって装備の効果が正常に発揮出来ていなかった。


「この魔法世界では、環境に適応する事が一番大変かも知れないな...攻撃や魔法やスキルは、技術で何とかなるけど...こればかりは、言ってしまえば精神論になってしまうから...」


 この火山帯は何もしなくても汗が浸たる環境。

 少し動いただけで蛇口を捻ったかのように汗が溢れてしまう。

 僕は、止まる事の無い汗を拭いながら、一生懸命にフレイムウルフを倒して行く。


「他の討伐依頼と比べれば、まだ敵が弱い事が救いか...これ以上、体力を消耗する事は遠慮したい!一気に片付けるぞ!」


 魔力弓を縦持ちから横持ちに構えを変えて、魔力矢の本数を増やす。

 消費魔力が増えてしまうのと、全ての魔力矢をコントロールする事に膨大な集中力が必要になるので出来ればあまり使いたく無い技だ。

 弓を引く指の間に四本の魔力矢を作り出し、フレイムウルフに狙いを絞る。


「ワイドアロー!」


 通常なら、四本を平行に撃ってどれか一つでも当たれば良い撃ち方だ。

 だが、スキルのおかげもあり、僕は全ての矢を正確にコントロールが出来る。

 訓練と集中力の賜物だ。


「ワイドアロー!!」


 しかも、間髪入れずに連続で放って行く。

 そうして見る見る内に、フレイムウルフは核を失って倒されて行く。

 これは試練の間で骸骨兵達と戦闘した時に、命懸けの実践を演じた事で身に付いた技術だ。


「これで最後!終わりだー!」


 一度のミスも無く、最後の1体を仕留めた。

 やはり、攻撃だけに専念をしている時は暑さを忘れるようだ。


「終わった...」


 終わりを認識した瞬間。

 急に暑さを思い出してしまう。

 滝のように流れる汗。

 比喩で良く聞く言葉だが、まさか、自分が体験するとは思っていなかった。


「環境に耐性が付くまでは、火山地帯の依頼はなるべく受けるのを辞めておこう...」


 僕が、そう思った瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る