第28話 サンドスコーピオン討伐

「暑いなぁ...」


 場所は、プリモシウィタスを南下した砂漠地帯。

 装備に特殊効果を付与出来ない今の状態では、金属の鎧は灼熱の地獄と化す。

 基本、砂漠では魔法繊維で縫われた服に、太陽光を遮断するマントを羽織り、肌の露出を無くさなければならない。

 そうしなければ、太陽の日差しで肌を焼かれてしまうからだ。


「異様に...喉が渇くよ...」


 砂漠では水分補給も大切になる。

 照り返る太陽の日差しで、砂漠にいるだけで熱によって水分が奪われてしまい、身体の機能は低下をして行くからだ。


「しかも、歩く事がこんなにも大変だなんて...」


 砂の上はとても歩きにくいのだ。

 水分の少ない乾燥したサラサラの砂は、自重で簡単に沈んでしまうから。

 しかも、砂漠の所々では流砂が起きていて、砂に飲み込まれてしまえば、そこから脱出するだけで時間が掛かる。

 最悪、そのまま死ぬ事もあり得るのだ。

 幾らゲーム世界で超人的な能力を持つキャラクターに憑依していたとしても、こればかりは防ぎようが無い。


「身体の水分が足りなくて...喉や唇が張り付いてしまうな」


 砂漠は気温が、40度を軽く超え、暑い時には、50度を超す事などザラだ。

 地表面に至っては直接日射に照らされて加熱される為、70度を超えてしまう程。

 空気もカラッと乾いており、サラサラの砂が風によって宙を舞っている。

 ジリジリと熱波が広がる中、驚く程音の少ない空間だ。


「この暑さ...朝と夜で、そんなに温度差があるなんて信じられないよ」


 砂漠では、太陽光を遮る物(木などの自然や建造物)が何も無い事。

 地面が常に露出しており、日中だと太陽の熱で加熱されて蒸し暑くなる。

 夜は逆に、地表から逃げて行く熱を遮る物(コンクリート)が無い為、地面から熱がドンドンと奪われて気温が下がって行ってしまう。

 そして、水分が無い事。

 水は空気に比べて、熱しにくく冷めにくい性質を持っている。

 従来なら、水分がある事で日中に太陽熱をゆっくりと吸収し、夜にその熱をゆっくりと放出して行く。

 豊富な水があれば寒暖の差が小さくなるのだが、此処は、ほぼ水の無い場所。

 これら二つの要素が、真逆の温度差を生んでいたのだ。

 そして、僕が進む事、10分。


「...あれが、サンドスコーピオンか」


 目の前に見えて来た生物。

 体長が200cmを超えた、茶色いサソリだ。

 身体の前端の触肢(両手)に大きなハサミを持ち、後端に毒針を有する尾節を持っている節足動物。

 見た感じでは、ハサミは物体を挟む手の役割だけで無く、獲物を鋭く切る事が出来そうだ。

 尾節の毒針も、依頼を受ける際に冒険者ギルドで聞いた情報では、かなりの猛毒を持っており、とても危険な物らしい。

 当りどころによっては絶命もあり得るとか。

 サソリは前方の左右両端に三対以上の複眼を持ち、背甲の中心に一対の中眼を持っている。

 今のところ、現実世界のサソリの特徴や構造と何ら変わらないように見える。

 但し、その大きさや特性を除いてだが。


「あの表面の皮膚なのか甲殻なのかな?とにかく、あれが異常に硬そうだ...」


 目の前にいるサンドスコーピオンは1匹。

 周囲を見渡しても、他のサンドスコーピオンが見当たらなかった。

 これは好都合だ。

 一対一ならば、戦闘に集中するのは目の前の相手だけで済む。

 それなら、直接攻撃をするにもしても、魔法攻撃をするにしても、常に先手が取れるのだから。

 ただ、とにかくサンドスコーピオンの表面は硬そうだった。

 

「毒針に注意をしながら...先ずは、離れた位置から魔法で攻撃をしてみるか」


 危険な毒針を避ける為に、離れた位置から魔法で攻撃をしてみる。

 相手は名称から察するに土属性の魔物。

 もしくは、大地属性の魔物だ。

 上級属性には同じ上級属性で攻撃するのがセオリー。

 それならばと、氷属性の魔法を試してみる。

 現在、僕が使える上級属性魔法は、炎属性と氷属性の二つしか無い。

 何となくだが、砂漠地帯にいる魔物なので熱に強そうなイメージがあった為だ。

 まあ、最終的には燃やせないものなど無いのだろうが。


「それなら、氷属性で攻めてみるか」


 相手が気付いてない事を利用し、不意打ちを仕掛ける。

 僕は発動対象をサンドスコーピオンへと絞り、現時点で使う事の出来る氷属性魔法“アイスエッジ”を使用した。

 すると、対象の周りに青白い粒子が集まり始めた。

 その粒子はサンドスコーピオンを突き刺すように、4つの氷の塊が出来上がって行く。

 周囲に出来上がったその氷の塊は形を変え、剣のように鋭く尖って行く。

 一つの大きさが100cm近くあり剣と言うよりは氷の槍のように見えるが。


「貫け!アイスエッジ!!」


 魔法が発動し、対象に勢い良く氷の剣が刺さろうとした。

 だが、サンドスコーピオンの身体へと刺さる前に、氷の剣はその身体に触れる事無く先端部分から砕けて壊れて行った。


「え!?まさか、魔法が効かない魔物なのか!?」


 サンドスコーピオンが、魔法を無効化して弾いたのと同時。

 反撃をする為、一気に近付いて来た。

 サラサラしている砂の地面を問題とせず、足元を滑らせる事が無く真っ直ぐに進んで。


「思ったより動きは早いけど、こっちは空を浮いているぞ!」


 相手が地面を這って近付いて来るが、僕は浮遊を使用して空へと浮かび上がる。

 僕からすれば、気を付けなければならない攻撃は尻尾の毒針だけだ。

 相手の動向をしっかりと見極めながら物理攻撃へと移った。

 装備を瞬時に剣に切り替えて、サンドスコーピオンとのすれ違い様に斬り付ける。


「でやっ!!」


 その勢いのまま剣を勢い良く振り下ろした。

 だが、その攻撃はサンドスコーピオンの身体にぶつかり跳ね返されてしまった。


「硬っ!?」


 サンドスコーピオンを両断するつもりの攻撃が、「ガキーン!」と言う金属と金属が勢い良くぶつかった音を鳴らし、その身を守る堅い表面に弾かれてしまった。

 まあ、やはりと言うか。

 当初から危惧をしていた通りと言うか。

 今の僕の能力ではその表面を切断する事が出来なかった。


「やはり、見た目通りの硬さだよな...それなら、間接部分なら斬れるのか?」


 目の前にいるサンドスコーピオンは節足動物の鋏角類。

 身体は、前体、後体(中体、終体)とその二つで構成されている。

 前体の頭胸部だけでも節が癒合した合体節であり、繋ぎ目(間接)部分は多数ある。

 後体部分は、その前体よりも多く、腹部、脚、尾節と多数関節があるのだ。

 サソリの身体を覆っている硬い表面は僕の攻撃を通す事は出来なかったが、その間接部分は明らかに脆そうだ。


「後は、上手くそこに剣を当てられるかだよね」


 標的は生物。

 絶えず動き回っているもの。

 僕の攻撃をのんびりと待ってくれはしない。

 相手の動きに合わせて、ピンポイントで間接部分に攻撃を当てなければならないのだ。


「相手の動きを良く見た上で、更に、相手の動きに合わせて!」


 サンドスコーピオンが地面を這いながら再び僕へと近付いて来た。

 うん。

 動きは良く見える。

 スピードもこれなら問題は無い。

 ただ、問題なのは不規則に動いている尾節の部分だ。


「ならば、毒針のある尾節の部分から斬り落としてやる!!」


 危険な毒針を有する尾節部分から対処して行く。

 僕は、毒針に当たらないように大きく避けながら、サンドスコーピオンとのすれ違い様に尾節の繋ぎ目部分をピンポイントで狙う。


「このタイミングなら!!」


 鋭く振るった剣は間接部分へと見事に命中する。

 そして、その毒針ごと尾節部分を切断する事に成功した。


「よし、完璧!間接部分の脆さは思った通りだ!」


 身体の硬い表面部分を狙うのでは無く、繋ぎ目の脆い間接部分へのピンポイントでの攻撃。

 毒針さえ斬り落としてしまえば、怖いのはハサミだけしか無い。


「続け様にハサミを斬り落とす!!」


 同じようにハサミの攻撃に注意をし、そのハサミ部分の間接を狙って斬り落とす。

 既に、相手のスピードには目が慣れている。

 どんなに相手が動き回ったとしても、突拍子も無い攻撃をして来たとしても、僕はすぐさま反応に対応が出来るだろう。

 それに、相手は地上で僕は空中。

 そのアドバンテージをフル活用する。


「やはり、空に浮いているアドバンテージはでかい!!動きが丸見えだ!!」


 サンドスコーピオンは、自分の不利な状況などお構い無しにその巨大なハサミで切り付けて来た。

 だが、僕にはその軌道がハッキリと見えている。

 僕は、その攻撃を避けた後、直ぐさま反撃が出来る位置へと移動して行く。

 そして、その巨大なハサミを間接部分から切断した。


「迂闊な!!」


 僕は久々に、余裕を持って相手が出来る魔物と出会った。

 相手の動きがハッキリ見える上、空に浮いている状態なら毒針もハサミも全く怖く無い。

 そこからは相手の急所を探すように攻撃を重ねて行った。

 そうして、苦も無くサンドスコーピオンを倒すと。


「久々にオイシイ敵が現れたな!!これなら魂位の上昇と、スキルの上昇が狙えるぞ!」


 久々に相性の良い相手。

 更には、経験値を手に入れるには持って来いの相手だ。

 此処からは、一方的な狩りを始める。

 僕自身の能力を上げる為にも、スキルの熟練度を上げる為にも、僕が使用出来る武器を交代させながら戦闘をして行く。

 この砂漠に生息するサンドスコーピオンを全て駆りつくすようにだ。

 その結果。

 大幅に能力を上昇させる事に成功した。


『ルシフェル』

 称号:努力家

 種族:天使LV10 大天使LV5(+2)

 職業:魔法使いLV10 魔導士LV10 召喚士LV3


 HP

 1998/1998(+231)

 MP

 2952/2952(+212)


 STR 257(+18)

 VIT 215(+12)

 AGI 278(+22)

 INT 378(+12)

 DEX 196(+21)

 LUK 142(+12)


 [スキル]

 剣技LV5(+2) 短剣技LV8(+2) 格闘技LV9(+1) 杖技LV5 弓技LV9(+1) 鞭技LV1 鎌技LV3(+2)

 [魔法]

 火属性魔法LV10 水属性魔法LV10 土属性魔法LV8 風属性魔法LV9 白属性魔法LV1 黒属性魔法LV5 炎属性魔法LV2 氷属性魔法LV1 召喚魔法LV1

 [固有スキル]

 浮遊 飛行 魔力消費3/4

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