第27話 チュートリアル③ トレーニング

 僕は種族進化(レースエヴォリューション)を経た事で、自身の装備可能武器が増えていた。

 新たに増えた装備可能武器は、剣、鎌、鞭の三種類。

 今回は、その内の剣に絞ってトレーニングを行う。


「今のままじゃ全然ダメだ!!前回の反省を活かして、剣を扱えるようにトレーニングしなくちゃタメだな」


 前回、種族進化(レースエヴォリューション)をしてから直ぐに、剣を装備してクエストを受注したのだが、僕はその時の戦闘で魔物相手に思い通りに剣を振るう事が出来なかった。

 その時の失敗の感覚が残っている内に、チュートリアル室でトレーニングを行う。

 僕は部屋を移動する為、リビングからチュートリアル室に繋がるゲートを通った。


「このゲートを通る時...自分の意思で“そこ”にいる事が出来ない感じ...未だに、慣れないな」


 ゲートを通る際に一瞬、“無重力状態”へと陥る。

 上下左右、更には天地の位置が解らなくなる四次元の空間を通って移動をするのだが、その時の感覚が少し怖いのだ。


「異空間なんだろうけど、これはどんな原理なんだろう?」


 一歩踏み出せば、瞬時に部屋が移動している訳だけど、ゲートに入った瞬間は時の流れが淀んでいる気がするのだ。

 踏み外せば、二度と帰って来れないような。


「まあ、この空間について深く考えても仕方無いな。それよりも、剣のトレーニングだ!」


 チュートリアル室に辿り着くと、部屋の機能を変えられる端末がある。

 今回は魔物相手に剣のトレーニングをしたいのでコロッセオモードが目的だ。


「コロッセオモードは初めてだな...どんな感じなんだろう?」


 端末を弄り、チュートリアル室の空間をコロッセオモードに切り替える。

 すると、無機質で何も無かった空間は、一瞬でその内装が切り替わった。

 変化を遂げた内装はローマのコロッセオを参考に作られた建物で、中央には広大な円形の舞台が構えていた。

 大型の魔物とも戦闘が行えるよう、無駄に広い空間だ。

 客席は三階席まであり、東西南北の要所には個室で見られるVIP席が設けてあった。


「本当に、こういうところは無駄に凝っているんだよね。でも、このこだわりが、ゲームに対する真剣な想いを感じられて、熱中すると言うか、かなり楽しいんだよね!」


 ゲーム内のどれをとっても手抜きの箇所が一つも無く、そのクオリティの高さがこのゲームの人気の一つでもある。

 しかも、現実世界の感覚が共有出来ているので、此処が擬似世界と言う事を忘れる程に。


「じゃあ、早速、エンドレスモードでトレーニングしてみよう!」


 こちらが舞台から降りるまで、無間に魔物が湧き出て来るエンドレスモードを選択をする。

 条件は一対一。

 もしくは、一対複数と選ぶ事が出来る。

 僕は一対一を選択した。

 目の前の敵だけに絞って剣のトレーニングをしたいのだ。


「出来れば、今日中に相手を“斬る”感覚が掴めると嬉しいんだけどな...まあ、力があるから無理矢理、相手を“切る”事は出来るんだけどさ」

 

 魂位が上がり、それに伴ってステータスも上昇している。

 初期状態でオリンピックのメダリストと同じくらいの身体能力だった事を考えると、今ではもう人外の域に達しており、無理矢理相手を力で切る事が出来てしまう。

 だが、それは剣の特性を活かしている訳でも、技術で対応している訳でも無い。

 僕は相手を斬れるようにしたいのだ。

 すると、コロッセオの舞台に魔物が出現がする。


「出たな、ゴブリン!...感触を確かめるには丁度良い相手だ!」


 ゴブリン相手に剣での戦闘を繰り返して行く。

 今の僕にとっては相手の防御力は紙のようなもので、一撃で屠る事が出来てしまう。

 だが、その時の感触は太刀筋によって全然変わって来てしまう。

 最初は、剣を無理矢理ぶつけて力付くで裂いて行く感覚がずっと続いていた。

 剣の刃の部分を全く活用が出来ていないのだ。

 剣を振り下ろす。

 もしくは、切り上げる動作が速いだけの、技術では無い身体能力に頼った攻撃だ。


「剣の切れ味に振り回される事は最低だけど、剣で“斬る”事が出来ない事も最低だからな」


 ゴブリンを倒す毎に、リポップするエンドレスモード。

 休まずに攻撃をする事で、斬ると言う感覚を身体に無理矢理覚えさせる。

 何度も何度も繰り返す事で、叩いて裂く感覚とは違う切る感覚を得る。

 それは、剣の重さを利用して相手を切断する感覚。


「うん。だいぶマシになって来たけど、これでは、まだまだダメだな」


 今の感覚では、まだ相手を“切る”と言う感覚。

 僕が求めているのは、自身の理想に技術が融合した“斬る”と言う感覚。

 例えるなら、紙をハサミで力を入れずに刃をスーッと動かすだけで“斬る”感覚。

 この“斬る”と言う結果を、どんな相手にでも、どんな物にでも出来るようにしたい。


「この技術が身に付くまで、ひたすら“切る”しかないな」


 結局、一日掛けて魔物相手に“切る”事をして来た訳だが、斬る”感覚はさわりも得られなかった。

 それも仕方が無い事。

 一朝一夕で身につく技術では無いし、その筋の専門家が一生を掛けて習得出来るか出来ないかの技術なのだから。

 だが、確実に成長をしている。


「目指すは、NO.1!いずれ、全てを“斬る”ようにしてやるぞ!!」

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