第26話 フロストバード討伐
此処は、プリモシウィタスから北北東に行った雪山(フロストマウンテン)。
冒険者ギルドの討伐依頼でこの場所を訪れていた。
「寒っ!!」
僕は、あまりの寒さに、勝手にブルブルと震えてしまう。
防寒具をしっかりと身に纏っていると言うのに、この場所は、それを軽く凌駕する凍てつくフィールドになっていた。
ちなみに、身に纏う装備は寒さを低減する、フロストベアーの毛皮で一式揃えてある。
今回は雪山と言う事で、金属で出来た装備を除外しているのだ。
この雪山で金属の装備では一瞬で冷やされて装備が肌にくっついてしまうからだ。
状態異常の凍傷で動きが低減してしまう為(特殊効果が付与された装備は除外される)。
「装備で防寒の効果があると言うに、この寒さって...早く、依頼を終わらせよう!!」
場所は雪山の為、出現する敵は氷属性の魔物。
その氷属性は上級属性の一つだ。
僕の魂位では、氷属性魔法は、まだ覚えたばかりで使えるものは攻撃魔法しか無かった。
もう少し氷属性魔法の位階が高ければ、寒さを防げる防御結界が使えたのだが、使えないものは仕方ないだろう。
ならば、依頼を早く終わらせてさっさと街に帰還する方向へとシフトする。
(こんな場所で長居をしていたら、凍え死んじゃうよ...)
そうして雪山を登った中腹地点。
目の前に見えるのは崖だ。
この場所が、依頼に指定されている場所で、フロストバードの巣がある場所。
「僕は飛べるから崖は関係無いけど、これは相当、足場が悪い場所だな...」
僕は、固有スキルで浮遊と飛行の二つを所持している。
この固有スキルのおかげで崖から落ちる事は先ず無いが、これらの固有スキルが無いプレイヤーにとっては、かなり厄介な場所となる。
「お目当てのフロストバードは...結構いるな」
依頼にあった通り異常発生と言う事で、ギルドの報告では最低でも10匹以上居るとの事だった。
だが、目の前には20〜30匹程いる。
「...全部で27匹か。何だか、依頼の内容より多くないか?」
数が多くなるだけで、討伐を達成する事は難しくなる。
それは標的に囲まれてしまう可能性が増えるからだ。
しかも、相手は空を飛べる鳥。
前後左右の四方向に加えて、空からの縦横無尽な攻撃。
策を持たずに相手する事は不可能だ。
それで無くても上級属性の魔物。
容易では無い。
「さて、どうしようかな?相手が上級属性では、こちらの魔法も上級属性じゃ無ければ、ちゃんとしたダメージを与えられないからな...」
厄介なのは、フロストバードが氷属性と言う事だ。
僕が魔法で攻撃する場合。
同じ上級属性の魔法じゃ無ければ、ダメージが軽減されてしまうのだ。
ただ、相手はBOSSでは無い。
急所を貫けば一撃で倒せるし、魔法による攻撃も、当りどころさえ悪く無ければ一度で倒せる。
それだけが僕にとっての救いだった。
「炎属性の魔法なら楽勝で倒せるでしょ!!...って、まあ、詠唱のせいで連発が出来ないんだけどね」
詠唱時間がある為、戦闘中に呪文を唱えていたら容易に囲まれてしまう。
ならば、勝負は戦闘前と言う事だ
「そうなると、最初に炎属性魔法を一発放って、後は、地道に物理攻撃で攻めるしか無いか...」
状態や状況的にも、それ以外の選択肢が僕には無かった。
相手が僕に気づく前(戦闘前)に魔法で大多数を倒した後、フロストバードに囲まれる前に物理攻撃で倒して行く。
飛行と浮遊を併用した空間攻撃なら、問題無く討伐は出来るだろう。
僕の身体の負担さえ気にしなければだが。
「じゃあ、炎属性魔法の準備をして...」
相手が気付く前に、炎属性魔法の準備へと移る。
ただ、炎属性魔法も覚えたばかりで、使用出来る魔法はフレイムのみしか無い。
この名称だけ聞くと、火属性魔法のファイアとあまり変わらないように思えるだろうが、フロストバード程度の相手なら、一度で燃やし尽くせる魔法だ。
「“火”遊びとは違う、本物の“炎”を味わうがいい!燃やせ!!フレイム!!」
まだ、僕に気付いていないフロストバード達に炎が広がって行く。
色は、赤よりも黄色と白が混じったような、太陽の表面の色に似ている。
フロストバードは、その炎に触れた瞬間。
骨も残さず消し炭と化した。
周囲の雪も一瞬で溶けて、そのまま蒸発して行く。
この寒い場所で、湯気が立つ程の熱だ。
僕は、その最初の一撃で、5匹のフロストバードを倒す事に成功する。
そして、続け様に飛行を使用し、フロストバードが密集している場所へと飛んで行く。
「続けて行くぞ!!」
その場所に密集しているフロストバードは、4匹。
飛行で飛んでいる最中に装備を剣に切り替えて、4匹のフロストバードの首を刎ねて行く。
「固まっている事を憾め!!」
だが、周りにいたフロストバード達が魔法攻撃に気付いた瞬間。
各々、別々の行動を開始していた。
あるものは、氷の翼を鋭く尖らせて、氷の羽を飛ばして来る。
あるものは、凍て付く息を僕に向けて吐き出し、周囲を再び凍らせる。
あるものは、僕目掛けて飛翔し、その鋭い嘴や爪で切り裂いて来る。
「くっ!?攻撃の種類が多い!?」
空間に四方八方と広がるフロストバードと、そのバラバラな攻撃。
僕は、その近付いて来る“もの”を順番に把握して行く。
それは、標的であるフロストバードであり、もしくは、放たれた攻撃をだ。
そうして俯瞰した空間を把握した瞬間。
フロストバードの攻撃よりも、僕に飛んで来る氷の羽の方が速かった。
「だが、全て見えている!!」
集中が増している今の僕は、その氷の羽一つ一つが鮮明に見えていた。
氷の羽の軌道を読み取り、攻撃が当たらない場所をすり抜けて行くように、身体を捻りながら飛行して行く。
此処までが、一瞬の間に起きていた。
「...」
今は程良く、僕の集中が増している状態。
考えてから行動をするのでは無く、思考と行動が一体化しているような、そんな風に感覚が研ぎ澄まされていた。
氷の羽を抜けた先では、フロストバードの凍て付く息が広がり始めていた。
僕はそこで無理矢理、固有スキルの浮遊を動きを止める為だけに使用した。
これは、決して正しい使用法では無い。
何故なら...
「身体をむりやり止めて!!ぐっ!?」
この時点で、脳の情報処理に、身体への負担が危険信号を鳴らし始めた。
脳の毛細血管は切れ、鼻から血が垂れている。
身体は関節がギシギシと軋み、筋肉が断裂している。
だが、脳内に溢れるアドレナリンが痛みを無理矢理、除外した。
凍て付く息が触れないギリギリの場所で、動きを無理矢理止めると、僕の両脇からフロストバードが迫って来ていた。
「解っている!!甘いぞ!!てやっ!!」
身体を回転させて、対面して向かって来る、二匹のフロストバードを頭から真っ二つに両断する。
一回転をしたところで、その勢いを利用して空中を蹴り上げ、更に上空へと飛行して行く。
「はっ!!そのまま一気に!!」
ある程度の高さまで上昇したところで、天地をひっくり返したように逆向きに止まる。
そして、魔力で放つ弓矢へと装備を切り替えた。
「黒纏の弓!!そこだ!!」
上空からフロストバード達を見下ろすように、魔力矢を練成し、一度に4本の魔力矢を複射する。
その放たれた魔力矢は、僕の狙いから一ミリもズレる事が無く、4匹のフロストバードの脳天へと突き刺さった。
「残り12匹!!」
次の魔力矢を用意しようと弓を引いた時。
僕の俯瞰視で捉えきれていなかったフロストバードが、僕の背後から鋭い爪で襲い掛かって来ていた。
「なっ!?後ろからだと!?それなら!」
その攻撃を受ける寸前。
僕は瞬時に身を捻り、攻撃を避けようとするが、爪の斬撃が僕目掛けて飛んで来ていた。
「...え!?斬撃が飛んで来ている!?」
僕は、飛んで来る斬撃を避け切れずに被弾してしまった。
「がはっ!?」
フロストベアーで出来た毛皮鎧を切り裂き、脇腹の肉を抉られた。
僕の脇腹から溢れ出る血が、毛皮を赤く染めて行く。
一瞬、その激痛が僕の意識を支配するが、既に目の前には次の攻撃が飛んで来ていた。
痛みに抗うしか無いのだ。
「くっ!!だが、止まっている暇など無い!!」
広範囲に広がる氷の羽。
そして、僕を囲うように飛んで来る斬撃。
身体を無理矢理動かさなければ、全ての攻撃を被弾してしまう状況だ。
だが、どうやら抜け道が無いらしい。
その攻撃を貰うしかないのだ。
「攻撃の弾幕に埋め尽くされているだと?」
それならばと、僕は覚悟を決める。
どうせ避けられないのなら、攻撃を避けるのを止めてしまえと。
攻撃の雨の中を飛行で自ら突っ込み、被害を最小限に抑える。
腕で頭を守るようにクロスさせて、身体を弾丸のように回転させてだ。
だが、鋭利に尖った氷の羽は容赦無く僕の身体へと刺さって行く。
「ぐっ!!どうせ攻撃を貰うなら...最小にとどめてやる!!」
血が全身から流れ出ている事が解る。
だが、ギリギリ急所は守っている状態だ。
それに、アイテムを使用して回復をしている暇など無い。
血を流していても、全身が悲鳴を上げていても、先にフロストバードを倒す事が僕の安全に繋がるのだから。
自分の生命を天秤に掛けなくてはならない最悪の状況。
だが、動きを止める事は絶対に出来無い。
そうして攻撃の雨を抜けながら地面に辿り行くと、水泳の折り返しターンをするかのように、地面を蹴飛ばして再び上空へ浮かび上がった。
「はっ!!」
誰かが言った事だ。
“ピンチの後はチャンス”。
今、まさにそうなった瞬間。
見事、バラバラに散ってくれているフロストバード達。
この散ってくれている状況なら容易に対処が出来るのだと。
「覚悟しろ!!ここからが、反撃だ!!」
更に、身体に鞭を打つように、飛行と浮遊で空間を支配するように暴れ回る。
フロストバードを、僕に近いものから斬り伏せて行くのだ。
11匹。
10匹。
9匹。
身体から失って行く血。
だが、止まる訳にはいけない。
「まだだ!!殲滅する!!」
8匹。
7匹。
6匹。
空中で花火のように血が舞う。
脳も酸欠に近い状態だ。
「あと少し!!」
5匹。
カウントダウンが始まる。
4匹。
身体が冷えて、感覚もなくなり始めている。
3匹。
目が虚ろで、視界が狭くなって行く。
2匹。
血は、既に身体から流れるものが無くなっていた。
1匹。
そうして最後のフロストバードを仕留めた瞬間。
僕は飛行の勢いを止められず身体が地面へとぶつかってしまった。
それは地面が陥没する程の衝撃。
僕の身体が雪山に埋まって行く。
「!?」
衝撃や痛みが凄いのに、声を出す事も出来ない状態だ。
ぶつかった右側面の身体は、腕、あばら、腰、足と粉砕骨折をしている状態。
だが、脳は動いているし、心臓も動いている。
まだ、辛うじて生きているのだ。
左手で無理矢理アイテムバックから、エクスポーションを取り出し、急いで飲み込む。
だが、思ったよりも自身の吸飲力が低下していた。
エクスポーションが喉を通らない。
(飲み込めない...くそ...むりやり手で)
喉の途中で止まっているそれを無理矢理身体の中へと押し込んで行く。
そうしてエクスポーションが喉を通った時。
一瞬にして僕の苦しさや倦怠感が消え去った。
すると、全身の身体の痛みが引き、それまでに負っていた怪我や体力が元通りとなった。
「くはーっ。なんとか...ギリギリだった」
仰向けになり、息を整えて行く。
痛みは無い。
怪我も治った。
視界も元に戻っている。
「まだまだ、弱いな...」
僕は、毎日欠かさずラグナロクRagnarφkをプレイしている。
この世界はゲームだが、きっと誰よりも長い時間、真剣に向き合っている。
それでもまだ、瀕死になってしまうのだ。
「最強は遠いな...だげど、だからこそ目指しがいがあるんだよね」
当たり前の事だが、最強とは、そんな簡単なものでは無い。
だが、他人と比較した事の無い僕は知らなかったのだ。
この依頼は、パーティで挑まなければならない討伐依頼だと言う事を。
そして、既にプレイヤーとして規格外な事を。
『ルシフェル』
称号:努力家
種族:天使LV10 大天使LV3(+1)
職業:魔法使いLV10 魔導士LV10 召喚士LV3(+1)
HP
1767/1767(+226)
MP
2740/2740(+282)
STR 239(+14)
VIT 203(+11)
AGI 256(+16)
INT 366(+21)
DEX 175(+10)
LUK 130(+10)
[スキル]
剣技LV3(+1) 短剣技LV6 格闘技LV8(+1) 杖技LV5 弓技LV8(+1) 鞭技LV1 鎌技LV1
[魔法]
火属性魔法LV10 水属性魔法LV10 土属性魔法LV8 風属性魔法LV9 白属性魔法LV1 黒属性魔法LV5 炎属性魔法LV2(+1) 氷属性魔法LV1 召喚魔法LV1
[固有スキル]
浮遊 飛行 魔力消費3/4
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます