第12話 アルヴィトル②

「ルシフェル様、おはようございます」


 リビングに行くと、アルヴィトルから自発的に挨拶をしてくれた。

 “人”としての成長が早い。

 アルヴィトルはNPC(Non Player Character)というラグナロクRagnarφk世界の住人。

 成長型の人工知能を搭載しているアルヴィトル。

 もともと登録データと言う膨大な知識があったAIに、所作や対応の仕方と、様々な事象に合わせて常にアップデートを繰り返している。

 一度見た物、一度覚えた物は忘れないそうだ。

 それは、成長が早い訳だよ。


「アルヴィトル、おはよう」


 僕が挨拶を返すと、少し照れたような、嬉しそうな表情をしていた。

 自然な笑顔の表情。

 見ているこっちが嬉しくなる。


「今日は、どうしようかな?」


 一日の始まりと共にログインをして、今はリビングに移動したばかり。

 木造で出来た椅子に座り、今日の予定を考える。

 冒険者ギルドで依頼を受けるか?

 チュートリアル室に行って練習をするか?

 僕がどうしようかと考えていると、視線の端に姿勢を真っ直ぐ伸ばして待機しているアルヴィトルが目に入った。

 初期状態の戦乙女(ヴァルキュリー)仕様の鎧を身に纏ったままだ。


(そう言えば、アルヴィトルの着ている衣装って、変更出来るんだっけ?)


 早速、アルヴィトルに尋ねてみる。


「確か、アルヴィトルの衣装は変更が出来るんだよね?」

「はい。ルシフェル様の任意で変更が出来ます。現状ですと、鎧を装備した“ヴァルキュリー”形態か、ミズガルズ世界の村人の格好をした“村人”形態がございます」


 現状、青を基調とした黄金で装飾された鎧を身に纏う姿。

 女性と言う事もあり、全身鎧では無く、頭、胸、肩、腕、腰、脛を部分的に守るような装備になっていた。

 鎧の下には、白い法衣のような、ドレスのようなヒラヒラとした物を着ている。

 デザインや装飾は繊細で豪華。

 一目で解る、かなり上質な品物だろう。

 もう一つの衣装は村人らしい。

 どうやって変更するんだろう?


「じゃあ、その村人の衣装に変更する場合は、どうすれば良いの?」

「それでしたら、少々お待ちくださいませ」


 アルヴィトルが一礼をした後、背筋を真っ直ぐ伸ばした。


「村人の衣装に、変更しますか?」


[YES/NO]


 おお、そうなんだ。

 選択肢が出て来るんだね。

 今の仕様だと、衣装変更(ユニフォームチェンジ)面倒臭いかもな...


[YES]


「では、衣装を変更致します」


 アルヴィトルが宣言をすると同時。

 身に纏う装備品が光輝いた。

 周囲から魔力の粒子が集まり、その形を変えながらアルヴィトルを包み込んで行く。

 鎧の状態からグニャグニャと装飾の凹凸が無い形へと変化を始め、アルヴィトルのボディラインに合わせた形へ変化をして行った。


(わっ!スーパーヒーローの変身みたい!)


 鎧を装備していた時は、気付かなかった(そのスタイルが解り辛かった)が、アルヴィトルはメリハリのある身体をしていた。

 大き過ぎず、小さ過ぎず、全体と照らし合わせてバランスの取れている綺麗な胸。

 引き締まったくびれのウエスト。

 上向きにつり上がった丸みのある形の良いお尻。

 全てにおいて、そのバランスが取れていた。

 徐々に変化が治まると、最後に一段と眩しく光を放った。


「眩しっ...!」


 発光が治った時、アルヴィトルの姿が変化をしていた。


(これが村人...の格好?)


 ウールで出来たその衣服は、灰色が少しくすんだような色で、ウールそのものの色をしていた。

 その衣服の上から、足下まであるショールを肩から掛けて、皮で出来た靴を履いている。

 頭には、首下まで垂れた頭巾をかぶっており、髪の毛、首、耳を覆い隠していた。

 中世時代の庶民のような格好をしているのだが、その時代の庶民は農民の格好が基本。

 そうして容姿の変化が終了し、落ち着いたところでアルヴィトルが話し掛けて来た。


「こちらで、衣装の変更が完了致しました」

「凄いな!一瞬で変更出来るんだね!」


 アルヴィトルは見た目やスタイルが際立っているが、衣装が変わればその見た目の印象もだいぶ変わる。

 先程までは、豪華な装飾を施されていた戦乙女(ヴァルキュリー)形態だから余計にそう感じてしまう。

 綺麗だけど、やはり大衆的な庶民さと言うものを感じる。

 どうやら、衣装を変更する時はアルヴィトルに尋ねれば良いみたいだ。

 今は、衣装の変更が二種類しか無い。


(見た目だけで、こんなに印象が変わるんだね...他の衣装を着た時は、どう変わるんだろう?)

 

 アルヴィトルの説明では、衣装を店で購入するか、自分で作成するかの二つ。

 ただ、このようにサポーターの衣装を変更出来る事は、様々な変化があって楽しいかも。

 アルヴィトル本人も衣装が変わった事に嬉しそうな反応を示していた。

 やはり、お洒落を気にする女性なんだな。

 うん。

 お金を貯めよう。

 貯めに貯めて、もっと喜んで貰おう。


「これからは、アルヴィトルに似合う衣装を用意するね!」

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