アジアの憲兵
成立した中華民国だが、当然、国家としての機能など即日出来るハズがない。
全て清王朝の旧役所を引き継いでいる。
看板が変わっただけなので中身は変わらず、腐敗が横行している。
その様子を報道すれば、世界の人々は幻滅するだろう。
「日露戦争の時色々と手伝ってくれたのに酷いわね」
日本が外人部隊を編制できたのは多数の中国人が志願してくれたから。
その多くは孫文を初めとする革命派の支持者であり、孫文の呼びかけがなければ、集まらなかっただろう。
「それはそれ、これはこれだよ。革命派のために途中除隊を認めたんだから」
辛亥革命が始まると中華民国に合流しようという希望者が大勢出た。
契約期間満了前だったが、鯉之助は除隊を認めて送り出した。
満州帝国として清王朝を存続させるため、反発されるのを恐れて不安要因を排除する目的もあったが。
「それに、支援しているのは僕たちだけじゃないからね。アメリカも虎視眈々と狙っている」
革命派を支援するためカリフォルニア州で中尉か民国の兵隊を訓練している。
孫文がアメリカで作り上げたパイプの一つであり、アメリカも中華民国に貸しを作れると考えて、援助していた。
「対抗する為にも、清王朝を完全に滅ぼすわけにはいかないよ」
「けど結局、満州をあなたが確保したいんでしょう」
「その通り」
日露戦争で血を流して獲得した満州だ。
今後末永く日本の為に役に立って貰いたい。
資源開発も始まったばかりなので、資金の回収のためにも中華民国に奪われないよう確保しておきたい。
「だから、中華民国から切り離して清王朝の後継として独立させ、それを日本が後押しし、その代わり満州の日本の権益を認めさせる。これが目的だ」
「そのためにモンゴルやチベット、ウイグルまで独立させるなんて。中華民国が宣言した領土の殆どがなくなってっているじゃないの」
「そこはチベット族などの少数民族の領土だし漢民族の領土じゃない。支配させたら不幸になるだけ」
「極東の憲兵として、後見役としての義務まで負う必要があるの」
「勿論、役得はあるよ。たとえばチベットまで行くのに内陸部を、中華民国を通る必要があるからその途中で色々と買い物したり、情報収集することだって出来る。ああ、独立を承認し後見役となった欧米列強も行くだろうね」
チベットやウイグルの独立を守る為の名目で中華民国の中を通りその途中で貿易を行う、権益を確保出来るのだ。
さらにチベットとの交流促進を名目に鉄道を敷設することも可能だ。
欧米列強も日本の提案に喜んで賛成するだろう。
「これで完璧。あとは宣統帝を奉天、いや新京へ連れて行き満州帝国の建国を宣言。日本と同盟関係を結べば完璧だ。勿論、モンゴルやチベット、ウイグルにも行く」
「そして、保護国化。それらの国も海援隊のネットワークの中、決済システムに組み込まれる訳ね」
「そういうことだ」
「中華民国もその中に入るの」
「勿論」
英仏にも金準備をさせるが、決済機能は中国には握らせない。
新国家のため信用がなく海外と貿易が出来ない状況だ。
嫌でも信用のある日本の保証が必要になる。
せいぜい高く売りつけて中国市場を日本が掌握できるようにしようというのが鯉之助の魂胆だ。
「中国は踏んだり蹴ったりね」
「まあ、それほどでも」
「まだ何かあるの?」
鯉之助の性格上、このような言い方だとまだ何か企んでいるのは長年の付き合いから介してる。
実際、鯉之助の企みはこれでは終わらず計画の一部を告げた。
「中華民国は各省が集まって成立する。だが、孫文兄ちゃんは、中央独裁を考えている。まあ、改革にはその方が都合が良いけど半分皇帝として君臨したい思惑もあるだろう。けど、各省にいる権力者達は面白くないだろうね」
「そうね」
中国統一の美名の元、各省、各軍閥の権力者は自分の権限を孫文に奪われるのだ。
自分の物を奪われる事ほど人が嫌うことはない。
「その時、各省の有力者、軍閥に囁くんだ。満州帝国のように独立しませんか? とね。日本を含む列強の後見もおつけしますよ」
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