アメリカの外交事情と日本の工業力の意味

 フランス大使の言うとおり、白色艦隊に対する姿勢がアジア各国で違う。

 鯉之助の活躍で平和ムードになった南米三カ国だったが、日露戦争後は再び互いにいがみ合い始めていた。

 そのため合衆国を引き入れようと、どの国も白色艦隊を歓迎していた。

 外交的儀礼文書の一文からアメリカがポルトガルと同盟するというデマが流れ、アルゼンチンが慌て、合衆国に抗議する事態も起きた。

 だがそれは例外に近い。

 コロンビアなど、パナマ独立の恨みから入港を拒否していた。

 メキシコも米墨戦争で領土を奪われた事から、再び奪われるのではないかと考え入港地で艦隊に制限を課して、厳重に抑えたくらいだ。

 それでも国境を接しており友好関係を保たなければならないため、やむを得ず受け入れた。

 一番痛かったのが太平洋横断の最初の寄港地にしようとしたハワイ王国が艦隊の入港を拒否だ。

 ハワイ革命を仕掛けて十年ほどしか経っておらず、ハワイ王国のアメリカへの警戒心が強かった。

 メキシコと違い数千キロも離れた島である上、日本と海援隊の支援があるため、アメリカとの関係が悪化するのも構わなかった

 次の訪問国に予定していたフィリピンも拒否された。

 米比戦争における米軍の虐殺行為を思えば、拒絶されて当然だ。

 関係改善を考えていたのだろうが、大艦隊による砲門など威圧以外の何者でもない。

 仕方なく、米国は海援隊の協力により海援隊が管理するアリューシャン列島で補給することとなり、北太平洋を通って横断することになった。

 海援隊の支援がなければ、白色艦隊は日本にはこれなかった。

 だが、その航海は惨めなものだった。

 安全だし補給も得られたが、停泊中は常に海援隊の艦隊が警護、監視する中、給炭作業をしなければならなかった。

 海援隊は重油を燃料とするため洋上給油が簡単なので、短時間で補給が済む。

 なのでアメリカより行動力があった。

 一番大きい問題は、その給炭艦だ。

 海援隊の仕事は素晴らしく、常に先回りして給炭艦が到着し合衆国艦隊に常に十分な量の石炭を供給した。

 だが、その給炭艦が出港したのは、ハワイだった。

 鯉之助がハワイの王女の配偶者である事を最大限に生かし、海援隊はハワイの拠点化を進めている。

 海援隊はハワイから太平洋の何処へでも大量の物資を運べることを示し、合衆国を牽制した。

 さらに日本への寄港もアメリカ海軍の問題点を浮き彫りにした。


「日本にはかなり長い期間、滞在するようですね」


「流石に合衆国艦隊も疲弊するのでしょう。乗員も艦も」


 白色艦隊は日本での寄港期間を二ヶ月にしている。

 これは日本国内のドックで艦艇の整備を行うためだ。

 出港直後に戦艦二隻が機関故障が起きたことからも、当時の船の稼働率は低く、定期的な整備が必要だった。

 他にもボイラーの掃除や、船底の牡蠣殻の除去などやるべき事は多い。

 大規模な整備修繕はドックでしか出来ないが、大規模ドックの数は少ない。

 特に太平洋沿岸、アジア海域に一万トンを超す艦艇を入渠させることの出来る施設を持っているのは日本だけだ。

 中国は勿論、列強である英仏の植民地にもそのようなドックは持っていない。

 東海岸から出港して数ヶ月の間、整備が行えていない状況を考えれば、日本でのドック入りは致し方なかった。


「日本の後も、石炭の供給を我々に頼っている」


 給炭艦の整備が追いついていない上に、合衆国の船舶会社との契約に失敗した合衆国艦隊は白色艦隊への給炭や補給を外国の船会社に依頼する事になった。

 海援隊はその一つだが、日本寄港後の補給もイギリスやノルウェー、オーストリアなどに依頼している。

 もし、それらの船会社の都合で船がやってこなければ、白色艦隊は立ち往生だ。


「アメリカ海軍がアジアの戦争で役に立つか疑問だ」


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