満州と沿海州の処理

「しかし、忙しいな」


 鯉之助は新たな肩書き、海外遠征軍司令部付高級参謀で、新たな組織作りをしていた。


「各地にどれくらい兵力を置いておくべきか考えないといけないからな」


 海外遠征軍は満州軍総司令部に代わって作られた新たな組織であり、日本本土以外の日本の領土に駐留する部隊を統括する部隊だ。

 ちなみに、作り上げたのは鯉之助だ。

 自分で作り上げておいて地獄を見ているが、こうした組織を作っているのも楽しいので、苦楽が共にやって来て悩ましいところではある。

 それはさておき、この戦争で日本は朝鮮は勿論、満州と沿海州も手に入れた。

 日本はこれらの地域を掌握、管理する必要がある。

 撤兵は大切だが、新たに得た地域の安定、住民の武装蜂起や、馬賊の跳梁跋扈は食い止めなければならない。

 しかも戦争で混乱したあとの土地だ。

 武力で、兵隊の数で威圧して、暴動を起こそうと思わせないようにする必要がある。


「部隊を返しすぎて足りないから呼び戻すなんて止めてよね」

「そうならないように考えているよ」

「具体的な統治プランは?」

「関東州が主な租借地になるから関東総督府を作り、旧東清鉄道、新たに作る満州鉄道の沿線を統治するようにする」


 とりあえず、鯉之助は満州に関しては鉄道線周辺の確保だけに専念する事にした。

 日露両軍が激しく戦闘を行ったため忘れられがちだが、満州は中国、清王朝の領土である。

 統治に関しては清王朝が中心になる、と言うより日本の三倍近い面積、百万平方キロもある満州全土を軍事占領するなど兵力が足りない。

 軍事占領には一平方キロメートルに兵隊一人が必要とされる。百万平方キロ以上の満州に当てはめると現在の日本軍全軍、戦時動員して百万以上となった軍隊がまるごと残らないといけない。

 そんなの無理。そもそも、戦費も財源もないので撤兵と軍縮を行っているのだから、百万の軍勢を残すなど悪手でしかない。

 少なくとも平時の予算では駐留費は出せない。

 だから鉄道周辺と重要な箇所のみを守る。

 具体的には炭鉱のある撫順、鉄鉱石の鞍山、港町の営口と大連、要塞のある旅順、そして石油が埋まっているかもしれない大慶だ。

 それ以外は鉄道線だけを守る。

 点と線だが、大軍を配置出来ないし、そんな予算ないのでこれで妥協する。


「その代わり、鉄道で統治する。必要な商品を、購買することで統治する」


 鉄道による物流で現金収入をもたらすと共に商品を売り込むことで、鉄道線周辺を安定化、さらには遠くの集落さえ物流網で支配しようというのが鯉之助の考えだ。

 そのために、兵力は鉄道線を守り切る分だけ、逆に言えばなんとしても鉄道線を守り切るつもりで配置する。

 他にも統治のための手段は考えている。


「旅順から長春までに一個師団、二万ほど、あとの路線も一個から二個師団もいれば十分だな」


 史実の関東軍は日本の鉄道線、旅順から長春までの守備のために置かれており、本土から持ち回りで送られている一個師団と複数の独立守備隊、合計で一万名ほどだった。

 鯉之助の日本が得たのは東清鉄道全部、およそ史実の満鉄の三倍の路線長だ。

 なので三個師団、人数にして三万人もいれば十分だ。


「三個、出来れば二個師団。要地の守備や予備を考えても必要人数は四万から六万ぐらい。そして二個師団は満州で募集する外人部隊を常駐させて、残り一個は日本本土の各連隊から大隊を編成して送り込ませて満州駐留師団を編成して守備に当たらせるか。他にも独立守備隊を送り込む。これを満州駐留軍としよう」


 当面、日本はロシアとは敵対しない。

 だが、満州は日本の生命線であり最悪十数年後、ロシア帝国が崩壊して最前線になるかもしれない。

 その時、日本から援軍を送る必要がある。

 しかし、満州の土地勘がなければならない。

 旧日本軍は師団単位で送り込んでいたが、ローテーションを早くするために、各連隊から選抜した大隊を送り込んで兵員を慣れさせる事にした。


「沿海州はどうするの?」

「租借地だから香港のように総督を置いて統治する形になると思う。占領地だから軍事占領の後、民政移転の形にする」

「駐留する部隊は?」

「樺太師団に任せる」


 間宮海峡を堺に長年ロシアと対立していた部隊であり、沿海州の情勢は良く知っている。

 また少数民族の間で交流があり、扱いも良く分かっている兵士が多い。

 最初の統治を任せ安定したら、満州駐留部隊のように各部隊から選抜部隊を送って貰って守備して貰う。


「むしろ、海軍の協力が必要だな。砲艦は海援隊でも持ち込めるけどアムール川の管理は大変だ」


 鉄道が未発達の沿海州で最大の交通路はアムール川だ。

 満州まで延びており、このアムール川を管理出来るかどうかは沿海州のみならず満州の支配に直結する。

 満州が発展するかどうかはアムール川にかかっていると言っても過言ではない。


「海軍には、沿海州に砲艦部隊を回して貰うよ」


「朝鮮半島はどうするの」

「ここは厄介だな」

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