合意
ゲオルギーの言うとこは正しい。
確かに港は建設に非常に金が掛かるし運営資金も必要だ。
逆にそれだけの金が動くのであり、上手くいけば、取扱量が増えれば運営の利益だけで非常に大きい儲けになる。
海軍で成長した海援隊、海龍商会としては見過ごせない。
シベリアの資源を売り出す港などどれだけの利益が得られることか。
いや、シベリアの資源を使ってアジアが発展する事さえ可能だ。
シベリアへ商品を売り込む事も出来るし、シベリア鉄道を使ってアジアの商品をヨーロッパへ輸出する事も出来る。
貿易会社としての側面を持つ海援隊としては見過ごせない事業だ。
「分かった。受け入れる。しかし、資金をどうやって手に入れる。開発するにも資金が必要だ。それとロシアが日本の勢力圏を奪わないという保証はどうする」
「フランスと英国へ株式発行して手に入れれば良いでしょう。フランスとしても平和的に手に入れて欲しいと考えているハズだ」
「なるほど良いでしょう」
フランスとイギリス、いやアメリカにも資本を提供していただけるかもしれない。
それどころか、産物の購入先としても有望だ。
一番重要なのはこれら列強が関わると言うことだ。
もし、ロシアが変な色気を出して、これらの港へ侵攻、領有しようとしたら、出資先の列強を敵に回す事になる。
日本はロシアを討伐する大義名分を得て攻め込む事が出来る。
上手くいけば列強からの資金援助を得られる可能性も高い、どちらにしても良いことだらけだ。
「軍艦の購入と、港湾の開発は、イギリス、フランスなどと話し合う必要があるが色よい返事が貰えるでしょう」
戦後の平和の保証として、軍備削減の他にも安全の為の方策が手に入れられるのなら願ってもないことだ。
少し時間が掛かるかもしれないと鯉之助は思ったが、ゲオルギーは微笑みながら満足して答える。
「既にハーグで、ウィッテが龍馬殿と共に、この方針に従って動いているハズです」
「なるほど」
既にゲオルギーは指示を出していたか。
丁度龍馬もウィッテもイギリスとフランスに近いオランダのハーグにいるので話しを纏めるには簡単だ。
「では、以上の条件で講和を締結する事で」
「構いません。即時停戦、停戦ラインと非武装地帯の設定、両軍の即時撤退、これを即座に実行しましょう。他の条項に関しては条件を詰めていきましょう。しかし、宜しいのですか?
「何がですか?」
「かなりロシアにとっては良くない条件だと思いますが」
日本軍が占領しているとはいえ、沿海州の租借やオホーツク海沿岸部、カムチャッカの割譲はロシアにとって不利な条項のはずだ。
だがゲオルギーは納得した顔だった。
「即時停戦にはこれくらい必要です。それに日本という同盟国、アジアから攻め込まれないという保証が欲しい。戦争の痛手は酷く、回復には十数年掛かる。その間、戦争にならないように手を打つしかありません。極東に軍備を構築する余裕などないのですし。それに、全力でロマノフ王朝を支えてくれる国が必要です。レーニンがどれほどの人物か理解しているでしょう」
鯉之助は苦笑した。
確かにロシア帝国を弱体化させるために共産主義陣営、ボリシェビキを支援した。
しかし、それは諸刃の剣だ。
今はともかく、十年後にはロシア帝国を打倒して極東のみならず世界中を席巻し破壊と混乱を及ぼす可能性が高い。
それを防ぐにはロマノフ王朝が倒れないようにしなければならない。
ゲオルギーは、日本がロシアの安定を望むような条件を出すことで日本に支援させるつもりだ。
一見、日本が勝ったように見えるが、ロシアを、ロマノフ王朝を支えなければならない状況に陥るのだ。
だが、そうしなければ、日本は将来、共産主義を相手にしなければならない。
むしろロマノフ王朝を支えなければならないのだ。
「十分に理解しました。此方としても異存はありません」
「では締結ということで」
ゲオルギーは手を差し出した。
鯉之助は、手を握りしめる。
二人の握手により、一年十ヶ月に及んだ日露戦争は、ここに終結した。
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