第12話


                 12


 恵の新車納車も終わり、スライド式で以前の恵の軽自動車を、宇来が乗る事になった。 朝夕が肌寒く、夕方の日没も、4時台になって来た事から、朝樹は宇来の通勤での心配が無くなった。


 週末の金曜日、会社の帰りに、宇来は恵に頼まれて、少し離れたスーパーに特売品の買い出しに来て居た。

 車を止め、カートに籠を入れて、さあ店内にと言う所で、懐かしい顔がそこにあった。 向こうも宇来に気が付いたのか、近寄って来た。


「宇来。 久しぶりじゃない、元気にしてた?」

「わあ、ホント久ぶりね 美美。 何年ぶりかしら? そっちこそ元気だった?」


 足立 美美(あだち よしみ)は宇来の高校時代の親しい友人だ、3年間のうちに、2度連続で同じクラスになり、特に3年生の時には、親友と言える程に親しくなった。

 短大を卒業してから就職した宇来に対して、美美は、現在大学3年生である。


「元気に大学通っているよ、この近くなんだけどね」

「へえ、そうなんだ。 私もここから15分くらいの所にアパートを借りて、その近くの会社に就職したの」

「そうなんだ、結構近い所に居たんだね、宇来」

「凄いね、良く会わなかったね今まで」

「ここ、良く来るの?」


 キレイな肩甲骨まであるブラウンのロングヘアーを、揺らして聞いてきた。

「たまの特売の時だけは来るんだ」

「あ~、毎週金曜日に特売やってるからね。 そっちまで広告入るんだ」

「あ、新聞は取って無いから、ウエブ広告でチェックしているの」

「そうなんだ」



 スーパーのエントランス横で喋っているので、他の客の迷惑になると思ったので、宇来が美美に約束を取り付ける。


「美美。 今週末空いてる時間ある? 何処かで、ゆっくりと話したいな。どう?」

「いいわね、私この週末は何処も行かないから、いつでもいいから」

「番号変わってないよね?」

「変わって無いから」

「そう」

「じゃあ後で連絡するから」

「分かった」

「うん」


 そう言って、手を振って美美はカートを押して離れて行った。



                  △


「もしもし?」

『あ、もしもし、宇来? 今いい?』

「うん、美美。 さっきは偶然とはいえ、びっくりしたね」

『ほんと、びっくりした』


 それから、少しの会話をした後、明日土曜日の、午前10時に宇来のアパートに行くという事になった。 その後、暫く喋った後で、昼を外食でと言う予定になった。


『じゃあね』

「じゃあ明日ね」


 そう言ってお互いに電話を切った。


「宇来、電話?」


 後ろを振り向くと、帰宅した朝樹が、玄関から入って来た。

「あ、お帰りなさい、うん、友達から」

「ただいま、そうか」

 そう言って、朝樹は風呂場に行った。



                  △



 夕食後、朝樹と宇来は、いつもの様に、朝樹の部屋で帰りまで まったりしている。 しかし、朝樹は夕方宇来にかかって来た電話の相手が気にかかる。


「夕方の電話、誰だったの?」


 一瞬間を置いて。


「大丈夫だから、同級生の女の子なの」

「そ、そう言う意味では無いんだがな。 最も、宇来の事はしっかりと信じてるし」

「わ...、嬉しい。そう言う細かい事も褒めてもらって、また好き度が増しちゃった、朝樹さん」


 朝樹の腕に巻くつく宇来。

「でね。その女の子と明日会う事にしてるの」

「また急だな、で何時なんだ?」

「それがね、朝10時になったの、だから...その...」

 気を利かして、朝樹が宇来の頬を軽く抓る。


「分かったよ。 明日朝は早めに部屋を出るから、それでいいんだろ?」


 小さな舌を出して、謝る宇来。

「ごめんね。 明後日は一日中いいから」

「それじゃあ、行こうか」

「うん」


 朝樹と宇来は、最近の週末は必ず宇来の部屋に泊まる事になって来ていた。 なので、明日の朝、美美が来る9時半に宇来のアパートから帰宅すればいいと、朝樹は予定をたて、二人は両親に挨拶をして、宇来のアパートに向かった。



                  ◇



「朝樹さん起きて! もう9時よ。朝樹さん!」


 隣で寝ていた宇来はすでに起きていて、朝食の準備までも出来て居る。 昨夜二人は夜遅くまでDVD鑑賞していたので、就寝が2時くらいになった。


 慌てて起きる朝樹に、顔を洗って身支度してくるように、朝樹に言い、二人分のコーヒーを淹れて、朝樹を待つ。


 キッチンテーブルの席に座り、二人で「いただきます」を言って、食べだす。


「あと1時間ほどだな」

「そうね、まだ少しは余裕があるわね」

「もう少し寝ていたら、同居してるのかって言われてしまいそうだったな」

「ホントね」


 この二人の楽しい朝食と、会話が心地いい。


 朝食が終わり、少しスマホでニュースアプリを読んでいると、時間は9時半過ぎになってしまった。 朝樹は、急いで帰り支度をして、いつものスポーツバッグを手にして、宇来に挨拶をしようとした時だった。


 ピンポ~ン と、玄関チャイムが鳴り、美美が来た事を、知らせた。


 ドアの向こうでは、 ごめ~ん、早く着いちゃった 何て言っている美美が居る。 仕方なく、玄関ドアを開けると、しっかりメイクした美美が立っていた・・・・・、立っていたが・・・。


 驚いたのは、朝樹と 美美だ。


 暫く声も出ないまま、固まった二人。 それを見た宇来が。


「美美どうしたの?、 朝樹さんも...」


 やっと声が出た朝樹が。


「美美。 どうして?」


 ハッとした美美も。


「朝樹さんこそ、宇来と...って、二人って同棲していたの?」

 それを聞いた宇来は、この事態に思考が追い付いていけずに、美美に訊いてみる。


「何で朝樹さんの事を知っているの? 美美」

「......」

 何も言えず、無言になる美美。

 だが、朝樹が宇来に向けて話し出す。


「実はオレ、高校の時に美美と付き合っていた時期があったんだ」


 宇来は朝樹の口から出た言葉に、固まり、絶句した。



                  △



 とり合えず3人は部屋に入り、リビングにあるローテーブルを挟む様に座り、暫く無言になる。

 まさかの展開に、3人それぞれの思考が巡る。

 最初に口を開いたのは、朝樹だった。



「美美、元気だったか?」


 宇来に気まずい雰囲気の美美は、少し遅れて返事をする。


「う、うん、元気だったよ。 朝樹さんの方は?」

「ああ、オレは今はとっても元気だ」


 少しまじまじと朝樹を見る美美。


「何か、雰囲気が変わったね。 気弱な部分が無くなったって感じがするかな」

「あれから社会に揉まれたからな、変らざるを得ない状況な職種だからな」

「そうなんだ....」


 黙っていた宇来が、やっと喋り出す。


「ねえ美美、何で黙ってたの? 朝樹さんと付き合っていた事」

 これには、美美も少し黙る。 が、少し経って、朝樹を見てから、当時の事を喋り始める。


「じつはね私、高校一年の時の夏前に、朝樹さんに告白して、次の年、朝樹さんが卒業するまで付き合っていたんだ。 居たんだって言うよりも、別れの言葉もなく、自然消滅って感じかな...、で、今に至る、って事なの」

「じゃあ、ハッキリ別れて無いって言う事なの?」

「そこが今でも良く分からないの」

「宇来とは高二の時からの付き合いなので、高一の時の話はしなかったと言う事かな」

「でも、私達女子高だよ、なのに、何で、朝樹さんの事を知っていたの?」

「あのね、朝樹さんって、噂でウチの学校でも少し人気があったの。 宇来は多分そう言う事に疎かったから、気にして無いと思ったの」

 そう言って、また朝樹をチラ見する美美。


「朝樹さんはどうなの?」

「どうって言われても、今付き合っているのは、宇来だし、だけだし」

「二股の感覚では無いのね」

「それは全く無い、 そう言う感覚も無いな」

 

 朝樹が続けて。

「オレの中では、もう美美とは終わってしまったと思っているんだ」


「そうなの? 美美」

 今度は美美に聞く宇来。

 だが、その返事は、宇来に対するものではなかった。


「朝樹さん、私達って、もう4年前に終わってたんですか?」

 朝樹に対して、聞きに出る美美。 コレには宇来も返答が気になる。


「正直に言おう。 美美は,今のオレを見て、どう思う?」

「それずるいです。 質問で返しましたね」

「いや、それを聞かないと、オレは何も言えないな」


「今の朝樹さんは、さっきから見ていて、カッコいいです。 何か男らしくなりましたね、高校時代の時のあの感じが殆ど無く、表に出ている感じがします」

「ハッキリ言って、学生時代は陰キャだったからな、しかも、優柔不断で、決断力が皆無に近かったからな。良く美美と付き合えていたなと、今思うと不思議だな」


 この会話のやり取りを聞いていて、段々と不安になって来る宇来だった。





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