第13話


                 13


 今までのやり取りで、気になるのが、二人の進展度だ。


 この二人は、当時どの様な関係だったのか、心配で不安な宇来だった。 そこに気を使って、恐る恐る美美に聞いてみる宇来。


「ねえ美美、結構長い期間お付き合いをしていたって言ってたけど、二人って、結構進展していたの?」

「あれ宇来?、結構ズバッと聞いてくるわね、でもそこは、今カノと言う立場じゃ気になるところよね」


 しっかりとオブラートに包まずに聞いてきた宇来に対して、美美は、意外にもあっさりと答える。


「え~っとね、 手を繋いでいただけで、朝樹さん卒業してしまったもんね、それ止まりなんだよね。 今思うと、私から積極的になった方が良かったのかな? って今思ったりして」


 今のを聞いて、ホッとする宇来。 しかし、まだはっきりと美美と朝樹の今の状況を聞いていない宇来なので、一切の安心感は拭えない。

 そこで、美美が気になることを言う。


「朝樹さんって、今と学生時分とは全然違う雰囲気になって、私が好きになったのは、以前の朝樹さんなのに、今の朝樹さんは確かに、凄くカッコいいけど、何か思い出の朝樹さんとはイメージが変わってしまって、馴染めない感じがする」

「そういう美美も、結構こんなハッキリと言える性格では無かった気がするが、もしかして、大学に入ってから、デビューしたのかな?」

「うん、それはあるよ。 私だって、今までじゃあいけないと思い、最初はムリしてでも、お化粧して陽キャを着飾っていた部分もあるけど、大学も3年目になると、この着飾りも、板について来て、今はこのキャラで慣れてきたし、通しているよ」

「話し方も変わったからね、でも、優しい性格は変わらないんだね、そこが変わったらイヤだけど。 それにしても、今更だけど、美美ってホントに美人になったな、変れば変わるもんだ」

「そういう宇来も、実は美人だったんだね~、これじゃ朝樹さんも一緒に居てうれしいんでしょ?」

 宇来は、時々会社の同僚にされているメイクに近い化粧度にしているため、美人度が上がっている。


「オレ、それ以前に宇来に惚れてたからな、今のメイクの宇来は、俺だけの時の特権なんだ」

「あ~あ、宇来にぞっこんだね、朝樹さん。 これじゃあ今の私では、太刀打ち出来ないな~。 いいな~宇来、こんな良い彼氏が居て、大事にしなよ」


 この美美の言葉に、心底ホッとする宇来だった。


「うん。 私の彼氏は、世界で一番なんだから。 絶対に大事にするから」

「ほうほう、惚気ですか....、いいな~」


 話しの内容が、落ち着いてきたと思った朝樹が、そろそろいいタイミングと思い、女子二人に言う。


「オレそろそろお邪魔みたいだから、コレで退散するかな」

 二人に見つめられて。


「ゴメンね、なんか追い出しちゃう感じで、でも今日は朝樹さん、宇来を貸してね」

「そもそも今日は久しぶりの再会って事で、俺なんかが居ちゃ邪魔なんだからな。今日は二人で楽しんでおいで」

「ありがとう、じゃあ遠慮なく彼女さんを借りていきますね」

「おう、じゃあオレはコレで帰るから、宇来、後で連絡くれよ」

「うん。 気を付けて、朝樹さん」

「分かった、じゃあな、お二人さん」


 そう言って、安堵した顔の朝樹は宇来のアパートを後にした。


 

 まるで、 ソフト修羅場  を経験したような一時だった。



                 △



 結局は、美美が退いてくれたのを感じ取った朝樹だが、ただ一つだけ宇来に黙っていた事があり、近いうちに、その事も言わなければならないと思っていたのだった。



                 △


「お帰り宇来」

「ただいま~」


 あれから今日一日、宇来は美美との再会を楽しんだんだろう。 夕方になり、とても嬉しそうに帰って来た。


「楽しんできたみたいだな、何か嬉しそうだ」

「ありがとう、朝樹さん。 あれから外出して、結構楽しんできたの、これからも時々会う事を約束して、さっき別れたわ」

「そうか、良かったな。これからも以前同様、仲良くな」

「うん」


 そうしていると、

キッチンの方から、未来が宇来に夕飯の手伝いを求める声が掛かったので、返事をして、宇来はキッチンに消えて行った。



                  △



 夕食も終わり、いつもの様に、朝樹も部屋でくつろぐ朝樹と宇来、だが、今回は未来も来ている。


「お兄ちゃん、さっき夕飯作っている時、宇来ちゃんに聞いたんだけど、元カノと会ったんだって?」

 未来はいきなりの攻撃をかまして来た。


「いきなりその事か、核心来たな」

「だって、夕飯中でも聞きたかったんだから....。で、元カノと宇来ちゃんの鉢合わせで、お兄ちゃんはどう凌(しの)いだのかな?」

「凌いだって言うのはおかしいが、宇来とは絶対に離れないからな、だから、そこのところを強調した。 あえてハッキリと これっきりにしよう とは言わなかったのは、そう言う空気読みが、出来る女の子ってのを分かっていたから、あえて言わなかったんだ」


 少し不満そうな顔で朝樹を見つめる宇来。

「朝樹さん。 よく美美の事を分かってるんですね」

 少し宇来に引く朝樹。

「そんな事言うなよ。 約十か月ほど付き合った仲なんだから、何となくお互いのそう言うのは分かってくるものだと思うが」

「じゃあ、私の事は?」

「宇来の事は、コレから十分知って行きたいと思っているから」


 未来が ニヤリとした目で見た。

「お兄ちゃん、今、エッチィっぽい目で宇来ちゃんを見てたよ」

「そんなん、オレ男だもんな、しっかりとエッチだからな、それが?....」


 あっけらかんと言い切った朝樹。 それを聞いた宇来は、顔に赤みが増す。


「お兄ちゃん、そこまでキッパリと正直だと、何も言えないな~...、で、宇来ちゃんは、それに関しては?」

 黙っている宇来が少し経って小声で言う。


「わ、わたしは.....、ムッツリよりも、朝樹さんの様に、ハッキリと言ってくれた方が嬉しいかな、なんて....」

「あはは~....、もういいや、勝手にやっててね。 じゃあ、わたし行くから、おやすみ、お二人さん」

「「おやすみ」」


「うわ! 声揃った、見てらんな~い、あ~やだやだ!」


 そう言って、未来は朝樹の部屋を出て行った。



                 △



 未来が部屋を後にした後、しばらく沈黙が流れ、宇来は朝樹を見つめる。

 それに気が付いた朝樹は。


「なに? 宇来」

 言い難そうに、言葉を絞り出す宇来。


「あ、あの....、朝樹さん、何か私に黙っている事ありませんか?」

「と、言うのは?」

「美美の事で....」


 あ~やっぱり聞かれたか、と思う朝樹だが、なぜそんな事を言い出すのか、と思うと、やはりオレが帰ってから、美美が爆弾を落としていったのは間違いないと確信した。


「オレと美美との交際中の関係でかな?」

「そう…なのだけど」

 宇来の言い方で、確信した朝樹。


「美美に聞いたんだろ?なのに、俺からも聞きたいのか?」

「ハッキリと朝樹さんの口からも、聞きたいんです」

 

「俺は美美とは、キス止まりで、それ以上は無い。 それがオレの答えだ」


「.....」


「で、でも、朝樹さん、キス以外の私との初めての時は、慣れてたんで、疑ってしまったんです」


「あ~それは....」

 ここで押し黙ってしまう朝樹。


「いいんですよ、言い難かったら。こんな事聞く私が良くないんですから」

「いや、言い難いと言うのは確かなんだが。 美美とは本当に、そこまでの関係で、それ以上無いのは事実なんだが.....、う~~ん、何か言いにくいな。 恥ずかしいし....」

「じゃあいいです」


 一度はどうしてっも聞きたいと思っていた宇来だったが、朝樹の言い難そうな態度と言い回しに、気を利かした。

 だが、朝樹がその事案には、ハッキリとした区切りが、宇来との間にどうしても欲しかったので、正直に言う事にした。


「聞いてくれるか宇来?」

「いいんですよ、話辛かったら」

「いや、聞いてくれ」


 朝樹は宇来の正面に向き、話し出す。


「実は、宇来が初めてでは無かったんだ。 それは分かるよな?」

「うん」

「で、彼女が居ないのにどうして、宇来とは初めてじゃあ無かったのか、という事は、何となく分かるよな」

「あ!」

 気が付いた宇来。


「そう。 そうなんだ.....」

 朝樹は、気まず恥ずかしそうに、改めて話し出す。


「実は、会社に入社して、初めての慰安旅行の時に、先輩たちと宴会の後、数人でそこの温泉地にある風俗店に行ったのが初めてなんだ」

「あらやっぱり。そう言うの聞いた事があるけど、やっぱり朝樹さんも、若い男の子だったのね」


 この際だと、さらに続ける朝樹。


「で、3泊4日だったので、次の日も、そのまた次の日も、また数人の先輩と共に、数回致してしまったんだ。で、それからは、月一くらいの週末に、先輩たちと、会社から少し離れたそう言う所に行って、男の処理をしていたんだ」


それを聞いて、朝樹が美美とそういう関係が無かった事に安堵した。


「朝樹さん」

「はい」


 言葉が丁寧になる朝樹。


「今でもそういう所に行ってるの?」

 宇来の膨れた頬を見て、珍しく朝樹は慌てた。


「行って無い、もう一年ほどは行って無いし、もう行かない」

「だよね~、私居るもんね~、朝樹・さ・ん!」

 表情が朝樹の言葉で、柔らかくなる宇来。


「そ、うだな、行く必要が無い」

「って言うか、もう駄目よ絶対に。こんなカワイイ彼女が居るんだから」

「分かっってるから。 宇来が一番だからな」

「うふふ、嬉しいな」

「ホントだぞ、今すぐにでも婚姻届け出したいくらいだ」


 その言葉に、宇来の反応が早かった。

「朝樹さん、しちゃう?  結婚しちゃう?」

 食いつきの良い宇来に。


「今すぐにとは言ったが、実際はそうはいかないよな」

「そうね。 今すぐってのはムリでも、近いうちに一緒に暮らしたいな。 いいでしょ? それなら」

「そうか。 お試し期間ってのもアリだよな」

「なに? そのお試しってのは....。もう!朝樹さん」

「ゴメン。 要するに、同棲って事なんだよな?」

「あ、そうか。 そうなんだよね、そうだよね」


 同棲と言う言葉に、二人のテンションが高くなる。


 今まででも、週末はどっちかに泊まりに行っていたので、毎日顔を合わせる生活と言うのに、何故か気分が高くなる二人だった。





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