第9話
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それから半月ほど経ったある平日の下校時。
「大分オレ達の事も、学内に知れ渡ったみたいで、最初の頃に比べて、人の視線が気にならなくなったな」
「そうね。 わたしがあなたと付き合ったって言う噂が、学校内に知れ渡った当初は、周りが驚いていたわね」
「その時、オレ生きた心地がしなかったからな」
「?....どう言う事?」
(知ってて言うか、この女)
と、貴は思った。
「オレがいつ刺されるか、いつも周りに気を使っていたからな」
「あらぁ、ごめんなさ~い」
本気に思ってない叶。
気楽な日々がやっと再び来たと思っている時に、帰宅時の二人の背後から、苛立ったような声が掛かった。
「たかし!!」
それはそれは、凄くイラついたと言うよりも、若干だが怒気を含めた感じも含めた呼び方だった。
「瑠美奈。 なんだ? どうしたんだ。 怒ったような顔をして」
この貴の呑気な答え方に、さらに瑠美奈もイラつきが増した。
「何やってるの! その隣の女は何?」
「何って、........、彼女だが」
言葉の間を開けて、まさに今この状況を見たままの様に答えた貴から、“彼女”と言う言葉が出てくる事に、嫉妬と怒気が混合して、それ以降、黙り込んでしまった。
「か........」
それ以外に言葉が出なかった瑠美奈。
ただ自分の目の前の状況に、とても信じられない状況が出来上がっている事の事態を認めざるを得なかった。
(わたしの気持ちは十分知っているくせに、いったいコレはどういう事になってしまったの)
と、頭の中が混乱してしまった。
*
「そう言えば、高校時代にそんな事もあったな~」
叶との擬似交際があった時期の事を、懐かしく思う貴だったが、その思いに更ける様の面持ちを、良く思わない瑠美奈は、若干の嫉妬も含めて、貴を戒めた。
「今ごろ何言ってるの? あ~!! もしかして、今更“惜しい女だった”なんて、思って居るんでしょう。タカシ!」
「ま、そうだな」
「な!!! たぁかしぃ~....」
嫉妬染みた声色になりながら、両手の全指の先を曲げて、貴の顔面に向けて、引っ掻けようと迫った。
「わわ! ウソだ、ウソだぞルミ。 お前が一番カワイイからな、コレ本当だからな」
慌てて言い直す貴の言葉に、一瞬で機嫌が直る瑠美奈に、ホッとする貴。
(なんか、簡単だな、ルミは)
と、少々思ってしまったが、 少し言い過ぎた事に、若干の反省を含めて再び瑠美奈にフォローする。
「何だかんだ言っても、オレにとってはルミが最高の女だな。うん」
この言葉を受け取った瑠美奈は、顔が“ニヘらぁ~”と なり、貴はホッとした。
「で、あの女とはどういう理由で付き合っていたの?いまだに腑に落ちないんだけど」
今更ながらだが、困った質問をしてきた。
「もう終わった事だし、今更いいだろう?」
「そうもいかないよ。 高校時代、私の目の前で “彼女” と、ハッキリ言った手前、わだかまりを結婚する前に、ハッキリと知っておきたいの。だから、観念しなさい タカシ」
(何だよ。もう高校卒業してから何年も経つのに、今更そんな事を蒸し返しても....)
そう思った 貴 だが、いつか叶と、その事の真相をハッキリとさせておいてと、叶からの“お詫び”も伝えると言う、当時の 叶 と約束を果たすのは、もうこれ以上遅らせる事は出来ないと思い、貴 は、叶 との擬似交際の真相を打ち明けるのだった。
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