第7話
7
「お~き~てぇ....」
「..............」
「むむぅ~....」
「..............」
「起きてぇ~!........、チュ!」
「うわ!」
◇
あれから2年が過ぎ、貴と瑠美奈それに桃菜は、順調に3回生となり、ひときわ辛かった時期を過ぎた貴も、順調に単位を取得して、やっと余裕が出来た日々を過ごす事が出来始めた。
今までの疲れを癒すかの如く、会社員と学業の2足の草鞋と言う、殺人的多忙時期を乗り越えて、今この時を迎える事が出来た。
瑠美奈とはアレから交際が始まり、とっても順調に日常を送っている。
アレからと言う“アレ”と言うのは....。
◇
2年前の、あの衝撃的な告白染みた件から、交際が始まった。
その内容とは。
*
「お兄ちゃん、もう観念しなよ。いったい何時までこの一途な瑠美奈の思いに、知らんプリしてるの?」
この桃菜の言葉に、今まで瑠美奈からのアプローチが冗談では無く、いかに毎回が真剣だったのかを、思い知った貴だった。
「中学校の時から良く知っている瑠美奈の立ち位置って言うのが、いつの間にかオレの中では、『妹の友人』枠から外れないで居るんだ。いつも妹が連れてくる、友人と言う枠なんだ」
「そこから恋愛感情と言うモノは出てこないの? 今じゃ、こんなに キレイな女の子なんだよ? しかも、最近になって、他の男の子に言い寄られているんだよ? 取られちゃうよ?」
「タカシ。私ってそんなに魅力ない? 可愛くない?......、それとも....迷惑?」
兄妹の会話に挟んでくる、瑠美奈。 その言葉の内容には、諦めの要素も含んでいるかの様である。
その瑠美奈の言葉を聞いて。
「オレは瑠美奈の事を、一度たりとも 迷惑 と思った事は無い。 これは本心だ。ただ....」
これから先が言葉になって出てこない貴。
「ただ何?」
桃菜が反復した。
女子二人が、耳ダンボの状態で、貴の次に出てくる言葉を期待する。 言い難い事があるのか、ココに来て言い辛そうに、間を置いた。
そして。
「ただ、こんなカワキレイな女の子を、オレの様な彼女が今まで居た事の無い童貞野郎が隣に居ていいモノか、躊躇してしまうんだ」
コレを聞いた桃菜が、一瞬間を置いて。
「あ~ははは....」
大笑いし始めた。
すると、それに釣られたのか、瑠美奈もクスクスと、控えめに失笑し始めた。 この二人の態度に、居心地の悪さを実感した。
のだが....。
「たぁかし。恥ずかしがること無いよ。 大丈夫だよ」
ハズイ思いを、妹とその友人に暴露してしまい、羞恥のド真ん中にいる貴に、優しい声色と頬を赤らめながら、瑠美奈からホローの言葉が、小声ながら囁かれた。
「大丈夫だよぉ タカシ。 私だって未だにタカシ以外に、男に体を触られた事の無い女なんだよ。あ、学校の フォークダンスは別だけどね。えへ....」
中学・高校時、良く瑠美奈は貴の腕に絡みついていて、この行動に貴は、
(ほかの男子にも、こんな事をやってるんだろうな)
と、思っていた。 なので、この発言は驚きもあるが、何故だか自分の思考とは別に、感情の何処からか、愉悦がこみ上げてくるのだった。
「なぁに? タカシ。 私がピッカピカの処女と言う事に、嬉し過ぎて、顔がニヤけてるぞ~。この、えっちぃ」
「な! オレだってピッカピ....」
「重みが違うんだよ、男女では」
と、貴の言葉を桃菜に遮られ、もっともな事を本人から言われて、納得するしか無かった。そして、今までの事をまとめるかの様に、桃菜が貴と瑠美奈に聞く。
「....で、お二人さん。付き合うの?付き合わないの? この際ハッキリしなさい。はい、ではまずお兄ちゃんからどうぞ」
妹に、半ば強制気味に促され、少々躊躇するが、数年間かけて、一途な思いを貴だけに向け続けていた事に、応えようと、自分の気持ちの奥底にあった瑠美奈への特別な感情を引きずり出し、今の気持ちを表した。
「瑠美奈。........オレの...」
「?」
「オレとの子供を産んでくれ」
「「!!」」
パシッ!!
いきなり桃菜に思いっきり頭を引っ叩かれた。
「バカお兄。 何段階すっ飛ばかして、暴走してるの? バカなんじゃない?」
今の一撃で、天パリからの正気に戻った貴は、いきなりドン引きされる様な言葉を吐いてしまい、反省を通り越して、激猛省した。
「すんません。やり直します」
そう言って、貴がもう一度仕切り直して、話し出すタイミングで...。
「いいよ、 産んじゃう....、 私、タカシの赤ちゃん産んじゃうから、もうコレからは、ずぅっと一緒だよ? 覚悟しなさい、たかしぃ....」
すごい言葉で、瑠美奈に逆コクされた貴だった。
*
そして、ようやくカップルになった貴と瑠美奈は、夏休み前、いつもの様に週末になると、貴の部屋に瑠美奈がやって来て、社会人と学生と言う、2足歩行中の疲れて眠る貴の部屋に泊まる事が日常となっていた。
「うふ。起きた? だぁりん」
狭い折り畳みのシングルベッドで、殆ど巻き付きながらの寝相姿で眠る貴へ、さらに磨きが掛かった瑠美奈の容姿に、朝一から幸せを感じる貴だった。
「普通に起こしてくれよ、ルミ」
「うふふ、ココはとっくに起きてるのにね」
「な!........」
「うふ。もう一回戦イっちゃう?」
時間が経てば、ウブな女子も変わるものだと思ったが、正に自分好みの女性に変貌した自分の彼女に、只々降参するしかなかった。
「ハニィ、勘弁してくれよ。昨日あれだけやったのに」
「あら? そんな歳では無いのに....、残念」
一度ため息をつきながら。
「誰がルミをそんな女に変えたんだ?」
貴の鼻先に人差し指を当てながら、瑠美奈は。
「この人でぇす....、えへ」
と、貴を犯人扱いした。
貴はこの時 “女の子”から“大人の女性”に変貌していく様の 瑠美奈に、言葉では言い表せない感情が、体の何処からか湧いてくるのを、衝突する眼差しの瞳の奥から感じ取っていた。
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