第5話


                 5


 貴の苦難な時期が始まってからは、会社員と志望校入学に向けて、忙しい日々を送った。

 高校時代から、元々成績は常に上位だったので、最終的にはA判定クラスになった。


『惜しいなぁ。貴クンならもう1ランク高い学校も絶対に合格できるのに....』

とは、在学中によく言われた言葉だ。


 その後も瑠美奈の勉強を教えながら、着実に実力をつけて行き、見事に 貴 瑠美奈 桃菜 と共に、大学に入る事が出来た。



「わぁい、タカシと一緒の学校に入れる事が出来た」

瑠美奈は喜んでいるが、貴は通信制なので、ごく偶にしか学校へは来る事が無いので、在学中ではあるが、仕方がない。 だた、妹とその友人と一緒の学年で入学したと言う事に、何処かメンタル面で若干の気負いがあったが、通常は学区内で出くわす事は、殆ど皆無なので、気持ちを前向きにして、途中挫折しないように、最後まで卒業と言う目標を目指すのみだ。



            □



 大学生と言えば、 キャンパスライフ。その言葉のマジックに、瑠美奈と桃菜は大学生活に浮かれ、夏休みももう少しという時期になっていた。


「モモ。お前たち、ちゃんと課題とか、提出物とか期限までにやってるんだろうな?」

 ある週末、リビングでのんびりと過ごして居た桃菜に、貴が不意に聞いてみる。すると....。


「あ、当たり前じゃない。お兄ちゃんだって、通信だからと言って、提出物はきちんとしているの?」

「当然だ!」

 したり顔で返す貴。 しかし、いつもギリギリで事を済ましているこのチョイダメ女子大生には、そろそろ 喝 を入れてやらねばと思って居たところである。


「オレ知ってるぞ。 友人の伝手で聞いたんだが、大学に入ってから、結構友人を作って、サークルとか、その他の遊びにウツツを抜かしているって聞いてるぞ」

「な!!」


 兄は気付いていたのだった。


 同じ大学で、同じ学年。 コミュニケーション能力が高校時代から高い貴は、一歳違いであろうと、横の繋がりを持つ事は、他愛も無い事なので、それを伝って、この娘たちの学内態度・行動は、一目瞭然だったのだ。


「どうだ!」

「あうゥ....」


 ぐうの音も出ない。

 貴は、桃菜と瑠美奈が大学に入れたからと言って、入れた事がゴールでない事を、二人を呼んで戒めるのだった。



           △



「ねえ、タカシ。何で私呼ばれたの?」


 久しぶりに貴と会った瑠美奈は、全く事を理解していなく、素っ頓狂な言葉を吐いた。

「何で私呼ばれたの?ねえ、桃菜」


 桃菜は、この事に関しては、終始無言だったが、それを戒められようとしている事には全く気付かない。 

 悠生兄妹に、疑問を抱きつつ、特に貴に対しては伺う様に上目使いで。

「あのぉ~、たかしぃ。私の今の状態はどうなのかなぁ....」


(ヴ! こ、コイツ、可愛くなってる....)

 この最近の瑠美奈のキレイさに若干のダメージを食らいながら、それでも貴は、瑠美奈たちの為と思い、戒める。



「お前たち二人、最近、友人から聞いたんだが、学業が疎かになってると、報告があってな。 大学に合格してから、やたらと遊びが増えたと聞いているが、自分たちから見て、入学してからの自行動について、どう思うんだ?」

 心当たりがある二人なので、何とも返事が返せない。


「俺はちゃんと課題物は期限までにちゃんとして、テレワークで出来る時があれば、その授業も時々受けているんだ。 それなのに、お前たちはどうしちゃったんだ? それとモモ、何となく母さんも気が付き始めているぞ」

「え!?」

 コレには桃菜が驚いた。 授業だけは真面目に出ていて、学業を疎かにしていないと思って居たのが、提出物の期限ギリギリの仕上がり。 レポートも自信がない内容など、最近のこの二人には、何処となく浮ついた状態が続いていた。


「モモ。お前もしかして、男できたか?」

 この兄からの鋭い一言に、桃菜は黙ってしまった。



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