第4話


                 4


「あ~、つかれたぁ~....」

 とは、瑠美奈の声。


 あれから2時間。 ぶっ通しで参考書を解き続け、瑠美奈と桃菜は、一時休憩する事にした。

「私、おやつと飲み物持ってくるから、待っててね」

 そう言って桃菜は部屋を出て行った。


 部屋に一人きりになった瑠美奈は、静まり返った部屋でふと気が付いた。

(タカシって今何やってるんだろ~)


 持ち合わせている悪戯心に、僅かだけ着火し始めると、隣の貴の部屋が気になってしょうがない。

(一人でエッチな事をしてるんじゃないかな?....、ちょっと覗いてやろう)


 悪戯心を実行に移した。

 そ~っと桃菜の部屋を出て、隣にある貴の部屋のドアノブに手をかけ、ゆっくりとそれを45度ひねると、ドアは簡単に開いた。

 そこには瑠美奈の期待とは裏腹に、真面目に机に向かっている貴の姿があった、貴は両耳をブルートゥースのイヤホンを付けているので、瑠美奈が入って来たのが分からない。 時々親指を顎に当てながら、真剣に机に向かっている、少しの間それをドアの後で座って見つめていると、何気に後ろを振り向いた貴と瞳がぶつかった。


「うわ!!」

 殆ど絶叫だった。

「瑠美奈! オイ、なんで?」

 見つかった。

 見つかって当然だが、見つかった事で開き直り、貴に近づきながら。

「何やってるの?」


 驚き顔の貴にさらに近づいて行く瑠美奈。社会人になってから一度も会っていない二人だったが、瑠美奈は何処となく大人の男っぽくなった貴に、男の色香を感じてしまった。

(うっ!!....や、ヤバい....、タカシ、カッコよ良すぎるぅ~....)


「た、タカシ、久しぶり。 元気だった?」

 椅子の横まで来て、何とか声に出せた瑠美奈。


「ああ、何となく元気だ。瑠美奈は勉強頑張っているか?」

「うん」

「一応、大学受験だったよな?」

「そうだけど、“一応”ってのは何?」

 若干だが、気分を害したみたいだ。

「ゴメン。気ぃ悪くした?」

「ま、いいけど」


 机に広げている書籍類を見て、瑠美奈が質問する。

「タカシ、何で今頃になって参考書とか出してるの?」

 そう言った時に、ドアが開いた。

 机の前で、二人が一瞬焦ったが、別段疚しい事はしていないので、若干の驚きだけだった。


「瑠美奈。ココに居たの?」

「う、うん。 タカシの部屋があまりにも静かだったんで、チョットだけ覗いてみようかなって思ったんだ」


「そう言う事か....」

 貴の納得した声。


「そしたら、勉強してたんで、今更? って思って....」


 兄妹も あぁ....そう言う事か という感じのリアクションだった。


「お兄ちゃんね、来年ね、大学目指してるんだって」

 桃菜がその理由を言うと、瑠美奈は一度大きく目を見開き、すぐに貴に問い正した。

「何処の?」



           △



 三人が貴の部屋で一緒に休憩をしている。


 桃菜の部屋に持って行った、お茶セットを貴の部屋に持ち込んでの、休憩だ。 貴は元々持ってきていたタンブラーがあったので、それにジュースを入れての、休憩になった。


「へえ、そうなんだ。 会社に許可を得て、来年から昼は会社で、普段は大学の勉強するんだ。凄いね、タカシは」

「まあな。大変な四年間になると思うが、若いうちの四年なんて、あっという間だと思いこむ様にしているんだ」

「でも大変だよね。 昼は社会人、それ以外は学生だなんて。 私だったら挫折するなぁ~」

「ま、確かに通信大学って、卒業率が低いのは知っているけど、でも、オレ頑張ってみようかなと思っているんだ」


 去年まではどれだけ行きたかったか、それを思うと、許してくれた会社側に答えるために、何とか卒業にまでこぎつける様にと、しっかりした意思を持ち、来年の為に準備を進めていく貴だった。


 そして、さっきの瑠美奈の 何処の大学?という返答に、貴は大学名を言うと、意外にも瑠美奈と桃菜が希望している大学の名が出た。どうやら希望の学部があったらしい。

 流石に通信大学は、学部が多いなと、感心したが、偏差値的に、いまだに微妙な位置な瑠美奈は、安心した判定を貰うまでは、もう一つの希望校に的を絞っているみたいだった。

 しかし、貴が行こうとしている大学に一緒に入りたい瑠美奈は、貴に提案した。



「私もタカシと一緒に勉強する。したい。....で、タカシと一緒の学校に行く」

 そう言った瑠美奈だが、貴から。


「もし一緒になっても、オレ通常は学校へは、たまにしか行かないからな、瑠美奈は自分に合ったところに行けばいいと思うぞ」

「それって、身の丈って事?」

「ま、まあ、そう取ってもらってもいいかな」


 若干の間を置いて。


「私、絶対にタカシと一緒の大学に行く! そして、時々でも良いから、タカシの出校日には、一緒にキャンパスで会って、そんで、そんで....。とにかく私頑張るから....。いいよね?」


(ホントに瑠美奈は、オレの事が好きなんだな)

 貴が思っていたよりも、瑠美奈は貴の事が好きだったのを自覚した。


「モモはどうするんだ?」

 いきなり振られたのに、若干キョドッタが。


「私ならお兄ちゃんの志望校はもう行ける程度の判定もらっているから、もうちょっとだけ頑張ればA判もらえそう、だから心配しないで。むしろ、瑠美奈の事、勉強見てやってよ」

「桃菜、それイイ! ねえタカシお願い。 私もうちょっとなの、確実欲しいから、それとタカシの勉強の邪魔しないから、教えて、ね?」


 真剣な瑠美奈の表情に、貴は了解をした。

「いいけど、オレだって会社員と勉強の両立で、今いっぱいいっぱいなんだ、そんなんで良かったら、一緒でも良いぞ」

「やったぁ! じゃあ、今からでもいい?」

「い!!....。今から....、なのか?」

「善は急げってね」


 貴は 深いため息とともに、この日、この時間から、そのまま三人で勉強会が始まった。




 






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