新井さん、アメリカおばちゃん。どっちの方が痛いのか。
「続きまして、日頃お世話になっておりますスポンサー様をはじめとしました方々から、激励のメッセージが届いておりますのでご紹介致します。……まずは、ビクトリーズスタジアム建設にご尽力頂きました、宇都宮建工、代表取締役、坂田博正様」
阿久津さんのご挨拶が終わったから、それでは隣のお部屋にご馳走を用意しておりますねで……みたいな展開かと思ったのに。
お腹はとっくにすいてますから。
入学式や卒業式みたいに、お祝いの言葉の読み上げが始まった。
そんなやらんでええやん。早くみんなで飯にしようぜ。
と思っていたりもしたのだが、球団にとって大事な大事なスポンサー様だったりはこういうほとんど身内しかない場でも大切にしなきゃいけないということらしく。
5社6社7社と、一切省略することなく丁寧にご紹介された。
「激励のお言葉は以上になります」
進行役の男性が何枚もの用紙をテーブルに置いてそう言ったので、よっしゃ飯だと立ち上がりかけたのだが………。
「続きまして、球団オーナーでありますビクトリア様より、ビデオメッセージが届いておりますのでご紹介致します。左手のスクリーンにご注目下さい」
はあ!? ビデオメッセージだあ?
アメリカおばちゃんは何してくれてんねん。
「ハーイ、ビクトリーズのミナサーン! コンニャク、チクワー!!」
投影機からの映像がスクリーンに写し出されると、真っ赤なスーツを着たアメリカおばちゃんがハーイ! とだいぶ高めのテンションで喋り出す。
日本語なのは最初だけで、残りは思いっきり英語なので、おっきめの字幕が付けられていてそれを目で追っていく。
まあ取り上げるほどたいしたことは言っておらず。椅子の背もたれに寄りかかったまま、アクビをしながら聞くくらいでちょうどよい。
ビクトリーズの皆さん、野球頑張って下さい! 私も年に何回かは応援に行きます!
アイラブ、スシボーイ!! ブッチュワッ!!
みたいなそんな内容のビデオレターも終了し……。
「それではこれより、立食形式の食事会に移らせて頂きます。……皆様、隣の大広間への移動をよろしくお願いします」
と、進行役の男性が話した瞬間には、俺は椅子から飛び上がり、両広間を繋ぐ両開きの大きなドアを勝手に解放し、赤い絨毯の上をヘッドスライディングで滑り、1番に突入する。
チームメイト、監督、コーチ、スタッフ、ホテルマン達もが、えぇ………こいつ何してんの……という表情をする中、ヘッドスライディングには向いていない絨毯との摩擦でほっぺたを痛めた俺はしばらく1人で悶え苦しんでいた。
「それでは、カンパーイ!!」
「「カンパーイ!!」」
誰かの掛け声を乾杯が発令され、食事会が始まった。
オイニーだけで予想したメニューはだいたい当たっておりまして、ピラフだと思っていたのがパエリアだったくらい。
むしろ当たり。
俺はゴリラのような動きで各テーブルを徘徊し、胃袋にご馳走を詰め込んでいく。
他の皆々様は、シャンパングラス片手にまずは談笑している様子で、今日はまだロンパオが台湾から来ていないから、おいちい料理ちゃん達は全て俺の管轄下。
試合の時よりも真面目な顔で、今後のご馳走ローテーションを考えながら食べていると同じ動きで反対側から来ていた貧乳のメスゴリラと遭遇した。
「やあ、宮森ちゃん。食べてるかい?」
口いっぱいにモグモグしながら、宮森ちゃんは何度も頷く。
「ふぁい! 幸せとはこのことを言うのですね!」
「その通りでござんすよ!」
俺達は、手に持ったお皿を料理でいっぱいにしながら、互いに情報交換をして、まだ行ってないサイドのテーブルの把握に努める。
「あ、そうでした。食べているばかりではいけないんですよ。広報として仕事もしないと……」
宮森ちゃんはそう言って、首に掛けていたスマホをこちらに向ける。
「球団の公式SNSにこの食事会の様子をUPしなくてはいけなくて。選手が楽しそうにしているところなどを」
「あら、そう。そんなこともやってるんだ。俺の写真を使っていいわよ」
「本当ですか? ありがとうございます。でも新井さんだけじゃ、イケメン成分が著しく不足するんですよね………」
なぬ。
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