第2話 メシマズ彼女な柴崎さん

「間もなく、1番線に、東京方面行きの新幹線が参ります。……危険ですので黄色い線の内側に………」




「新井さん。新井さん!やっぱり隅に置けないですね」




俺の横に立って新幹線を待つ桃ちゃんがニヤニヤしながら話しかけてきた。




「さっきの3人の女の子、誰が本命なんですか? 本当にみんな可愛いかったですよね」



「別に本命とかそういうのは………」




はっきり誰と言うのはさすがの僕ちんも恥ずかしかったのでそんな風にはぐらかすと、後ろから柴ちゃんがヘラヘラと俺にくっつく。




「そりゃあ、みのりんちゃんっすよ、桃さん。1番小柄で眼鏡掛けてた………」




柴ちゃんがそう言うと、桃ちゃんは……わあっ! みたいな顔をして俺の肩に手を置く。




「やっぱりそうですよね。なんとなく、もう2人の子と距離感が違うなって思ったんですよ!」




何を初見でやっぱりなんて思ってくれてんねん。





「いいっすよねー! 隣に住んでいて毎日料理作ってくれるなんて、新井さんは羨ましいっすよ!!」





「そういう柴ちゃんだって、あのモデルみたいな彼女いるだろ」




「ああ……。料理めっちゃ下手なんすよ。ハンバーグなんて中が真っ赤のやつ出してくるし、ご飯カチカチで炊けてないし……」





「あらそう。残念ね」









プルルルルル!




耳触りのいいベルが鳴り、ドアが閉まって新幹線が東京に向かって走り出す。





話はまだ、女性関係がどうのという流れが続行中。前の座席が回転させてこちらを向いた柴ちゃんがみのりんの料理を食べてみたいと喚き散らす。




「新井さん。みのりんちゃんの得意料理はなんですか?」




「みのりんちゃんて………。柴ちゃんよりも3つ年上だぞ。………得意料理は……基本的になんでも美味いけど、印象に残ってるのはビーフシチューかな。1番最初に食べさせてもらったのがそれで……」




「へー、ビーフシチューかあ。食いてえなあ」




柴ちゃんは流れ行く宇都宮の町並みを眺めながら、夢見るような目をしている。




柴ちゃんの彼女には、ビーフシチューはかなりの難題なのだと俺は理解した。





「そういや、桃ちゃんにはそういう女の子はいないのかい?」





俺は修学旅行気分で、駅のコンビニで買ったチョコレート菓子をバリバリ食べながらそう訊ねた。




「そうそう! 俺も桃さんのそういう話も聞きたいんすよ! 彼女はいないんすかぁ?」




俺のお菓子に手を伸ばす柴ちゃん。その向かい側で桃ちゃんは顎をに手を添えるようにして考え込む。




「大学の時は居たんですけど、すぐにフラれちゃって。そこからは全然ですね」




「そう。確かに桃ちゃんの大学は練習量が多いことで有名だもんね。遊ぶ暇なんかはないわな」





「まあ、そうですねー」








桃ちゃんが通っていた高校は、何度も甲子園出場経験がある名門校。




田舎の山奥にひっそりと校舎があるようなある意味下界とは隔離された男子校だが、野球のみならず、サッカーやバスケやバレーボールやら。




一通りの運動部は全国大会等で輝かしい実績がある、スポーツマンにとっては憧れの学校とも言える。




そこである意味癖が付いたのか、その後の野球人生で桃ちゃんが選んだ、大学、社会人チームはともに、その界隈では地獄と言われているような環境。




悪魔染みた規律に鬼のように厳しい毎日のトレーニング。




そこで頑張り切ったからこそ、桃ちゃんはその強肩と俊足。そしてパンチ力のある打撃を手に入れられたわけだが。






まあ、女の子と遊ぶほどの時間なんて皆無だったであろうとよく分かる。






「桃ちゃんはどんなタイプの女の子が好きなの?」




何の気なしに、あくまで気軽な感じでそう聞いて見ると、わりと桃ちゃんは真剣に考え込み始めた。




しばらく黙り込み、まるで誰かを思い浮かべるようにこう言った。





「やっばり、明るくで元気な子がいいですね。顔とかにはこだわりないです。前向きで少しやかましいくらいの女の子がいいかもしれないです」





やかましいくらい明るい女の子ねえ。






そんな子周りにいるかしら。







「おそーい! 皆さん方、遅いですよ!! もう集合時間になりますよ!!」





新幹線でビュイーンと東京まで向かい、羽田空港からキーンと那覇空港まで行って、そこからタクシーでホテルに向かったのだが、ちょっと遅れてしまったみたい。




柴ちゃん、桃ちゃん。他、若手選手数人とホテルのロビーに入る。



すると、ぷんすかした宮森ちゃんが俺達をやかましく怒鳴りつけた。まるで元気な子犬のようにそこらかしこで声を響かせている。




「全く、ここは宇都宮ではなくて、キャンプ地の沖縄なんですから余裕を持って行動して下さいと通達したじゃないですか!新井さん。あなたがこの中で1番年上なんですからしっかりして下さい!」




「はいはい、すみませんでしたねえ」




「はいは1回! ヘイなら3回です!」





「ヘイ、ヘイ、ヘイ!」




「「ギャハハハハ!!」」




「2人も後ろで笑わない!」




「「す、すみません!!」」



ちょっと遅くなったのは、滑走路の安全確認の為とかで15分くらい離陸が遅れたのと、空港からホテルまでの道がわりと混んでいたからであって、あんまり僕ちんに落ち度はないのだけれど。




「ほら、集会が始まりますよ。早くして下さい!」




宮森ちゃんをこれ以上イライラさせるのは可哀想なので、俺達は彼女に言われるがままにエレベーターへと乗り込んだ。





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