あのBGM付けた人を許してはならない
どこで聞いた話か忘れたが氷河期を引き起こした隕石の大きさは数十kmだっただろうか。それひとつで恐竜を根絶やしにした。それだけ隕石というものは恐ろしいのだ。
一方虚重副太陽は直径4000kmだ。いや虫食いになって体積かなり消滅してるっぽいけど、それでも体積が遥かに大きいのは言うまでもない。結果として地獄のような光景が展開されていた。
海がめくれる。大地は粉々に砕け散り球状にその衝撃波が広がっていく。それと同時に衝突中心が赤く膨れ上がりもう一度大爆発を起こした。数回の瞬きのうちに規模が広がり、日本列島が完全に消失する。
宇宙であるため音は響かず、ただ画面越しに観察できるだけだ。だから近くのApollyonから通信が入り、陽気なBGMがそこから流れ出した瞬間俺は頭を抱えた。
『テッテレテッテテッテレテッテ、テレテレテレ~♪』
「誰だド〇フのBGM流した馬鹿野郎は!」
「これが地球の伝統だってあんた言ってただろうが! 隕石堕ちたらまずはこれって!!」
「あれ予言者明らかに冗談で言ってたじゃないか!」
そんな伝統あってたまるか。もう完全にギャグシーンだよこれ。通信を入れてきた主は最も近い量産型融合型Apollyonの搭乗者らしい。チャンネルには俺以外に6人のApollyon搭乗者が入っておりそのお調子者以外の全員が苦言を呈していた。
ウィンドウには2人を除き見覚えの無い顔が映る。
「俺の300万円……!」
「そんなに賭けてたの!?」
何か思ってたのと方向性は違うけど。予言者狩りをしていた君はどこに行った。そんな思いを他所に眼鏡先輩は変わらない様子で久しぶり、と手をこちらに振る。出たな今Verにおける諸悪の根源(推定)。その向こうで着弾地点の中心が赤く膨れ上がる。
俺から見て斜め上に居たその灰色のAPは背中に固定されたボードを取り外しサーフィンでもするかのように足に装着した。そのボードは分厚い装甲版で覆われており後方に当たる部分にはブースターが張り付けられている。眼鏡先輩と同じく俺も足にはめ込む。
「蒸発した岩石に吹き飛ばされてこっちに飛び込んでくる破片への装甲、ついでに巨大ロボでサーフィンするためにこれがあるわけだ」
「いやその前にこの事態の説明お願いしますって仲本先輩!」
「資源が余ったから色々出来た。量産型融合型Apollyonも1人4体でノルマ達成できたからな、全ての規模が今までとは段違いだ。だがバラバラにすれば今までの出来事と変わらない。融合型Apollyonを造って、MNBを利用して宇宙に逃げて、逆潜して」
「仲本先生は本当に努力されていたからな!」
「何でお前が自慢してるんだよ」
「グレイグも落ち着け。折角だし説明しておこう、第2射のロンドンと第3射のワシントンの役目は虚重副太陽で巻き上がったそれらを横に弾き飛ばし俺たちの突入を可能にすることだ」
同時に衝突しかけていた人工惑星が変形し十字のような形状になり右回転を始める。その回転は今にも吹き出しそうな膨れ上がった大地に突っ込み、ミキサーの如くそれをかき混ぜ始める。地球に赤熱したシミが一気に広がり膨らみを削っていく。
「続いて第4射から第6射の3発は固定具だ。『UYK』が動けないように針として体を一時固定する。そして最後の3射で『UYK』の頭蓋に穴を開ける」
「あれ喰らってまだ穴開かないのか」
「ダメージは喰らってるだろうけど、あの大きさと硬さだとな」
続く3つの人工惑星は細い針の形に変形し少し離れた位置に降下する。これは第一射の衝撃波に紛れて大きな影響を遺さなかったものの、その長大な体の大半を大地に差し込むことに成功していた。それと共に第2、第3射の効果で熱波がかき分けられその姿があらわになる。
巨大な金属の爬虫類、なのだろう。オホーツク海を覆うかの如き大きさのその頭蓋は邪魔ものがどかされ金属の頭蓋を見せている。半分くらい溶けちゃってるけど。その周囲にぐちゃぐちゃに折り曲げられた触手が力なく横たわっている。その付け根と首元に針は突き刺さっていた。
そして最後の人工惑星が突撃する。隣でルーカスが叫んだ。
「合体だ!」
は? と思う目の前で3つの人工惑星が直列に並ぶ。一つ目の人工惑星が外部装甲を剥がし巨大なドリルとなる。その後ろの人工惑星が何十本もの足のような固定具を展開し最後の人工惑星はブースターであった。
「パリ! オーサカ! ローマ! 三位一体のスーパードリルの完成だ!」
「こんな技術どこにあったんだよ!」
もう滅茶苦茶だ。空中で合体した3つの人工惑星は大地に降下しその足でUYKの頭蓋骨を固定する。そしてブースターで加速しながらドリルを頭蓋の奥に押し込んでいく。ここからで観測できるほどの火花が飛び散り青い血が赤い大地を染める。だが数分ほどした後、遂に動かなくなり同時に勢いよく自爆した。ドン、という音がこちらにも伝わってくる。……伝わってくるだと?
見ると機体の加速度がどんどん上がり足元のボードが赤熱し始めている。そう、大気圏に突入しているのだ。時たま飛んでくる岩石の衝撃に姿勢を崩しながら何とかシステムアシストの補助を借りて降下を開始する。
壮観だった。1万に及ぶ流れ星が爆心地を目指して降り注ぐ。死の大地を攻略するべく人類の総力が今『UYK』に突撃していた。
『ゲーム変わってね?』
『そろそろログインできるぞ! 1000円ゲットだ!』
『俺たちやることあるの?』
『BGMの著作権でアカウント停止になる説』
気流に揉まれながらただがむしゃらに姿勢を保ち続ける。しばらく耐えていると雲を抜けたようで再び視界が開けた。。
大地に残るのはマグマ、抉れた『UYK』の頭蓋骨、そして頭部の断面だ。青い血液は熱により次々に蒸気に変換されていて、目があるはずの場所に2つの穴と喉に向かう一つの穴がぽっかりと開いている。その内部にもまたマグマが流れ込み『UYK』の肉体を融解させていた。紅葉からの通信が入る。
『作戦は予定通り! 内部は途中まで融解しており歩行は困難、ボードで滑って行くように!
指定された部隊は眼孔の隙間から脳を、それ以外は脊髄を狙って喉に突入せよ! 各自武運を祈る!』
それと同時に時刻は18時になる。ボードのブースターが熱を吐き空を滑り巨体が地面に舞い降りていく。遂に戦闘だ、と身震いする。果たして本当に勝てるのか。彼らの死を無駄にせずに済むのか。あとこの陽気なBGMはいつになったら止まるのか。テッテレテッテレ流れ続けてもう真面目な表情を維持できなくなってきている。
どん、という音と共に遂に融解した大地にボードに乗ったまま着陸する。俺の目の前に見えるのは巨大な穴と数多の量産型融合型Apollyonの群れだ。そして俺達に立ちふさがるようにマグマの中から何かが姿を表し始める。同じ融合型Apollyon、『UYK』が生成した防衛機構。ここまでダメージを負っていても生成できるのか、と歯噛みする。
製造速度が分からないが仮に速度が早ければ1万体いようと関係なく踏みつぶされる。大地を機械獣と融合型Apollyonで埋め尽くしたVer-2.00がちらつく。融合型Apollyonは頑強で素早い。核ですら防御に専念すれば1発なら防ぐことが出来たのだ、時間を稼がれたら最後、負けるのはこっちだ。険しい顔をする俺を他所に隣に着地していたグレイグは陽気な声で言った。
「よし、『一億
……聞いてはならない言葉を聞いた気がして咄嗟にグレイグの方向を振り向く。彼は肩に数十メートルはあろう長大な砲身が4つ重なった、ただのガトリングというには大きすぎる砲を装備していた。機体の背後が青く光り、続いてにゅっと何かが出てくる。それは砲の先から顔だけを出してきょとんとした様子で言った。
「1000円ゲット!……何この状況?」
それは機械で出来た人間だ。彼は何も理解できていないといった表情をしており、その体は弾丸の如く円筒状になって砲に詰め込まれている。動けない体の代わりに外から起動可能な爆発材が仕込まれていて一度だけそのプレイヤーは動けるようになっていた。
つまりもう一つの種族とは。どうしてVer-2.00で機械の体にログインできるのか試したのか。戦闘経験の無いプレイヤーを戦力にするにはどうすればいいか。グレイグがハイテンションで叫ぶ。
「新種族は人型核爆弾! ログイン地点は融合型Apollyonの弾倉! つまりログインしたプレイヤーの数だけ核爆弾を射出可能な最強兵器! これこそ新時代の二足歩行兵器であり、そして全ての人類が最終決戦で活躍可能な社会の完成だ!」
「馬鹿だろ!!! 誰だそれ考えたの!」
「……お前だぞ。計画名も全部お前が付けた」
「えっ」
眼鏡先輩からの衝撃情報がもたらされる。そして間抜けな顔のままプレイヤーが射出され融合型Apollyonに突っ込んでいった。もう本当に何とかしろよこいつら、という思いを他所に爆発は敵を吹き飛ばし切り開かれた道に味方が突入していく。
『え、融合型Apollyonに乗るんじゃなくて弾丸になって爆発するだけなの俺ら?』
配信のコメント欄に本当にその通りだと深く頷く。やはりクソゲー、間違いない。運営何とかしろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます