決戦前

 宇宙船が目的地の人工惑星に入り、暫くガチャガチャ音を鳴らして何やらしていたかと思うとぷしゅー、と扉が開く。もう少し仕組みを理解してみたい気持ちはあったのだが『節電中』の文字と共に電気が薄暗く何が起きているのか窓からでは把握できなかったのだ。『SOD』ボディであれば暗視とかついてないかな、と思ったけどそんなことはなく何もわからないまま扉が開く。



「お義父様、お待ちしておりました」


「全く、何なのよあの賭け。遺言にしては悪趣味過ぎないかしら?」



 そして待っていたのは見覚えのある二人。成長したカナと奏多だ。カナはいつも通りのボディースーツを身に纏い、奏多は俺の着ているやつと色違いの作業服兼戦闘服を着ている。あと今回は不老化技術が使えているのか見た目は前より若く傷がない。しかしその声音はやはりどこかとげとげしい。……前回はあの地獄を生み出したから仕方ないだろうけど今回はどうしてだ? 俺の疑問を察したカナはにやりと嫌な笑みを浮かべた。



「告白して振られたからですね。恐らく前回も」


「こらカナ! いらないこと言わないでよ!」


「あの時は最高でした。予言者の真実を知った後、ならば猶更私が支えてあげなきゃ!って突撃したあげく玉砕した姿は。護衛として一部始終を見られて本当に良かったです」


「性悪女!!!」



 奏多が顔を恥ずかしさで赤らめながら叫ぶ。本当に最悪だ。真の邪悪は『UYK』でも『革新派』でもなくカナなのかもしれない。カナはにやにやと愉悦の表情を浮かべ、奏多はその肩を全力で揺さぶり抗議するが獣人の身体能力でびくともしない。だがその顔に本気の嫌悪が浮かんでいない辺りなんだかんだ悪い関係ではないのだろう。義娘にきちんと友人ができていて安心したよ、本当に。



 周囲は駅のプラットフォームのような場所であった。ただし一つしか出口が無く看板には59番と書かれている。内装は以前と変わらず無機質であるがどことなく老朽化が見えており、張り紙に「12,13,24,28,68,72番出口は故障しており、修理予定はありません」と記載されていた。それを眺める俺をエレベーターに案内しながらカナが説明してくれる。



「2060年まで保てば良い、ということを前提に『革新派』にはあるまじきコストカットを行っていますから、どうしてもこのようなトラブルが起こるんです」


「その代わりこんな大きな人工惑星が造れた、というわけか。『革新派』の宇宙での持続的な生存とは真逆の方針か。まあ今まで成功していなかったからそんなイメージ無いんだけれど」


「忘れてるかもしれないけどVer3.00は数千人が宇宙で生存していたらしいわよ。ある意味あの段階で彼らの目的は達成されていた、だから今回は折れたという側面はあるわね」


「あー、確か宇宙からなんか投下したみたいな話あったなぁ」



 顔を見られたくないのかわざわざ俺の後ろに立って奏多が解説をしてくれる。いやお前俺を先導する側じゃないのかよ、そう思いながら無駄に長いエレベーターを昇っていく。しかしここは向こうとは違い重力がきちんとあるようで、明らかに地球よりは弱いものの脚がきちんと地に着く。蘇生鑑賞会の時のように宙に浮かないのは本当にありがたい。



 そういえば、とこの中で聞いておきたいことが2つあることを思い出した。1つは紅葉達やレイナはどうしているか。次にあの謎賭け事なんだったの?という点である。



「紅葉とレイナは会わないそうよ。もう仕事まみれみたいね」


「そんなやることあるのか?」


「『引継ぎ』、そして幾つかのシステムの再確認ですね。特に2040年側と今回は連携しますから、やるべきことは無数にあります」


「じゃあレイナは顔見せてもいいんじゃないか?」


「お義父様が罪悪感を覚えないように、ですよ。お母様は先鋒として先頭をラックと共に走ります。お母様の死体を踏み越えて進む可能性もあるんですよ? ……限りなく低そうですけど」


「じゃあ戦場で顔を合わせるか。因みに勝ち目はどれくらいなの?」


「『UYK』を淡々と処理できそう、と言った所です」


「マジか」



 それに彼女たちにとっての未島勘次とはこの俺じゃなくて共に死地を潜り抜けた俺の方なのだから自然とそうなるのだろう。少し寂しい気がするが仕方ない、と思っているとカナが爆弾を放り込んできた。



「まあ恋愛バトルに今回は決着が着きましたからね、実は私は紅葉さんと、奏多さんはお母様とお義父様を接触させるのを妨害するという役目があるのですよ。2040年での恋愛を有利にするべくアピール合戦が始まる危険性がありますから」


「ちょっと待てどっちと付き合ったの俺!? というかさっきの建前でこっちが本音だよな!」


「4択です。どちらかか、あるいは両方。もしくはテオさんのいずれか。さてどれだと思いますか?」


「ちょっと待ちなさいアイツなんかを入れる代わりに私を入れなさい」


「テオさんは振られてませんがあなたは……」


「ムキ―――!!!」



 奏多がコミカルに怒りを表明する。いや凄く気になるんだって。だって今まであんだけ距離近かったのに未来への絶望で付き合う所まで行かなかったのに今回はたどり着いた。つまりそれくらい行き詰った絶望感が取り払われたのだ。彼らは残った時間を楽しもうと思えたのだ。


 

 決着がついた、それが一番俺の心の疑念を払った。そう思えるくらい手段が揃ったのだ、今回は。だから俺がするべきなのはポーカーフェイスを保って残り数時間を突っ切る事。そして全てが終わった後にロボゲーを他Verの俺の分まで楽しむ事。本当にそれだけなのだ。


 

 Ver4.00の俺、ありがとうと内心で思いながらエレベーターを昇りきる。その先はまた無数にコンベアが広がっていてカナが端末になにやら打ち込むと自然と俺たちの体は運ばれ始める。カナが申し訳なさそうに少し手を合わせた。



「という訳なので申し訳ありませんが待機室で私たちと話していて下さい。やはりこの話は未来の私達ではなく2040年の皆様で決めるべきことだと思いますから」


「ちょっと待って私はセーフってこと!?」


「その線はかなり薄そうなので別にアピールされても影響はないかな、と」


「何ですって、よし予言者様見ていて下さい私のセクシーさを!」



 少し昔の口調を取り戻した奏多が服のジッパーを下ろそうとするのを万力の如き力で阻止するカナを見て仲がいいなぁと微笑ましい気持ちになる。なんというか楽しそうだ。悲壮感のないこの空気に俺はほっとして待機室まで進んでいった。



「あの復活の賭け事本当に何だったの?」


「やりたかっただけらしいです、私も意味は分かりません」


「じゃあ何でやったんだよ俺……」

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