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 紅葉にとっての最善の策は『焦耗戦争』を俺が脱出した後に行い、この作戦はログイン制限がかかった状態で実行される事であった。そうすれば俺は最初から最後まで蚊帳の外ですべてが終わっていた。だが現実はそうもいかない。俺が46式を煽ったからなんだけどね。



 ログインした俺の目の前にあったのは無数の人間の視線。そこは巨大なスタジアムだった。床は見覚えのある白い金属製のもの、Ver2.00の箱舟と同じものだ。その中心に俺の入った棺桶が置かれており、その周囲を無数の人々が席に座って俺を見つめている。そして俺が体を起こした瞬間会場が絶叫に包まれ白い床が16777216色に彩られる。



「予言者の復活は13時48分でした!!! オッズ2.6倍、当選者の方はおめでとうございます!!!」


「嘘だろ最速だと思ってたのに……何でこんな微妙に遅いんだ! 日本人は時間通りじゃないのか!」


「よっしゃ当たった! 全財産つぎ込んだかいがあったぜ! これで俺も年収1千万!」


「予言者が予言通り復活したぞ!」




 歓喜と悲鳴の中でこれは絶対に俺の悪ノリだな、と一人確信する。なんというかしょうもないダジャレの部分が。蘇るのは預言者の仕事であって予言者のやったことではないんだよね。あとお前ら多分『HAO』のシステム分かってて言ってるよな? 復活するのは必然なの分かったうえで玩具にしやがったな。



 若干呆れながら俺は胸元から服の下に手を入れやはり硬質な部分があることを確認する。だが前回とは異なり生身の温かい部分がかなりの割合であるのが意外だった。まあ前回は疑似『SOD』とか言ってたけどあれじゃあ実質機械獣だったしこっちの方が本来の目的に近いのだろうなぁと思いながら周囲を見る。俺を中心に騒ぎ立てているのは様々な人種のそれはもう多種多様な人間だった。獣人もいれば改造人間もいるし、しれっと『SOD』らしき人まで混じっている。それが数万人。過去ではありえない人口密度だ。


 

 Ver3.00の総人口ですら今この場にいる人間の半分ほどなのだから。しかし歓声は鳴りやまずどう対応したらいいものか、と思っているとスタジアムの中心ががこんという音と共に下に移動されていく。体が浮いたままの状態であることに気が付きああ、そういえばここは人工惑星だったな、と俺は思い出した。あわてて手持ちらしい場所をひっつかみ棺桶と共に下に引きずられていく。



 暫くの暗闇を抜けるとがこん、と音がしてエレベーターのような部屋がぽつんと目の前に現れる。そこにはかつての牢屋を彷彿とさせるような直方体の寂れた空間だ。その中には人一人おらず見覚えのある端末がぽつんと置かれていた。これに乗れという事なのだろう、と判断しその中に入ると扉が閉まり、ぷしゅーと気の抜けた音と共に密閉される。



「人工惑星間移動用小型宇宙船P14356号にご乗車頂きありがとうございます。当船はこれから20分ほどで人工惑星オーサカ、鋼光社本社に到着します。解説付きのゆったりとした旅をお楽しみください」



 扉が閉まると共に端末から声が流れこの箱が加速しはじめる。急速なGに押されながら箱はどこかへ走っていく。透明な窓から見える誘導灯が100を超えたあたりで加速が停止し箱はぽん、と外に追いだされた。そこでようやく自分が何をされていたのかを窓越しに理解する。



 宇宙。無限の闇が広がるべきはずのその場所に大きな星が出来上がっていた。俺たちが出てきた穴は閉じられ扉には赤いバツマークが表示される。それは巨大な建造物のごく一部でしかなかった。そして窓の他の方向を見るとその塊が何個もある。1,2,3……8個。



「船の後方に見えますのは人工惑星パリです。右手に見える最も大きなものが目的地のオーサカとなります。『革新派』と『教団』の連携によりこれらの建築は順調に進み8つの都市が地球を中心に回り続けております」



 星、というにはそれらは無機質であった。最も近いイメージを挙げるならばウニだろうか。小さな球の上にビルという針が本来の何倍も長く伸びている。その金属の壁を虚重副太陽が照らしており、周囲に2つの平べったいナニカが周遊している。それらは厳重に巨大な鎖がかけられており、そしてその片方に俺は見覚えがあった。



「月の『UYK』?」



そう呟くと同時にその疑問を肯定するようにアナウンスが響く。



「虚重副太陽の隣に見えますは通称『干物』、月の『UYK』とハレー彗星の『UYK』となります。両方とも討ち取られ最終決戦と共に逆潜する予定となっています」



 やっぱそうだよなあれ! 遠距離からチクチク触手弾を撃ってきたクソ野郎。しかもしれっともう一体捕獲されているのを見るとちょっと面白い。そいつラスボス並みの実力あるだろ、いつの間にか倒されていやがる。



 外を眺めているが壮観である。静かに進む宇宙船の周囲はVer-1.00と比較してもあり得ないくらいににぎやかになっている。文明の光。ちらほら影が見える他の宇宙船。遠くでは融合型Apollyonらしき姿が何やら人工惑星に帰還していく姿も見える。人がいる。数多の人が生きて2060年を迎えている。スタジアムであれだけ歓喜できるような元気を持ったまま。



 本当に良い世界になった、と俺は一人胸を撫でおろした。Ver-2.00のようにより酷くなってしまったらどうしようという思いは完全に杞憂であった。きっと前の俺が上手くやったのだろう。任せろ、と言ったとおりに、完璧に予言者を演じたのだ。死ぬまで。ありがとう、と心の中で感謝を告げる。



「なおこの『UYK』討伐には『最強』と名高い仲本豪氏が関わっています。分裂体24体の討伐を成し遂げた氏は―――」



 いや俺のせいじゃないかもしれん。何だ24体って、半分以上殺してるじゃねえか化け物かよ!

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