《Shed Armors System》

 金色のApollyonが到達するよりも早くパワードスーツの脚力は俺をコクピットにたどり着かせる。見覚えのある、しかし何段階も進歩した数多の装置が俺を出迎えた。パワードスーツのコネクタが首から外れ代わりにApollyon用の制御装置が取り付けられる。




 俺は機体を狭い空間の中で無理やり回転させオーバーヘッドキックの要領でコンテナを吹き飛ばした。このApollyonが積まれていたコンテナは凄まじい速度を得て金色のApollyonに突撃、しかし相手は余裕を持って回避する。が、これで搭乗の隙を狙われて死ぬという展開は回避できた。




 最大の隙を突き損ねた金色のApollyonは宙に浮かび静止する。その隙に自分の設計通りかを確認するために機体詳細を開く。



 機体名称『ファルシュブルー欺瞞の青』。青色の量産型Apollyonであり、見た目は重装甲の四角い姿である。青い装甲で全身を覆い長いはずの手足が本来よりも短く見える。センサー部位である顔には不気味なモノアイが鎮座しており辺りを見渡していた。



「攻撃してこなくていいのか?」



 片手間でヒニル君を挑発して見るが何の反応もない。……となるとこれは確実に倒せない以上時間稼ぎに移行した、という認識でいいのかもしれない。『革新派』の皆様がやっている何かを達成するためには恐らく俺たちがたどり着きさえしなければ良いのだ。



 だから情報のない状態でも動かなければならない。



 左腕を構える。その先にあるのは通常の手ではなく砲。『ファルシュブルー』の左腕は右腕の倍ほど長く、装甲と一体化した『鋼光社製融合型Apollyon用燃焼兵器UK-12』が取り付けられている。いわゆる武器腕、というやつだ。狙いを金色のApollyonに定め、引き金を引く。



「発射」


「英雄モドキならいきなり撃ち込んでもいいってことかオイ、羨ましいな!」



 だが空を舞う金色のApollyonは蝶のようにひらりと回避する。F式、つまりマイナス質量物質による飛行を行うヒニル君の機体は常に0gに近い状態であり通常のエンジンや人工筋肉による回避よりもさらに素早い、改造人間に近い回避の反応速度を得ることが出来る。ただし人間の反応速度に依存するのは変わらず、だからこそこの結果は恐るべきものだった。



 確かに俺はヒニル君と直接戦ったことがない。いつも勝手に自滅してるな、くらいの認識で頭の外に置いてしまっていた。



 だが彼は『BCD』の上位プレイヤーである。それに加え幾つもの死線をくぐったとするならば。



 金色の姿が揺らめき消える。咄嗟にその場から飛びのき、目の前に弾丸の雨が横から降り注ぐのが見えた。


 そう、横から。



 右を振り向くと金色のApollyonが拳銃を構えている姿がある。いつの間に、と考える暇も惜しんで再び前転し回避すると今度は左から弾丸が降り注ぐ。ご丁寧なことにその弾も全て金色であり、気が付けば金色Apollyonは再び建物の上空に浮かび上がっていた。



「どうだ、手も足もでないだろうオレンジ! お前の実力なんて俺と『アグリーゴールド』の前では雑魚に等しいんだよ!」



 再び金色の弾丸が四方八方から降り注ぎ、回避に専念するがそれでも何発か喰らってしまう。一発一発の威力こそは低いものの装甲の隙間を狙うその射撃は機体にダメージをじわりじわりと蓄積させる。その速度に反撃の糸口が見いだせず焦り……はしなかった。俺は自分の興味がある事に対しては記憶力抜群で、そしてMNBの説明の際に言われたことを一言一句覚えている。



 《情報:敵機の機体温度摂氏624度まで上昇。オーバーヒートまで376度》



 そう、あんな無茶苦茶な機動を何回もできるはずがないのだ。俺に反撃されないためであれば右から左から射撃する必要はない。しかも常時飛行を続けたままでマイナス質量物質の冷却が間に合うわけがない。ないない尽くしの代償こそがオーバーヒートの近づくヒニル君の機体なのだ。



 そしてマイナス質量物質が1000度を超えれば変性しいかなるMNBも使用不可となる。



「来いよ、ヒニル君」



 だからこそ俺はあえて挑発を行う。だがヒニル君はそれに応えず代わりに『アグリーゴールド』の右手を上げた。



「ああ、だが相手をするのは俺じゃあない。いけ、無人機ども!」



 瓦礫の隙間から無限軌道と二脚の足音が響き渡る。この瓦礫の山を囲むかのように3台の戦車と2体のApollyonが姿を現した。気が付かなかったというよりは『アグリーゴールド醜い金』により意識を逸らされてしまった、というのが正しいのだろう。



 そして戦車が俺に向かって発砲する。その照準速度はリアルで見たものの何倍も速く、しかしMNBを使った加速には敵わず3発とも瓦礫に着弾し、耳を塞ぎたくなるような轟音と共に粉塵をまき散らす。



 隙をついて戦車に近づこうとするも無人機のApollyonがアサルトライフルを構え俺に発砲する。動きは鈍重であるが射撃は極めて正確に『ファルシュブルー』の脳天を捉えていた。だがその銃弾をすり抜けるように重装甲の体は姿勢を低くし潜り抜ける。そして姿勢を更に低くなるよう体を回し遠心力で足だけを腹に向かって叩きつけた。MNBによる加速で叩きつけられた何百キロもの金属塊は容易に無人機Apollyonの胴体を引きちぎり内部の装置を砕き尽くす。戦車砲と比肩する威力の蹴りが残骸を幾度となくバウンドさせた。



 これがMNBの話を聞いてて考えた、デカくて重くて速い機体がMNB使えば最強なんじゃね説である。そのためオーダーメイド段階であえて質量のある、重装甲型にしたのだ。勿論UK-12による狙撃戦を行うためでもある、なんせ今までの機体だと装甲が薄すぎるのだ。火力がインフレしていっている状態に装甲を合わせていく必要があるのだ。



 次にブレードを引き抜き飛び掛かってきた無人機ApollyonをMNBを使って跳躍しスルー、瓦礫を3度足場にして飛び跳ね戦車に突撃、そのまま戦車を力づくで振り回し他の戦車に直撃させる。俺の鈍間そうな機体が曲芸じみた真似をしたのに驚いたのか無人機Apollyonも戦車も全く反応が追いついておらず面白いようにきょとんと動きを止めてしまっていた。だが戦車を振り回した瞬間足が止まっていた所を狙い再起動した最後の1台の戦車が発砲、その弾丸が俺に当たり火花を散らす。衝撃がコクピットを襲い思わず目を閉じた。



《情報:敵機の機体温度摂氏127度まで減少。オーバーヒートまで873度》



 凹んだ装甲が軋む音とエラーの鳴り響くコクピットにトドメの言葉が降りかかる。『アグリーゴールド』の冷却がほぼ終了し、あの動きが再びできるようになったという事実。いやらしい立ち回りに舌打ちをするがその音が鳴り響くよりも早く『アグリーゴールド』は俺の背後に飛翔し拳銃を構えていた。



 銃撃が完全に俺の体を捉え装甲がはじけ飛ぶ。拳銃を基本装備とする『アグリーゴールド』にとっての最大の障壁が地面に落ちる。だがその結果を見ていち早く悲痛な声を上げたのは俺ではなくヒニル君の方であった。



「な、なんだそれは!」



 既に機体に傷はない。いや、正しくは『ファルシュブルー』の機体は、傷がある部分を全て破棄していたのである。鈍重な装甲を脱いだ、スリットアイの細身のシルエットが砂埃をかき分け現れる。コクピットにAIの機械音声が流れる。



《《Shed Armor装甲破棄s System》起動。『ファルシュブルー』、機動形態に移行します》

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