借金200万
あれから裏色愛華は眼鏡先輩こと仲本先輩を連れて行ってしまった。遊んでやる必要ないって、などと必死な様子で言っていたのが印象に残る。
ちなみに彼女も先輩らしい。この大学に編入してきたらしく仲本先輩より更に1つ上であった。あの妙な動作を見てるとあまりそうは思えないが……。
それはそうと、と家の扉を開け部屋に入る。最近近所の人と会うことが減っている気もするがまあどうでもいい話だ。大学生にご近所付き合いなんて概念は薄い。
いつも通りの若干散らかった部屋をほいほいと移動し買ってきたクッキーを机の上に放り投げる。その下では今時珍しい紙の書類が寝そべっている。内容は受講登録についてだ。
大学の授業は3種類ある。一つは対面。もう一つがオンラインでリアルタイム、そして最後がいつ受けても構わないオンライン講座だ。最近は一番最後のものが多く、実は時間に関しては一世代前の大学生よりさらに自由になっている。
その代償として授業のペース配分をミスして留年する人が続出する問題が出てくるのだが。便利になるのも善し悪しである。
まあそんなわけなので『HAO』にドハマリできる状況が出来上がってしまっているのである。紅葉とレイナが先輩にならないようにだけは気をつけなければならない。
そう思いながら『HAO』を起動する。いつも通りの無機質な画面が暗転しーーー次の瞬間、俺は牢屋にいた。
「は?」
大幅なアップデートが合ったというのは本当らしく、今までの様子とは一変していた。まず周囲に俺の機体がない。次に俺の機体がない。その上あの崩壊した建物とは違いこの牢屋にはヒビ一つない。あるのは何かのシミがついたままのベッドとよくわからない端末だけである。
つまりあの人工惑星の時と同じく何らかのイベントが発生しているということだ。そう判断した俺は早速牢屋の鍵を弄ろうとする。こういうのは大抵どこかに脱出用のアイテムがあるか、あるいは騒いでいれば何か起きるのだ。
その予想に反してそこには何もない。電子錠らしきそれはカードを差し込むような場所すらなく、『獣殺し』でも打ち込めば鉄格子自体は破壊できるだろうがそこから先がないだろう。警備隊の類が出てきて射殺されて終わりだ。
しばらくガチャガチャ鉄格子を触っていると電源が切れていた端末が動き出し赤い文字列が映る。
『警告:外出権を購入していません』
……外出権? なんだそりゃ、と疑問に思い端末に向かう。埃を被ったそれはタッチパネルになっており俺が最近使っているタブレットとそう大差はない。
『ようこそ
『システムの説明を致します。本船の所有資源には制限があるため、皆さまの中で貢献の多い、有能な方にのみ資源を配布いたします』
酷い言いようである。それと共に表示される数字の羅列に目を凝らす。
『レーション:100万円』
『飲料水(500ml):30万円』
『Apollyon関節部交換用部品:3万8230円』
『改造人間用武器腕鋼光社製マシンガン(中古):8万2345円』
『外出権:160万円』
『デスクトップパソコン(中古):8000円』
殺しに来ているのではなかろうか。総じて生きるのに必要なものほど価格が高く、一方で機械などは兎に角安い。これ、人工惑星の時と同じくログイン制限を受けた人大量発生しているのではなかろうか。画面の右上には0円と表示されておりいずれも購入できないことを示していた。因みに先輩と待ち合わせしている場所は牢屋の外である。外出権購入のためには160万円必要、無一文には余りにも厳しい。
えーっと、どうすればよいのかわからないので画面右下にあるナビゲーターらしきイルカをクリック、質問を書き込む。回答はすぐに帰ってきた。
『自身の肉体を担保に100万円を借りることが可能です。利子は
「利子10割!?」
あまりにも法外。年間の金利20%が基本と言われていることを考えると……考えたくもない酷さである。あるいはそれだけ貸し出すのにリスクがある、金の帰ってこない状況なのかもしれないがそれにしてもである。
そして追い打ちのように文字列が俺に向かって事実を叩きつける。
『Q&A使用料として1000円が徴収されます。……所持金が足りないためあなたの肉体を担保として100万円貸し出します』
それも金かかるのかよ。右上の残金は99万9000円を示している。まさかの強制借金システムである、これは掲示板でクソゲー連呼されているに違いない。某どうぶつの森林でもこんな酷い借金システムではなかったぞ。しかも返却できるタイミングが日付変更時の一時間のみである。つまり必ず利息10割がついてしまうのだ。俺の借金、既に200万である。
『闘技場:生産性の低い人間を処分、並びに娯楽を乗船者に提供します』
『その他の貢献方法は全体への貢献度に伴い解放されていきます』
が、このイベントの概要は理解できる。タイムリミット付きの自由度の高いトーナメントだ。金銭という制限を設けることでトーナメントへの参加を促しつつその範囲で自身の拡張ができるわけである。
何故急にこんなイベントをやりだしたのかいまいち運営の意図は理解できない。が、やらせたいことはわかるような状態だ。つまり俺は今日中にこの99万9000円を使用して闘技場を勝ち抜き、借金を返さなければならないのだ。
「……となると闘技場の稼ぎがどれくらいかが一番重要だな。収入と支出を考えなければ破産待ったなしって偉い人が言ってた」
調べると対戦相手により賞金が変わって来るらしい。最低のFランクが10万円でAランクになると1000万円もの賞金が手に入るようだ。また賭けシステムが存在し対戦相手のランクによってオッズも変わってくるようだ。この二つを合わせて稼ぐわけであるが一方で対戦のランク制限というものも存在していた。
今の俺のランクはFであるが、俺を倒しても大した賞金にならないため相手をしてくれないのだ。まあこんなクソシステムではそうなるのも仕方がないだろう。
俺は今日一日では借金を稼ぎ切れずに破産する。これは絶対の事実である。
故にやることは一つ。眼鏡先輩、お金貸してください!!!
なお金を借りるには外出権(160万円)を購入する必要がある模様。
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