似た者同士

 オレンジ、と声を上げた女は俺の2つ上くらいの派手な見た目をしていた。髪を赤に染め露出の多い独特な服を着ていた。おそらくどこかのブランド物であろうそれに似合う濃い目の化粧は見た目よりさらに大人びた雰囲気を出している。


 一方の眼鏡先輩は黒髪黒目の背の高い男だ。カジュアルなジャケットを少し不慣れそうに着ていて、清潔そうな様子をしている。俺を見て戸惑っている女性を見て首を傾げ、こちらに問いかけてきた。


「なんだ?」

「あ、あの僕新入生なのですが……」

「ん?……あー、うん」


 ぶっきらぼうな問いかけに恐る恐る返事をすると眼鏡先輩は面倒くさそうな表情を見せる。が、背後にいる彼女?を見て少し悩んだ後俺に向き直った。面倒くさそうな様子はさらに増したが少なくとも対応せず放置する、といった様子ではなさそうだ。


「お前、愛華あいかと知り合いなのか?」

「いえ知りませんが……。僕の服の色が今日のラッキーカラーだったりしたのでしょうか」

「星座占いを好んでいた記憶はないが、なるほどそれなら筋は合うか」


 気が合う。最近自説を唱えても何故か白い目で見られることが多かったためすんなり通るのは新鮮だ。俺たちの会話を聞いて愛華と呼ばれた女は口をパクパクさせている。酸素の無くなった金魚にしては装飾過多であろう。


 それはそうと手間を取らせすぎるとまずい、と本題に入る事にする、端末を開き履修要件のページを彼に見せた。


「履修登録について伺いたいんです」

「……なるほど、それで俺に声をかけたわけだな。だが全部話すと長くなるぞ、何を聞きたい?」

「えーっと、まずは4年間でのスタンダードな受講方法なんですけど……」


 俺の端末を見て何の話か理解した眼鏡先輩に向けて質問攻めのラッシュを行う。眼鏡先輩も俺と同じく履修登録で躓いた人間らしく定番のスタイルを親切に教えてくれる。なるほど、このよくわからない表はこうやって見るのか。てか卒業要件はサイトど真ん中に載っているのに進級要件は隅っこの方にしか載っていないの詐欺だろ。だから必修は最速で取りきる必要があったんですね。


 大学の受講登録本当にクソ、と意気投合した俺たちは近くにあったベンチに座り話を続ける。10分ほど話をして俺も大体イメージがつかめてきた。



「なるほど、意外と選択肢少ないんですね」

「ここ本当に面倒だからな。同情する」

「昨日一日かけて格闘したのに勝てませんでしたから。最近疲れてるんですよ、ゲームしすぎたかもしれません」

「……それは流石にかかりすぎな気もするが。受験勉強よりは遥かに楽、……といっても俺も最近似たようなものだから何も言えんな。寝ても疲れが取れていない感覚が続いていて勉強していても思考が回らないというか適当な所でお茶を濁してしまうというか。ところでゲームって何をやっているんだ?」

「ロボットものが好きで受験期間に溜まってた積みゲーを消化してます。例えば『スーパーロボット大合戦』とか『アーマードギア』とか『カスタムマシーン』とかです」

「有名だよなあの作品。俺もやってみたいがどこから入ればいいか分からなくて」


 女は電話と言って少し離れてしまっていた。戻ってきたら欲しい情報も得たし別れようか……と思うがなかなか帰ってこない。正直デートの邪魔をするのも申し訳ないし。


 しかし大学生活で俺にも彼女ができるのだろうか。紅葉とレイナは明確に仲がいいし距離も他と比べて遥かに近い。『HAO』で出会った彼女たちが真にリアルを再現しているのであればガンガン押し込めばそういう展開に持っていける可能性がある証明になりそうだがあれはゲームなので過剰な信頼はNG。


 ……となれば告白すればワンチャン?なんて思うわけだが自分の中には少しもやったしたものが残っている。それは何というか、恋への神聖視というか。『HAO』での経験を思い出すとちょっとした性欲と好意だけで突撃するのが躊躇われてしまうのだ。あの別れが矮小なものになってしまう気がして。


 そんな俺の内心を他所に眼鏡先輩は残念そうな顔をして言った。


「そうか、『HAO』はしてないのか」

「してましたよ。でもあれサービス開始から30日経っているのにプレイできるの7日って伝説を作りましたからね。数日前にサービス再開したらしいですが」

「あれだけサービスが不安定だと困るよな。オンラインゲームだと作業だけさせられて目的の構成を組めずに終わることあるからな……」

「結構詳しいんですね」

「趣味はゲームと勉強だ」


 思ったより話の合う眼鏡先輩に驚く。少し楽しくなってきたのか面倒くさそうな表情は消えて心なしか楽しそうな様子になっている。まだ女が帰ってこないので話を続けてみることにする。


「『HAO』ではどんな構成を組んでるんですか?」

「Apollyon特化型だな。今回のアップデートでApollyonが大分有利になったらしいと聞いて使ってみたらハマったんだ。闘技場でApollyon使い同士で対戦したんだがとんでもない迫力だっだぞ」

「……闘技場?」

「ああ、前の時にはなかったらしい。あと装備も増えたから俺は近距離特化のマイナス質量ガン積み機体に調整している」


 ……なんだか違う世界の話を聞かされている気分である。しかし同時に『HAO』への欲が俺の中で少しずつ戻りだしているのを感じていた。それだけのアップデートを加えるという事はまだサービス終了する予定はないということで、そしてその期間の間にApollyonで遊んでみたいと思ってしまったのだ。


 今遊んでいる『カスタムマシーン』はいつでもできるが『HAO』は来月にはできなくなるかもしれない。Apollyonにそれだけのアップデートが入ったのであれば今のうちに遊んでおくのが良いだろう、と思うのだ。


「つーちゃんごめーん、待たせたよね~ー!?!?」


 女が電話を終えて帰って来る。猫撫で声が一瞬で驚愕に変わった理由が俺にはいまいちよくわからなかった。オーバーリアクションの方が可愛いのかもしれないがタイミングを明らかに間違えている。


「じゃあ今日の18時に遊びましょう。あ、名前は未島勘次。工学部機械科の一年生です」

「わかった。俺は仲本豪なかもとつよし、機械科の2年生だ。今帰ってきたのが彼女の裏色愛華だ。よろしくな」

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