急展開2

 さて、この状況をどう受け取ればよいのだろう。5年ぶりに紅葉と会ったわけでもないしましてや20年前というのも意味が分からない。となるとこのクソゲーのクソポイントその1、リアルと妙に連動しているという話に関りがあるはずだ。



 つまり彼女は2055年を偶然生き延びてしまったNPCの紅葉なのだろう。しかし現実の人間を採用するとか文句言われないのだろうか。仮に元になった人物が犯罪とかしたら差し替えになってしまうのかもしれないが、それはさておき、空だ。



 巨大、というにしてもあまりにも大きい機械獣だった。ドーム何個分だろうか、と考えてしまうくらいのサイズであり遠近感が喪失するほどである。見上げていると触手の先端部が変形を始める。先端の金属装甲が剥がれ内部の筋繊維が露出し、自らを捻じ曲げつまむような形を取る。そして弾いた。



「回避せんほうがええ!」


「マジ?」



 紅葉の言葉に思わず体が固まる。何言ってんだと叫びそうになったがその硬直が結果的に俺の命を救う事になった。砲撃は俺の右方向に着弾する。先ほど俺が回避した距離と全く同じ位置に。重力の力により大きく加速した弾は質量兵器のように降り注ぐ。



 そして奴の体から生える無数の触手が同様に先端を自切し質量兵器のまねごとをする。威力が足りないとみたのか、さらに高度を上げてだ。この敵には知能がある。経験から予測する力と複数の選択肢を思いつく力が。これが。



「機械獣……!」


「いや機械獣ちゃうで」


「えっ」


「そりゃそうやん、こんなんばっかりやったら絶望やで。こいつは月の『UYK』や」



 分裂体とかでもないで、と牽制を入れられる。え、なにこれ。月の、とか言っている辺りラスボスではなさそうだけど明らかにそれに近い、ゲームなら序盤の負けイベントにいるようなキャラクターだ。



 砲撃を今度は全速力で左に避ける。高度があがった分着弾までの時間は伸びたが衝撃波と破片が機体を震えさせる。それが連射されるのを感じ足を走らせる。秘儀、AI殺しの技。チーターのオートエイムを外すために習得した謎ステップLv3!



 やっていることは単純だ。先ほど避けた俺の癖から次のエイムを予測するのであれば少しずつ角度と距離をずらしてゆき、その法則性を見つけた瞬間逆方向に動きをシフトさせるだけ。これで予測型のエイムチートは大体外せる。純粋にエイムを追わせるチートの方が脅威だけど機動力が高くラグのあるゲームでは上手くいかないことも多かったりするのでこのステップは結構実用的なのだ。



 少なくとも上にいる機械獣、いや『UYK』はこの動きに惑わされその連射を外す。大地が揺れドームが再び粉々に破壊されると共に粉塵が真空中を飛び回り地下の入り口が露出する。大きな通路、恐らく作業機械などを運搬するための専用の通路だ。通信機から紅葉が叫ぶ。



「そこに逃げ込み!」


「言われずとも!」



 体を滑り込ませる。振動の中、先ほどのドームと同じような内装をした通路を歩く。この部分はいざという時の緊急避難通路としても使われていたらしく、ひび割れや崩落はあれど完全な行き止まりは存在しない。数分するとこちらを見失ったのか砲撃が止まり静寂を取り戻す。その中で紅葉はすぐさまナビゲーションを始めていた。



「そこを右や。そんで砲撃台にたどり着く」


「……なあ、これ何すればいいんだ?」



 紅葉の指示に従いながら俺は聞く。このゲームの目的が読めなかった。まだ前の時ならみんなで協力して分裂体を倒そう!であったわけだがこれはなんなのか。参加できないプレイヤーを大量生産して戦力差は絶望的。しかもリーチ的に上の奴に届きそうにもない。砲撃台とやらを使えばどうにかなるかもしれないけど、これはソロプレイ用のゲームではないはずなのだが。



 俺の疑問を察したのか紅葉がうーんとうなった後、少し強い声で返事をした。



「そう、これはイベント戦闘や」


「メタいな、NPCが言っていいのかそれ……」


「ちが……コホン、真空内での活動が可能、という条件が満たされたのでイベントが開始したんよ。ほらよくあるやん、特別なアイテムを持って街に入るとムービーが入る的な」


「ということは他プレイヤーも条件を満たせばできるってことか?」


「残念先着一名様です」


「クソゲー」



 メタい話もできるようだ。ゲームの中のキャラクターが自分をゲーム内の存在だと認識したらバグらないのだろうか?と思ったがまあそれはそれとして。なるほど、イベント戦闘か。それならばこの戦いの意図も理解できる。『UYK』のお披露目も兼ねていたのだろう、とも思うがもし配信してなかったらどうするつもりなんだろうこれ?



 もう少し走ると目的の地点に到達する。二つの太陽が東に見えていて、それに覆いかぶさるようにあの蛾が存在する。あれに何故気が付かなかったんだ?と思ったがその理由は少しづ移動するその姿で理解した。なるほど、あの『UYK』は他の星と同じなのだ。一定の周期で回転している。だからこそ俺は初め空を見上げた時にあんな巨大な蛾に気が付かなかったのだ。



 月の『UYK』は俺を見失い続けている。通信機からもう一度声がした。



「そこの砲台であいつを射撃するんや。それであの人らもうちも救われる」


「え、これできなくないか?」


「今ブレードに接続しているアタッチメントあるやろ。それを砲台下にあるパネルを開いたら出てくるコードに接続すんねん。パスワード送るな」



 話が早い、とんとん拍子に進みすぎている。とはいってもこのままだと酸素が途切れて死んでしまう。ここまでスピーディーなイベントなのはその部分を配慮して……ないだろうな。そんなことができるならもっと良いイベントにしているはずで単に誘導が足りないのに気づいていないだけなんだろう。プレイヤー置いてきぼりだぞこら。



 瓦礫の中を掘り返すとすぐに巨大な筒が出てくる。砲台、というだけありそのサイズは20メートルを超える。口径は50cm程度ではあるが戦車の弾は15cm程度が最大なのを考えるとその威力がわかる。武骨な砲身を取り出し言われた通り根元のケーブルとAPを接続させると機体に何やらインストールされ、新しい表示が画面に加わった。



「『残弾1、砲撃準備完了』って出てるな。電源は……非常用?」


「OK、うちはその非常用電源をオンにしに行けなくて困っとったんや。オンラインでできるようにするべきやったなぁ……。まあそれはともかくAPと同じように操作してみ」



 凄まじい無茶ぶりである。だがそのプログラムの性能は見事で確かに砲台が移動してゆく。砲台の根元にいる俺は少し感動しながらその軌道を目で追っていた。砲台自体は故障していないようで正確に俺の動作を真似してゆく。



 ――そして、奴に狙いがついた。



「燃焼兵器やから弾速が圧倒的や、重力とかの影響はあまり気にせんでええよ、その代わり発射速度は若干遅いけどな。まずは当てることを考えて」


「ほいほい。ってあいつ地平線の下に沈みそうになってるから撃つか。はっ……!?」



 発射のスイッチを入れようとした瞬間だった。奴の目が光り急速に触手を縮ませ、一瞬で発射してきたのは。ああそりゃそうだ、あれは『UYK』機械獣の王!そりゃ野生の直感みたいなものあってもおかしくねぇよな……!



 視界が白に染まる。射撃が間に合わないと判断した俺は体を丸め被弾面積を減らそうとするが、それを嘲笑うかのように衝撃が暴れまわった。

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