第6話 待望? 絶望? 魔物牧場へ

 俺とルーチェ様は魔王様が用意なされた魔物牧場へと向かっていた。

 途中、ルーチェ様の愚痴みたいなのが聞こえてくるが、気にしたらいけない。嵐になる。

 しかし、魔王城の外にそんなところがあったかな?

 転生した際、一度案内はされたけど、空き地らしきものはなかった気が――。

 ヒヒーンッ!

 ガウガウッ!

 あれ? いきなり嫌な予感がするんだけど?

――急ぎましょうッ! ルーチェ様ッ!――

「……どうせ、あたしなんて……」

 出たッ! ルーチェ様のネガティブモードッ!

 一度発動したら長くて一時間は切り替えにかかるぞッ!

――ルーチェ様ッ! 急いでッ!――

「……いいの? こんなあたしで……?」

――来ないなら、置いていきますッ!――

「……ったら……って」

 ん? 小声でなんか言ってるぞ?

「だったらおぶって」

――はいッ!?――

 ネガティブどころか幼児退行しちゃったよッ!

 どんだけショックなんだよッ!

「とっととあたしをおぶれッ! スライム&ワイバーン馬鹿ッ!」

 急に饒舌でなに言ってんだッ! この堕天使様はッ!

 でも、牧場と思しき方角から大きな鳴き声が聞こえまくるしッ!

 ルーチェ様は幼児退行中だしッ!

 状況がカオスなんだよッ!

 もうしょうがないッ!

――乗ってくださいッ! 急いでッ!――

「わーい」

 ルーチェ様が俺の背中に乗ってくる。

 その時、柔らかな感触を背中に感じた。

 これってッ!

――ルーチェ様ッ! ひっつきすぎですッ! 胸が当たってますッ!――

「いいじゃん。とっとと行っちゃえーッ!」

 柔らかな感触が押し込められていくッ!

 なんだ、この状況ッ!

 こんな時、どんな顔すればいいんだよッ! わっかんねえよッ!

――ああ、もうッ!――

 俺はなにも考えないように、牧場へと走っていった。

 魔族の身体だ。人間の自転車よりも速く鳴き声の元へと近づける。

 ルーチェ様は大した重荷にはなっていない。胸の感触が気になる、いや、感じるなッ!

 とにかく、現場へ急行だッ!


 現場の牧場へ着くと、予想通り、ケルベロスとペガサスがケンカしていた。

 幼児退行しているルーチェ様は使い物にならないッ!

 しょうがない。俺がやるしかない。

――ちょっと待ったッ! そのケンカ、俺が両方買ったッ!――

 モンスターを従わせる方法。

 友好的態度で接する。

 力の違いを見せつける。

 今回行うのは後者だ。

 どのゲームでも、モンスターを仲間にする場合は敵の体力を削るに限るからな。

 少なくとも、ケルベロスとペガサスたちを従わせるにはこれ以外にないッ!

 俺は襲い掛かってくるペガサスの前脚を掴んで、ペガサスの群れに投げつける。

 次に襲い掛かってきたケルベロスを3つある首のうちの真ん中を蹴り上げた。

 一頭、また一頭と魔物が俺に襲い掛かってくる。

 だからって、武器を使うわけにはいかない。

 こいつらは俺の手下、仲間なんだ。

 だから、俺は尖っている爪を隠して拳と足で全員がノックアウトするまで戦い続けるッ!

「雷の刃よッ!」

 あぶねッ! 当たるところだったッ!

 って、今の雷はルーチェ様かッ!?

 魔物たちの視線がルーチェ様に向いている。

 魔物たちが後ずさりする。

 ルーチェ様はいつでも放り投げられるように片手に炎の弾を抱えていた。

 しばらくして、それを見た魔物たちはおとなしく跪いた。

――ルーチェ様ッ! 助けていただきありがとうございまッ!――

 その瞬間、ルーチェ様は炎の弾を消し、俺の頬をビンタした。

 すごく痛かった。

 ケルベロスの攻撃よりも痛かった。

「なに、無理してんのよ、馬鹿……ッ!」

――いえ、従わせようと、つい――

「あんた、無理をして死にたいのッ!?」

 俺は涙目になって怒る彼女になにも言えなかった。

「馬鹿よッ! 魔王様の無茶ぶりなんかほっとけばいいのに……ッ!」

――ごめんなさい……――

 とうとう涙を流し始めた彼女に、俺は涙を拭ってあげることしかできなかった。

「……ッ! 馬鹿……ッ!」

 まだ、彼女も本調子じゃないのだろう。

 泣き止むまで俺は傍にいた。


「ごめん……。みっともないとこ見せて……」

――いえ、今度からは気をつけます――

 どうやら、ルーチェ様は精神を復活させたようだ。

 彼女の泣き顔が今でも思い出す。

「それより、仕事にかかりましょ。どうするの?」

――それが、ゲコルが見かけなくて……――

「ケルベロスが食べちゃったんじゃないの?」

――あッ、奥に泉がありますよ――

「ホントね。そこにいるのかしら?」

 俺たちは泉の中を覗き込んだ。

 そこにはゲコルたちが泳いでいた。

――うん?――

「どうしたのよ? 無事にいたじゃない」

――いえ、この泉、濁ってて――

「言われてみれば、泉の水が泥臭いような……」

――ゲコルは繊細な魔物なんです。水質に気をつけないと病気になりますよ――

 彼女が考え、ある結論を言い放つ。

「わかった。じゃ、あんたが魔王様に言ってきなさいよ」

――えッ、俺が?――

「だって、あたしが言っても説得力ないじゃん? 事実、あんたの腕を買ってるわけだし」

 そう、だよな。

 ルーチェ様は俺の異動に巻き込まれたようなものだからな。

――わかりました。それでは魔王様に直談判してきますね――

 俺はルーチェ様を牧場に残して魔王室までとんぼ返りすることになった。

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