第3話 俺の転生

 前世の俺が死んだのは突然のことだった。

 仕事から帰宅途中だった。

 その日は人通りの少ない道路だった。

 俺はいつも通り、少ない電灯が照らす薄暗い帰路を歩いていた。

 突然だったのは目の前が突然光に包まれたことだ。

 それに気づくころには遅かった。

 身体が吹き飛ばされていた。

 俺は道路に転がり、光の正体、車の運転手が駆け下りて来た。

 目の前が真っ赤になっていく。

 わかってきたのは、人がこの時ばかり多くなってきたこと。

 そして、意識が遠のいてきたこと。痛みが感じなくなってきたからだ。

 ここで俺は二つの想いが葛藤していた。

 まだ生きたい。

 今後の人生での楽しみがある。

 ゲーム、漫画、アニメ、サブカルイベント……まだまだある。

 もう一つは――、

 これで死ねる。

 今までの人生、人に好かれたことはなかった。親にも勘当当然の扱いを受けた。

 やがて、生きようとする想いは死にたいという想いに上書きされていく。

 司会が眩み、俺の想いが通じた瞬間、女性の声が聞こえた。

『あんたの魂を頂戴』

 視界が暗転し、やっと死んだと思った。


 その数瞬後、俺はあるところで起きた。

 意識も覚醒している。

 なにかの台らしきものに載せられていた。

「目覚めたようね。成功ってところだわ」

 さっきの女性の声だ。

 俺は上半身を起こし、

――誰だッ!?――

 声を荒げて言った。

 声の方へ顔を向けると、白と黒の翼を持った天使の美女がいたのだ。

 俺は脳を回転し、状況を把握する。

 これって、もしかして――、

――異世界転生、なのかッ!?――

「うん、まあ、合ってるわよ」

 天使が肯定した。

――まさか、創作物の展開が俺に来るなんてな……。あなたは天子様ってことか――

「いいえ、違うわよ」

 天使は首を振った。

 俺は首を傾げた。

「確かに、元天使族ではあるけど、あたしは堕天使よ」

――堕天使……――

 それで黒い翼があるのか。そういや天使の輪じゃなくて悪魔のような角が生えている。

――じゃあ、あなたは誰なんだ?――

「自分の名を名乗らず、あたしに名を訊いてくるのね。ま、いいわ。あたしはルーチェ。魔族の四天王の一人よ」

――魔族?――

 その時、頭に電流が走った。

 もしやと思い、自分の身体を見つめた。

 人間とは少し似ているが、硬い皮膚に尖った爪、なにより、鏡で見ると、顔がそこそこイケてる。これは嬉しい誤算だ。

――これが俺、か……――

「どう? 悲観した?」

――いや、嬉しいけど……――

「そう。ならあたしに従ってもらっても問題ないわね」

――へ?――

 確かに転生者のお約束はそういった宿命がついたりするが……。

――俺が、あなたの?――

「そうよ。あんたは四天王の中で最も美しいルーチェ様の手下よ。ありがたく思いなさいッ!」

――えー……――

 この人、ナルシシズムなところあるなぁ……。

 とはいえ、死にたいとは思わないしなぁ。

 転生した姿、結構気に入っているし。

 これも運命か。

 地獄に落ちるよりかはずっといい。

――わかった……じゃなくて、わかりました。ルーチェ様――

 こうして、俺はルーチェ様に従う魔族として、文字通り第二の人生を送ることになった。

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