第2話 俺の日課

 魔王城の地下深く、ろうそくの灯りでしか頼りがないレンガ造りの階段を降りていくと、部屋がある。

 他の人はそこへと入ろうとは思っていない。いや、思わないだろう。

 なぜかというと――、

――エサの時間だッ! たんと喰えッ!――

 俺はそう言いながら、魔王城の食堂の食べ残しを部屋中にばらまいた。

 そこにいる透明状の物体、スライムたちがこぞってエサに喰らいついた。

 俺は一匹のスライムを掴んでは撫でる。

――おお、よしよし。いい子だ――

 やっぱ可愛らしいよな。こいつら。

 そう、この部屋はまるまる一室がスライム飼育に充てているのだ。

 無論、許可はちゃんと取っている。むしろ、好きに使っていいと言われたのだ。

 心広い上司にそう言われたのだ。

「いたいた。ここだと思っていたわ」

 女性の声がした。

 振り向くとそこには俺の直属の上司、ルーチェ様がいた。

――あ、おはようございます。ルーチェ様――

 ルーチェ様は金髪に、紫の瞳、天使のように美しい美白の肌、左翼が黒、右翼が白の二本角が生えている美女なのだ。化粧してないでこんな美人なのだから、俺は運がいいのだろう。

 そんな美女が眉を狭めて言ってくる。

「おはようじゃないわよ。朝からスライムの世話なんて」

――いいじゃないですか。まだ仕事の時間ではありませんし――

「いいわけないわ。こちとら、部下があんたしかいないんだから」

 確かに、ルーチェ様の部下=俺なところがあるからな。でも――、

――いい加減、魔王様に頼み込んでいいんじゃないですか?――

「よくないわよ。それに、あたしの下に就きたい、という物好きなんていないし」

 そういうルーチェ様の顔は美しくも、雨に打たれたかのように悲しげな表情を見せた。

 彼女の部下が俺しかいない理由は二つ。

 ルーチェ様が元天使の堕天使だから。

 ルーチェ様が四天王の中で唯一の女性だから。

 その点から、俺以外の多くの魔族が彼女のことを軽視したり、軽蔑していたりする。

「とにかく、あんたはすぐ来なさいッ!」

――待ってくださいッ! 残飯処理がまだッ!――

「んなもん。仕事終わりでもいいでしょッ!」

――ちょっと待てよッ! まだこの子たちが食べている途中でしょうがッ!――

 パシンッ!

 上司に逆ギレしたら、思いっきりビンタされた。すげぇ痛い。ヒリヒリする。

 これが四天王の力か、元天使の力か、よくわからない。ただ、顎が痛むのは確かだ。

「いいから来るッ!」

 そして、俺を引きずって、スライムたちのいる部屋を後にした。

 これもルーチェ様の力か、すごく力強かった。

――ああ、もうちょっと戯れたかった……――

「スライムと戯れるなんて、あんたくらいしかいないわよ」

 そう言って階段を昇り始める。

――ルーチェ様、歩きますからッ! 自分で歩け、いたたたたたたッ!――

「なーに? あたし、なーんも聞こえなーい」

――階段まで引きずって登るのは勘弁してくださいッ! 痛ぁぁぁぁぁッ!――

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