梨田 泰造 Ⅴ

 まずは北野さんから情報を聞き出そうとコンビニへ行くが今日も22時からという事で不発だった。北野さんにしてもコンビニ店員と客の間柄のみなので情報はあまり期待できないだろう。


 周辺に聞き込みといっても事件から日が浅い為警察もかなりの人員が動いているだろうし、過去では異質な存在な私が目立った行動をとる事も出来ないだろう。


 犯人への復讐を決めたはいいが、情報のなさにより八方塞がりとなり、途方に暮れながら歩いていると事件現場付近を歩いていた。カフェの周辺は規制線が張られており、警察や報道関係者でごった返していた。


 現場を目の当たりにする事で、テレビから得ていた情報だけの状況よりもリアリティが高まり、途方に暮れていた私の心に再び激しい炎が灯った。


――なんとかしなくては……。これでは妻に申し訳がたたない。


 歩き回っていても情報を得る事が出来そうになかった為、一度ホテルへと戻る事にした。


 部屋でテレビをつけると例のニュースが流れていたがめぼしい進展は無いようだった。捕まってしまえば私が直接手を下す事が出来なくなるので、捕まっていない情報はありがたいのだが犯人に対する情報が少しでも欲しかった。


 何しろ顔をチラッと見ただけでその他の情報がなさすぎる。現在でもっと注意深く犯人が捕まったニュースを確認していれば良かったと後悔した。


 そう思った所で閃きが働いた。


――現在で情報を集めてもらえばいいのではないだろうか? 犯人の名前や出身地などは逮捕されている現在なら手に入れる事は可能ではないか?


 私は自らの閃きに感謝し、現在と繋がっている事を最大限に活かそうと考えた。


「所長! なかなか連絡がないので心配しましたよ」

「おぉ、西島さん。すみません。なかなか連絡が出来ずに。ちょっとお願い事がありまして……」


 WB LIEに電話して作戦に失敗した事を話した。流石に妻が助からなかった事を伝えた時は絶句していた。私の事を親身になって考えてくれている事に私は多少なりとも救われる気がした。


 ただ、今は感傷に浸ってい場合ではないと自分に言い聞かせた。私の目的はあの男への復讐なのだ。


 しかし、復讐を企だてていると言ってもあの二人は手伝ってくれないだろうと察していた。


「私はあの犯人を逮捕してもらいたいと考えています。なので、警察に提供できる情報をそちらの時代で見つけてきて欲しいのです」

「なるほど! その情報を元に過去で捕まえてもらおうって事ですね! どんな情報が必要ですか?」

「犯人の地元や捕まった周辺などで過去に犯人が潜伏していそうな場所の聞込みをお願い致します」

「了解です! 何か分かったらすぐ連絡しますね!」


 そして電話をきると私の為に頑張ってくれる現在のWB LIEの二人には悪いと思いつつ、これからの戦いに備えて就寝する事にした。

 

 翌日WB LIEからの連絡を待っていたがなかなかスマートフォンが鳴る事はなかった。お昼を過ぎても状況は変わらなかった。いてもたてもいられなくなり、ホテルを出て辺りを歩き回る。それ自体に意味があるものではなかったが、何かしているという事実だけが私の焦燥を和らげてくれる。


 夕方になりようやくスマートフォンが着信を告げる。待ち続けていた着信に勢いよく飛びついた。


「梨田です! 何か分かりましたか!?」

「出るのはやっ! 所長、お待たせしました! 情報がようやく手に入りましたよ!」


 電話口からは西島さんからの嬉しい報告の声が聞こえた。どうやら彼らは現在の犯人の住居周辺を聞き込みしてくれたみたいで、なかなか情報に辿りつけない状況が続いていたが犯人の行きつけの飲み屋で有力な情報を得る事が出来たようだった。


「酔った勢いでその犯人の男が漏らしていたらしんですが、どうやら過去にも人を殺した事があると言っていたらしく、その時は地元の山奥の廃工場にある地下室にほとぼりが冷めるまで身を隠していたみたいです」

「山奥の地下室に……」

「でですね、里佳子さんがインターネットを駆使して大体の場所を特定してくれました!」


 二人の頑張りのおかげで情報を掴む事が出来た。犯人の男はおそらく今回も同様の行動をとっている事だろう。


 そこへ向かわなくてはならない。しかし、それなりに距離がある為足が必要だ。過去に来ている私はレンタカーは出来ないし、山奥が目的地である為タクシーは使いづらい。


「ありがとうございます。その場所はそこそこ距離がありますね。車じゃないと難しいですね……」

「えっ? 車じゃないと難しいって、別に所長がいくわけじゃないんですから関係ないじゃないですか?」

「あ、あぁ……、そうでしたね。あとはこの情報を警察へ伝えて犯人を逮捕してもらえるように仕向けてみます」


 危なかった。あの二人には警察に任せる体で話を進めていたのだった。


「所長……、これで少しは奥様も報われるといいですね」

「お気遣いありがとうございます。それでですね、北野さんの連絡先を教えてもらえませんか?」

「北野さんの?」

「そうです。北野さんとはこちらではコンビニしか接点がないので……、それそろ75時間経過してしまいますしね」

「そうですね……、そっちの問題もありましたね。戻ってこれると信じていますよ、所長……」


 それから北野さんへ電話をかける。当然今回の事件も知っていて、自分の行動が妻の死へ関わっているとの思いから私に詫びてきた。


「教授……、すみません。奥様の……、私が余計な事をしたばっかりに……」

「それは違いますよ。北野さんに通報をお願いしたのは私です。そもそも、通報しようがしまいが妻がこうなるのは決まっていたんだと思います。これは運命なんです……」

「教授……」

「だから、北野さんは何も悪くはないのですよ。話は変わりますが、また一つお願いしても宜しいでしょうか?」


 私はこれからの計画について話をした。現在のWB LIEとコンタクトをとって犯人の男の潜伏場所を突き止めた事、それが山奥の廃工場の地下室である事、そこへ行く足がない事などを説明した。


 ここでも私が直接手を下す事は伏せて潜伏場所の発見が出来たら警察に知らせて、逮捕してもらうという体にした。

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