梨田 泰造 Ⅲ
妻との再会を果たし私は北野さんに犯人の状況を確認する為コンビニへと向かっていた。
するとコンビニまでの道すがら、男が数人の警察官に囲まれていた。状況から察するにこの男が犯人なのだろう。警察官に暴言を吐き散らしながら激昂している。
こんな人間は捕まってしまえばいいと横目でそのやり取りを見つつ通り過ぎだ。そして、コンビニまでの足取りを早めた。
コンビニでは特に混乱している様子もなく、いつも通りに営業していた。中に入り北野さんを探すが見当たらない。別の店員に北野さんの事を尋ねると、今は警察からの事情聴取を受けているらしい。
特にやる事もなかったので、雑誌を立ち読みしながら時間を潰していた。幸い大きな事件の通報ではなかったので比較的早く北野さんは解放された。
店頭に戻ってきた北野さんと目があい、私の方から近寄る。
「どうでしたか? 通報は上手くいったようですね」
「ええ、上手くいきました。ちょうど女性と口論になってすぐに警察が到着したので、女性の方も特に被害はなく済んだようです。教授の方はどうでした?」
「私の方も上手くいきました。こちらへ来ないように仕向けました。ただ彼女にはがっかりさせるようなウソをついてしまいました。まぁ、それはしょうがないですね」
お互いの成功を確認出来たので、仕事中に長居するのも悪いと思い後日の再会を約束し、コンビニを後にした。
コンビニを出ると先程歩いてきた方向へ複数のパトカーが向かっているのが目に入った。おそらく犯人の男が連行されるのであろう。
素行も良くなかったし、ナイフを持っているような男なのでもしかしたら他にも余罪があるのかもしれない。どちらにせよ捕まった方が世の為にはいいだろうと思った。
私はここから数日は過去にいなくてはならないのでホテルへと向かった。過去に来た目的は果たされており、過去の私も存在するわけであまり目立った行動は取れない。その為しばらくは外に出る事も少ないだろう。
ホテルの部屋に着くといつもは飲まないお酒を買い込んでいた。20年来の悲願が達せられ、祝杯をあげたい気分だった。出来れば一人ではなくWB LIEのメンバーと一緒が良かったが、それは現在に戻ってからのお楽しみとしておこう。
しばらくしてこれからを想像してみる。このまま北野さんと現在に戻る事が出来れば、先程思い描いていたようにWB LIEのメンバーと再開できるだろう。しかし、戻れなかった場合どうすれば良いだろう。
その時はどこか知らない土地でひっそり過ごせばいい。私の存在は社会から抹殺されているのだ。妻を救う事ができた今、やりたい事は特にない。
過去に来た時間が遅かった事もあり時刻は明け方に近付いていた。滅多に飲まないお酒に酔いは回りいつしか眠り込んでしまった。
翌日昼過ぎに目が覚めた。こんな時間まで寝てしまうのはいつぐらいぶりだろう。頭はズキズキと痛み、若干の二日酔いだろう。起きたとてやる事もなく頭痛も手伝い、もう少し寝ていようかなと思った。
ホテルの狭い一室、無音の状況も寂しいので何気なくテレビをつける。そこから流れてくる人の声に少しだけ安心感を覚え、再び微睡みかける。
次の場面で私は、突然駆け出していた。何かに追われているのか必死で走っている。酔っているせいもあってかかなり息苦しい。なぜ追われているのかは分からないが、捕まってはいけない気がして恐怖すら感じている。
後ろを振り返る余裕などなくひたすら前を見据え走っていた。やがて前方に女性が見えてきた。その女性も同じ方向へ歩いている。走っている私はどんどん女性に近付いていく。
そして、女性を追い抜こうと意識的に更に速度を早めようとした時、それまでの疾走もあいなり足がもつれてしまった。
危ないと感じ手を前方へ突き出した。すると女性を押し出すような形で突き飛ばしてしまった。女性は無防備な所へ、急に押し飛ばされたもので脇の塀へ頭から突っ込んだ。
私は走りながらも横目で女性を見遣る。そこで見た女性の顔に驚愕した。
その倒れ込んだ女性は私の妻だったのだ。私は大きく目をみはり叫んだ。
――なんで君が!
ガバっと起き上がる。そして目を瞬かせ、辺りを確認するとそこはホテルの一室だった。混乱する頭をフル回転させ状況の把握に努めようとする。やがて、頭が整理されてきたのか徐々に冷静さを取り戻してきた。
どうやら夢を見ていたようで、体中がベトベトしており汗を大量にかいていたようだった。
――良かった……。しかし、なんてひどい夢なんだ。妻があんな事になるなんて……。
喉の渇きも尋常ではなかった為ペットボトルの水を探す為ベッドから立ち上がった所でテレビに視線が向いた。
音声が耳に入りひっかかりを覚える。聞こえてきた音声の端に『逮捕されていません』という言葉があった。ふとテレビ画面を見るがすぐに切り替わってしまった。しかし、一瞬見えたその映像はあのカフェに似ていた。
私は胸騒ぎがしてテレビをザッピングする。昼下がりの午後という事もあり情報番組ばかりが流れていた。
目当てのニュースはすぐに見つかった。ニュースを見て自分でも青ざめていく事が分かるほどショックを受けた。
どうやら先程見た夢は、テレビから流れていた音声が無意識的に作り上げていたものらしく、ニュースの内容はほぼ夢の内容に近かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます