WB LIE Ⅳ-Ⅲ
昨日逃げるように立ち去った男性が、今日再び事務所を訪れ、今所長から事務所の仕組みの説明を熱心に聞いている。
再び対面した時はまた怒られるのではないかと心配したが、そんな事はなく今日は紳士的に対応してくれている。こういった対応を見ていると昨日は余程嫌な気持ちだったのだろうと推測できる。
男性は北野と名乗っていた。所長の説明を聞き終わり、意を決したように自分には後悔しているウソがあると言った。やはり、この北野さんこそが今回の依頼者だった。
「20年前のウソなんですが……、昨日ある事件のニュースを知りました。その犯人は私が20年前にウソをついて見逃した殺人犯だったのです」
北野さんが話した内容は衝撃的なものだった。自分がついたウソによって、犯人がその後ものさばって昨日新たな被害者を生んでしまった。それを自分のせいだと考えているようだった。
その話の衝撃もさることながら、僕には少し気になっている点があった。それは北野さんと所長の表情だった。北野さんは話をしている間、終始所長を気にしているような気がする。それに所長は所長で話の所々で青ざめたように顔をしかめる事があった。僕は近くにした里佳子さんに小声で話しかけた。
「あの……、里佳子さん気付いています?」
「ん? うーん。あの二人の事?」
「そうです。なんか不自然は感じしますよね? 表情とかリアクションとか……」
「確かに気になるね。北野さんと所長、そしてこの事件は何か関係があるような感じがするね」
やはり里佳子さんもそう感じていたようだ。お互いの反応が必要以上につながってしまっているような気がする。所長にしてみれば、言葉は悪いが赤の他人の出来事であるのにも関わらずやけに反応が濃い気がするのだ。今までの依頼ではあまり感じる事のなかった状況だ
北野さんにしても昨日今日あったばかりの所長に対してあんなに反応を確認しながらの様な喋り方をするものだろうか。僕は気にはなるもののそれを追及する程の確信はないので話の流れに身を任せていた。それは里佳子さんも同様だったらしく、大人しく状況を見守っている。
やがて、所長と北野さんの話がひと段落すると、北野さんへの最終確認の件に移った。
「北野さん。それでは、貴方は過去へ行き後悔しているウソを無くしに行きますか?」
「はい……、宜しくお願い致します」
北野さんの返事をもっていつもはここでタイムマシーンの作動にかかる。しかし、今回所長は突然奥の仮眠室へ消えて行ってしまった。
「しょ、所長! どうしたんだですか? タイムマシーンを作動させなくてもいいんですか?」
僕はその場で声を掛けたが返事がなかった。僕と里佳子さんが目を合わせ訝しがっていると、所長は何事も無かったかのように仮眠室から出てきた。その手にはビジネスバッグが携えられていた。
「急にどうしたんですか? それにそのバッグは何なんですか?」
「まぁ、そこは気にしないでいいので……」
そういうとタイムマシーンを操作するパソコンの前へ移動して作動操作を行いだした。所長の表情はいつになく厳しそうだ。そして、仕上げのボタンなのか勢いよくキーボードを弾いた。
するとタイムマシーンが作動する音がなり、次第に北野さんの意識が薄れていく。北野さんの無事を祈りつつその状況を見つめていると、目の端を何かがかすめていった。
それは素早い動きで北野さんの方へ向かっていく。何が動いているのかと目で捉えると、それはビジネスバッグを抱えた所長だった。
「えっ!」
脇から里佳子さんの驚きの声が聞こえた。僕は声を発する事が出来ずにいた。
「所長! 何やってるのよ!!」
所長は意識が薄れゆく北野さんの肩に手を当て仄暗い笑みを浮かべていた。
「皆さん、すみません。私はどうしても試してみたいんです。ずっとずっとこの機会を待っていたんです……。何も言わずに見逃して下さい」
「えっ!? どういう事なのよ! ちゃんと説明してくれないと分からないじゃない!」
慌てて捲し立てる里佳子さんをよそに所長は深々と一礼していた。
次の瞬間北島さんの意識はなくなりガクッと首が落ちる。ここまではいつも通りだ。いつもと違ったいたのは北野さんの肩に手を掛けていた所長だった。
所長は北野さんの意識がなくなると同時に跡形もなく消えてしまったのだ。
僕と里佳子さんは目の前で起きている事に理解が追いつかず、その場を動く事が出来ずに、ただただ北野さんとそこにいたであろう所長の影を見つめている事しか出来なかった。
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