WB LIE Ⅳ-Ⅱ

「ビーッ! ビーッ! ビーッ!」


 沈黙を破ったのは突如聞こえてきたアラーム音だった。空気を切り裂く様に鳴り響くアラーム音に全員が駆け寄る。


――20××年4月7日――


 パソコン画面に表示されたその数字は何と20年ほど前の日付だった。


「ずいぶん前の日付ですね。かなり昔につかれたウソって事ですよね?」

「そうね、でも何で今頃になってWB LIEを呼び寄せる様な後悔をしたんだろう」

「確かに。ずっとため込んでいたものが一気に放出されたとかですかね? 所長はどう思います?」


 所長の方を振り返る。その時所長の表情に違和感を感じた。それはどこか喜んでいる様に見えた。でも喜びを感じる様な要素はないはずだ。


――なぜこんな表情をするのだろうか? 


「皆さん、そろそろワープが始まりますよ! 今回の依頼も宜しくお願いしますね!」


 所長の掛け声が聞こえた。気のせいか高揚しているかの様な声のトーンに感じた。


 そして、事務所はワープを始める。いつもの様にノイズが走り、浮遊感を感じた次に目を開けると事務所のワープは終了していた。何度経験してもワープが終わる前のフワッとした感覚は気持ちが良かった。


 事務所の移動が終わり外を確認してみる。外はオレンジ色に彩られており、その地が夕暮れ時という事を示していた。そこは都会とは違い郊外である様だった。視線の先には畑が広がり、民家がポツポツある程度だった。


「何これー! 今回はハズレだわー。何にもないじゃん! あの島と似たり寄ったりだわー!」


 脇から顔を出した里佳子さんがガッカリとした口調でそう言っている。期待を裏切らないそのセリフは安心感すら感じられる。


「皆川君! またそんな事言って……遊びで来ているんじゃありませんよ!」

「ごめんなさーい」


 これまたいつものやり取りが行われていた。僕は外へ一歩踏み出すと、遠くの方から肩を落として歩いてくる男性が1人いた。トボトボと歩くその姿を見て、直感的にこの人は依頼人だなと感じた。


 徐々に男性が近付いてくる。歳は四十歳前後でスーツを着ており、仕事帰りだろうと察しがつく。最初に姿を捉えた時に感じた様にひどく落ち込んでいる様子が見て取れた。


 男性が事務所の前まで来たあたりで、こちらの建物に気付く。不思議そうな表情をしているので、おそらくこの近辺に住んでいて見慣れない建物が突如としてここにある事に疑問を感じているのだろうと思った。


「こんにちは! お帰りですか?」


 僕はこの男性が依頼人とあたりをつけて話しかけてみた。


「……、えぇまぁ」


 当然と言えば当然だが男性は不信感を顔に滲ませてた表情で素っ気なくそう答える。その反応に尻込みしつつも僕は再び話しかけてみた。


「だいぶお疲れのようですが大丈夫ですか?」

「……、何ですか急に!? あなたには関係のない事でしょう!」


 男性はイラつきを見せながらそう答えた。その声が聞こえたのか所長がドアから顔を出してきた。


「どうかしましたか?」


僕に向けてなのか、男性に向けてなのかよく分からないがこちらの方へ声を投げ出した。


「あ、いや……。こちらの方に急に呼び止めらたもので――」


 そこで所長の顔を見た男性の表情に変化が見られた。最初はちょっとした事が引っ掛かったかのように所長の顔を眺め、その後ハッとした表情に変わった。


「なんでもありません! 私はこれで失礼します!」


 そういうと男性は駆け出しそうな勢いでその場を去って行った。


 呆然としている僕らに里佳子さんがため息を吐きながら言った。


「はぁ……。また君は何かやらかしたのかな?」


 そんなつもりはなかったが何かをしてしまったような気がした。


「いつもすみません……」


 僕は二人の方を見て頭を下げた。

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