黒川 美鈴 Ⅶ
待ち合わせ場所に行くと、そこには綾ちゃんがいた。まだ私がウソをつく前の綾ちゃんなので活きいきとした表情をしている。この顔が私のウソのせいで何も感じ取れないような無表情にしてしまったと思うと、自分がずいぶんひどい事をしたんだという自覚が更に湧いてくる。それでもあの頃の私には私なりの考えがあったんだと思う気持ちもある。
「綾ちゃん、今日何か予定ある?」
「んー? 予定? なんかあったかな……特に何もないけど美鈴は何かあるの?」
「じ、実は私今日誕生日なんだよね……」
意を決して言った。少し図々しい気もするけれど、これで気付いてもらえるはずだ。これで、今年の誕生日は綾ちゃんと一緒だ。
「あっ……。そうだったね。今日は美鈴の誕生日だね……。思い出せなくてごめんね」
「ん、んーん。最近綾ちゃん忙しそうだし、忘れちゃってもしょうがないよ!」
なるべく明るく、重くならないように意識しながら言葉を選ぶ。
「それで、放課後昔みたいにカフェにでも二人で行かない?」
「そうだね、一緒にケーキでも食べながら美鈴の誕生日を祝おう!」
私達は放課後ささやかな誕生日会をやる事になった。前回とは違い誕生日の事を思い出させ、二人でお祝いが出来る。そうすれば私達は昔の様な関係性にきっと戻れる。そう思いながら放課後になるのを待った。
放課後になり綾ちゃんと一緒に帰る為にいそいそと用意をする。これから久しぶりに二人で会う事が出来る。更には私の誕生日会なので楽しみでしょうがない。しかし、その楽しみな気分は脆くも打ち崩されたのであった。
「美鈴! あのね、今日美鈴の誕生日だってみんなに言ってみたんだ。そうしたらみんなでわいわいやろうよーってなったんだ! みんながお祝いしてくれるなんて良かったね!」
「えっ、……どういう事?」
「だからさ、みんなが美鈴の誕生日会盛り上げようって! 大勢でお祝いした方が楽しそうじゃん!」
「……、何言ってるの! 今日は二人でお祝いしようって言ったじゃん! 私は綾ちゃんと二人でお祝いしたいんだよ! それなのに……なんで余計な人達が入ってくるのよっ!」
「み、美鈴? どうしたの?」
「もういい! 私は誕生日会なんてやらない! もう帰る!」
あまりの出来事に大きな声を出してしまった。でも、その位気持ちは昂っていた。私はわいわい騒ぎたいんじゃない、綾ちゃんと二人きりでいたかった。誕生日なんてただの口実だったのに……。引き留めようとする綾ちゃんを振り払い、かけ出す様に教室を飛び出した。脇目も振らず下駄箱へ向かい、上履きを投げ入れるように靴箱に入れ学校を後にした。
綾ちゃんはやはり変わってしまっている。私の誕生日を忘れているのに、私は歩み寄り自分から思い出させてあげた。それなのに綾ちゃんは私の元へは戻ってこない……。
もう昔の様な関係性に戻る事は出来ないのか? これではウソをつこうがつくまいが私達は元通り戻らず、私が満足いく様な結果にはならないのではないか? そういった考えが頭の中を侵食していく。
他に方法はないだろうか? 綾ちゃんが私の元へ戻ってくる様な方法が……。
家についても考えがまとまらない。部屋に閉じこもり、色々と考えを巡らせる。せっかく過去にまで戻ってきているのに私達の関係性はあの時と何も変わらない。
「トントン」
ハッとする。誰かが部屋のドアをノックする音が聞こえる。誰だろうと思い返事をすると母の声が聞こえてくる。
「美鈴! 綾ちゃんが来ているけど?」
――っ! なんで綾ちゃんが?
まさかの事態だった。私が急に声を荒げて逃げる様に帰ってしまったので心配して来てくれたのだろうか? もしかしたらまだ昔の様な関係性に戻れるんじゃないか? 私の頭にわずかな光が差し込んできた様に感じた。しかし、半信半疑な私は今綾ちゃんの前に出て行く気持ちにはなれなかった。綾ちゃんの出方次第では以前の様なウソをついてしまうかもしれない、少し頭の中を整理したかった。
「美鈴!」
「あ、ごめんなさい。ちょっと体調が悪いから綾ちゃんにそう伝えてもらえる?」
「あんた、体調悪いの? 大丈夫?」
「大した事ないから大丈夫……。よろしくね」
母に言ってもらい綾ちゃんには帰ってもらった。でもこうやって心配してくれている事にまだ望みはあると感じており、明日もう一度アプローチしてみようと思った。時間も限られていので直接的に言ってみようと考えていた。
そうやって2度目の誕生日もいい事がなく終わり、翌朝の登校時綾ちゃんと一緒になる。お互い気まずい空気を感じていてばつが悪い。
「綾ちゃん、昨日はごめんなさい。私どうかしてたわ……。急に帰ったりしちゃって……」
「こっちもごめんね……。体調大丈夫?」
「昨日も心配して来てくれたみたいだね。体調は良くなったよ!」
「良かった……。私のせいだよね。ごめん……」
二人で謝りながら歩いていく。綾ちゃんはやはり心配してくれている。その気持ちは感じられるが、昨日の一件をお互いが意識しつつ会話が途切れ途切れとなり足取りが重い。
その居心地の悪さも後押しし、今直接聞いてみるべきだという気持ちが私の頭の中を支配していく。恐る恐る口を開いた。
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