黒川 美鈴 Ⅲ
六時間目の授業が始まるチャイムがなり私達は急いで教室へ戻った。教室につくとまだアンコウは中にはいなかった。六時間目はホームルームで文化祭の出し物を決める事になっている。やがてアンコウが来てホームルームが始まり文化祭実行委員の二人が黒板の前に立ち、出し物のについての説明をしだした。
説明が終わりみんなが各々やりたい出し物についての案をだし、それが黒板に書かれていく。黒板に書き出されたものは飲食関係が多く、焼きそば、カレー、ホットドック、ハンバーガーなどがあった。これらのうちからクラス全員の投票によってハンバーガーの模擬店をやる事に決まった。私はあまり興味がなかったので特に何の感情もなく成り行きを見守っていた。
次に模擬店の役割分担を決める事になった。そこでクラスメートの誰かが言い出した事が私と綾ちゃんの関係性を微妙に狂わせていく小さなきっかけとなった。
「なんかさー、クラスの団結を高める為にみんなお揃いのTシャツ作らない?」
この発言にクラスメートは盛り上がりを見せて作ろう作ろうといった雰囲気が教室内に充満していく。私はそういう団結は苦手だなと思いつつも、この盛り上がりにあがらう事はせずにいた。
「デザインどうするー? 誰が作る?」
誰が言った。
「そうだ! 竹永はどうかなー? さっきの休み時間みんなも竹永の絵を見ただろ? 絵上手かったじゃん」
「あっ! そうだねー、竹永さん良さそう!」
先程私が落としてしまった綾ちゃんの絵が書いてあった紙、それが今思わぬ事態に発展してしまっている。慌てて後ろの席を振り返り綾ちゃんを見ると、そこにはやはり、困惑と喜びの入り混じった表情の綾ちゃんがいた。綾ちゃんはもしかしてこうやって注目されるのが実は好きなんじゃないか?私とは違う一面を綾ちゃんに感じとってしまった。
「竹永さん、Tシャツのデザイン担当になってくれない?」
「……、わ、私なんかでいいの?」
「もちろん! 竹永さん絵、上図じゃない? みんな大歓迎だよ!」
「……私で良ければやってみたい……かな……」
「じゃ宜しくね! みんないいわよねー? デザインから製作までもう一人つけるから協力してやってね!」
綾ちゃんはやってみたいと言っていた。意外だった。その反面やっぱりなという気持ちもあった。私なら引き受けないかな……。
そうやってどんどん役割が決められていき、私は材料調達係となり前日から当日くらいしか作業がない係だった。クラスメートそれぞれの係が決まりその日のホームルームは終了した。
「綾ちゃんTシャツ作成なんて大変じゃない? 大丈夫?」
「うん。大変そうだけど私絵を描くの好きだから結構楽しみかも!」
「そっか……、絵好きだもんね。頑張ってね。今日帰りどこか寄っていく?」
私がそう言った時綾ちゃんに誰が話しかけた。
「竹永! 早速だけどちょっとTシャツのデザインの事で話し合わない?」
それは綾ちゃんとTシャツ作成係になった男子だった。
「あっ、えっと……私美鈴と一緒に帰る約束してて……」
綾ちゃんは困った様な顔で私と男子の顔を交互に見ている。
「綾ちゃん! 私は大丈夫だよ。今日は一人で帰るよ!」
「ごめんね、美鈴……」
申し訳なさそうに綾ちゃんが言うので私は笑顔を作り、手を振り教室を出た。内心はあまり面白くなかった。今まではずっと二人で帰っていたのに……。
それからだった、目に見えて私達の歯車が狂い出したのは。お昼を一緒にとったり授業中の遊び等は相変わらずだったが文化祭の準備が入る放課後は一緒に帰る事が減っていた。
食糧調達係の私と違って綾ちゃんは準備の為に学校に残る事が多かったのだ。一人で帰ろうとする私をよそに綾ちゃんは楽しそうな顔をしていた。準備でみんなと残る事が多くなった為か徐々にみんなと馴染んでいっていた。
そうやって私達の関係性が徐々に変化していく中で私の中で綾ちゃんに対する不信感が芽生えていった。でもそれをはっきりと自覚する事を嫌いその気持ちに蓋をするかの様に騙し騙し日々を過ごしていった。
そして文化祭の当日となった。
私達のクラスの模擬店であるハンバーガー店は大盛況だった。クラスメートは綾ちゃんのデザインしたハンバーガーを擬人化したピンク色のTシャツを着ていて私もそのTシャツを着ていた。綾ちゃんの絵が大好きな私だったが、そのデザインは好きではなかった……。しかし、クラスメートはもとより模擬店に来たお客さんには人気を博した。
クラスメートと打ち解けっていった綾ちゃんは文化祭当日もハンバーガーの売り子をやったりと忙しそうにしていた。
私は特に割り当てられた仕事も無かったので一人で過ごす時間が増えていた。文化祭の楽しげなざわめきが私の孤独をより一層際立てさせた。綾ちゃんと一緒の時はそんな事を感じる事がなかったのに……。
「綾ちゃん今日も一緒に帰れないかな?」
文化祭も終盤に近づき片付けをしている時に綾ちゃんに話しかけてみた。
「美鈴、文化祭お疲れ様! なかなか盛り上がっていたねー。私のTシャツも人気でなんだか楽しかったなー」
「あっ、そうだね……。ねぇ今日一緒に帰れる?」
「ん? 今日は文化祭の打ち上げをやるみたいだよ? 美鈴も一緒に行こうよ!」
「……打ち上げ行くんだ? 私は……今日は用事があるから行かない」
「そっか、残念だな。美鈴とも打ち上げで一緒にいたかったな。でも用事があるんじゃ仕方ないよね。じゃ、またあしたね!」
「……うん。またね……」
そう言うと綾ちゃんはクラスメートの元へかけよって行った。私の中で何が決定的に崩れていった。それは今まで騙し騙ししてきた嫌な感情。綾ちゃんが私から離れていってしまう、私だけを取り残してどこかへいってしまう。それは裏切りとも不信感とも言える嫌な感情だった。
――綾ちゃんは変わってしまった。もう私達の関係性は存在しないんだ……。
文化祭以降私達の関係はドンドン変わっていった。綾ちゃんはクラスの人気者になっていった。内気な性格だったが実は根本的には快活な性格だったのであろう。文化祭の一件がその変化のきっかけになったのだ。綾ちゃんにして見ればそれはプラスの変化で通常であれば友人としては喜ばしい変化だと思う。しかし私はそうは思えなかった……。
私は昼食を一人で取る事が増えていった。別に綾ちゃんが私を避けているとかではなく、みんなの中で楽しそうにしている綾ちゃんを見ているのが辛く、お昼休みになるといそいそと教室を出ていく事が増えた。同様に授業中でのあの遊びも行わなくなっていった。
そんな私を綾ちゃんは今までと変わらず接してきていたが、私が意識してしまいあまり楽しい時間を過ごす事が出来なくなっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます