WB LIE Ⅰ
「いらっしゃいませ」
ドアを開けると女性の声が聞こえた。室内は十坪程度で全体的にクラシカルなテイストでまとめられている。建物の外にもあったが室内にも観葉植物が適度に配置され落ち着いた雰囲気を漂わせている。部屋の手前側には来客用のテーブル、アンティーク調のそのテーブルをはさんで対面に二人掛けのソファーが一つずつ設置されている。その奥には従業員が使う為のものか大きな丸テーブルと椅子が数脚置かれている。その丸テーブルにも小ぶりな観葉植物が置かれており、その他にはパソコンなどの事務用品が置かれている。奥の壁際に目をやると様々なサイズがある本がしまわれている本棚で埋め尽くされている。
入り口でそれらを観察しながら佇んている僕に女性のが立ち寄ってきてた。すらっとした背の高い女性でメガネをしたその女性は僕の前に来て言った。
「いらっしゃいませ。当事務所にどういったご用件でしょうか?」
「あっ、特に用があってきたわけではなく、た、たまたま目に入りまして……初めて見る建物だったんでなんの建物かなぁと思って……」
丁寧にしゃべりかけてくる女性に対して僕はしどろもどろしてしまいそう答えた。
「そういう事ね、ひやかしか……」
僕の言葉を聞いて客じゃないと判断したのか、その女性は急に砕けてた喋り方になった。丁寧な佇まいからの一気にラフになったその様を見て、僕は女性のあまりの変化に更にびっくりした。
「所長! お客さんじゃありませんでした。ただの通りすがりに覗いてみただけみたいです!」
「
丸テーブルに座っていた中年太りでりっぱなお腹をした男性が頭をかきながら歩み寄ってきた。
「大人の対応は臨機応変にできますのでご心配なく。そんな事より……だからこの事務所の外観をカフェ風にしなければ良かったんですよ。カフェかと思って入ってきちゃうじゃないですか!」
女性は所長と呼んだその男性に食い掛かりながら奥の丸テーブルへとカツカツと靴を鳴らしながら戻って行った。
「すみませんね、皆川君はああいった物怖じしない所がありまして。悪い娘じゃないんですけどね……ところで、私はこのWB LIEという事務所の所長をしております
そういうと所長は僕に名刺を渡してきた。名刺にはWB LIE という事務所名の他に『後悔しているウソはありませんか……』と記載されていた。後悔しているウソ、まさに僕は持っているがそれをどうしようというのだろう。
「あっ、僕は西島寛太といいます。仕事に向かう途中にこの建物が目に入りまして、何故だかちょっと気になってしまい入ってきてしまいました。」
「お仕事に行く途中だったんですか? お仕事は大丈夫なんですか?」
「大丈夫……とは言い難いですが、大丈夫です。あまり行く気もしていなかったですし……」
僕は下を向きながらもらった名刺を弄りながら言った。その時奥の丸テーブルから声が飛んだ。
「はっ、いいご身分だねぇ。気分で仕事に行ったり行かなかったり出来るなんて、どこぞの社長かなにか?」
「皆川君。いい加減にしなさい」
女性は皮肉たっぷりな口振りで言ってきた。――僕はいきなり嫌われているんだろうか?
「すみませんね、西島さん。それはそうと表の立て看板のはご覧になりました?」
「はい、見ました。実はそれがこの事務所のドアを開く一番のきっかけです。あれってどういう意味なんですか?」
僕は名刺から顔をあげて所長の顔を見ながら聞いた。
『あなたのついたウソ引き取ります……』
『後悔しているウソはありませんか……』
僕に向けての言葉なんじゃないか?とさえ感じていた。所長は丸い顔に笑みを浮かべながら言った。
「では、この事務所についてご説明いたしましょう。立ち話もなんですからそちらのソファーへお掛け下さいな」
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