自販機と彼女

蒸し暑い夜、昼夜の区別なく蝉がミンミン鳴く中、俺は自宅に向けトボトボと歩いていた。


俺に掛けられた容疑はあの後すぐに晴れた。


いや、晴れたというよりもっと大きな罪により無効化された、といったほうがいいのかも知れない。


留置所にいた俺は突然の来訪者により、被疑者から証人へと変わった。

彼の来訪は俺にとって地獄に垂れた一本の蜘蛛の糸になった。


「上原君。こんな目に遭わせてすまなかった」


そういって彼は頭を下げた。

留置所に現れた彼は、以前公園で出会った男だった。

高田と名乗った彼から話を聞くとどうやら自分の逮捕については誤認であり、例の高額自販機の販売元が逮捕されたらしかった。


聞くとその販売元の会社とは、俺が就活で面接を受けた企業のひとつだった。


あの自販機から出てきたSDカードを高田さんに渡した事から内容の調査がすすみ、足がついたらしい。


あのカードには個人情報が入っていて、俺があの自販機を回した時、インプットされていた個人情報と合致したために、実験台として自分が選ばれたとのことだった。


俺の住所を把握されていたのもそれが理由。


そして森川さん。

彼女の本名は『森川』ではなく、『高田美咲』だったそうだ。


彼女は五年前、夏祭りの日に逸れていたところを組織に攫われ、記憶操作されていた。そして彼女は実験台として、データ収集に利用されていた。

そして彼女の他にも同じような境遇の方々がいたそうだ。


組織の目的については今まさに解明を進めているらしい。

とにかく彼女たちは結果的に保護され救われたこととなった。

森川さん、改め高田さんも救われたんだ。


今後の捜査に協力することとなり、俺は釈放となった。


彼女が俺のところに来たのは、組織のミッションだった。何が目的だったのかはこれからわかるのだろう。けれど一つ確実に言えることは、彼女にとって俺と関わる必要はなくなったということだ。

そうなった場合、もう自分に会う理由は無い。


結局元々から一人だったんだ。

また明日にでも木吉を誘って久々に飲みにでもいこうか。


「……なんか、喉渇いたな」


そういえば昨日から殆ど水を口にしていなかったことを思い出した。

気分が乗らない時はぐいっとコーラを飲むに限る。

俺は自宅近くにある行きつけの自販機の前に立ち、財布から小銭を取り出す。

押し慣れたコーラのボタンを押そうとした。


ピッ……、ガコンッ……。


俺では無い誰かにボタンが押されていた。


横からすらっと伸びてきた手の主を確認する。


「やっぱりコーラなんですね、わたしも一緒に飲んで良いですか」


「……はは、そうだね。自販機のコーラでよければ一緒に飲もうか。家、すぐそこなんだ」


煩いほどに蝉の鳴く夜。


僕は自販機で彼女に出会ったんだ。




◇◆◇◆◇


これでこのお話は完結となります。

読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

まだまだ未熟で拙かったと思いますが、皆さんに読んで頂けて大変嬉しいです!

これからも色々な物語を書いて、そして読んでいきたいと思っていますので、これからも何卒宜しくお願いします!

ありがとうございました!


雨宮悠理

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自販機カノジョ -なんとなく自販機を回した僕の前に現れたのは超絶美人の彼女でした- 雨宮悠理 @YuriAmemiya

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