自販機彼女と脱走

「やっ、……やめてくださいっ!」


「……来栖! お前、何してやがるっ!!」


俺は声を張り上げた。

近くにいた何人かの客が驚いてこちらに視線を向けたが、いまの俺にはそんなこと関係なかった。

来栖は森川さんの右手を強く握り、自分の方へと引き寄せていた。


「何って、この女が俺の誘いを受けねえから、身体に教えてやろうとしてるだけだよ」


「やめろ!」


俺が来栖と距離を詰めようとした時、背後から息を切らした美島さんが追いついてきた。

その瞬間、来栖が鋭い視線を美島さんに向けた。


「おい美島、何してんだよ。言ってた約束と違うじゃねえか」


「……もうやめて、来栖くん。やっぱりこんなの間違ってるよ……。森川さんは上原君にとって大切な人なの。だから離してあげて」


「……ハッ!」


来栖は唾をペッと吐き捨てる。


「やっぱりお前振られたんじゃん。まあそうだよな。すぐに男と寝る尻軽女が上手くいく訳ねえわな。」


「来栖くん、やめて!」


「…………は?」


俺が余程とぼけた顔をしていたのだろう。

来栖は堪えきれないといった風にくくく、と笑っている。


「コイツとは、あの飲み会の日に楽しい楽しい一夜を過ごさせてもらったのよ。自分から誘ってきたくせによ。とんだ尻軽女が」


「……それはっ、……誤解よ! わたしから誘ってなんかない! それにこの話は上原くんには絶対言わないって約束だったのに」


何を言ってるんだろう、こいつら。

一夜を過ごした?

そんな男を連れてきておいて、俺に告白なんかしてきたのか。


「……馬鹿にするのも、大概にしろよ」


俺は湧き上がってくるこの怒りを制御できそうになかった。

そのまま直線上に立っていた来栖の右脇腹にタックルをかます。


「うおっ、……痛ってえなクソ!」


そのまま来栖は倒れ込むが、俺は森川さんの腕を掴み、そのまま思い切り出口に向かって走りだした。


「上原さん、いいんですか!彼女を置いてきてしまって!」


森川さんが言っていたが、俺はそれは無視してただひたすらに走り続けた。

周りの客の視線を浴びまくっていたが、そんなことは今の俺には関係のないことだった。

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