自販機彼女と告白
「……私、実はずっと上原君のことが好きだったの」
絶叫コースター巡りの後、なかなかスリリングだとウワサされていたお化け屋敷を体験した後、飲み物を買って休憩がてら海の見えるテラスにきていた。
そろそろ集合時間になるかなと考えていた時、美島さんが唐突にそんなことを言い出した。
俺は彼女の言っている意味が飲み込めなかった。
ずっと気になっていた子からの告白。
本当なら飛び上がって喜ぶほどの案件の筈なのに、俺の心はやけに静かだった。
「……やっぱり私じゃ、だめかな」
「いやいや、そういうわけじゃないけど。……どうして俺?」
彼女は手を後ろで組むとクルッと回った。
「覚えてるかな、入学してすぐくらいの時のこと」
美島さんと出会ったのは確か、新入生オリエンテーションの時だった。
他県から一人で来ていた彼女はきょろきょろと何かを探しているように見えたので、その頃の俺はちょっとした勇気を振り絞って、彼女を案内してあげたことがあったと思う。
「あー、そんなこともあったけど、それとはまた別の時かな」
そういって美島さんは笑う。
「私って……これは悪いところなんだけど、結構男の人の押しに弱いっていうか、断れないところがあるから、前にゼミの先輩から無理やり遊びに連れて行かれそうになったことがあって……」
あー、確かそんなこともあった気がする。
美島さんと顔見知りだった俺は、先輩に腕を掴まれている美島さんを見て、当時から彼女のことを気になっていたこともあり、助けなきゃという気持ちに駆られて、美島さんを連れ出したのだった。
だが結局その後、美島さんと先輩が一緒に歩いているところをみて、俺は美島さんに連絡を取るのをやめた。
結局あれからずっと美島さんを引きずっていた訳だけれども。
「実はあれからずっと、……上原くんのことが気になってたんだ」
けど、どうしてだろう。
いまは美島さんの告白に対して素直に返事をすることができそうにない。
「……ごめん。気持ちは嬉しいけど、いまその気持ちに応えられそうにないや」
「…………そっか」
彼女は目の端に浮かんだ涙を拭って笑う。
まさか俺がこんな告白を受ける日が来るとは思わなかった。
「なんとなくそうかなって思ってた。……やっぱり上原君は森川さんのことが好きなのかな」
「いや、森川さんは別にそんなんじゃ……」
「私結構上原くんのこと見てたもん。分かるんだ。だから……ちょっと早めに合流したほうがいいかもしれない」
「……どういう意味だ……?」
「私、気付いてたの。貴方が私を気にしてくれていたこと。そしてその後、森川さんに気持ちが移っていっていたこと。だから私、……今日来栖くんを連れてきたの」
「……なんだそれ」
俺は嫌な予感がして背中に冷や汗が流れる。
気がついた時には走り出していた。
いまの俺にはもう他には何も見えていなかった。
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