自販機彼女と遊園地

美島さんと話してから一週間。

本日は例の約束を交わしていた日だった。

俺と森川さんは待ち合わせをしていたテーマパークの最寄駅に向かった。

平日の昼間にもかかわらず、家族連れやカップルなどのお客さんが意外にも多くて驚いた。


「あ、いたいた!こっちだよー!」


大きく手を振ってこちらを迎え入れているのは可愛らしい白のワンピースに身を包んだ美島さんだった。

いつも大学で私服姿を見ているが、普段見る格好よりも新鮮に見えた。

美島さんは所々にハイトーンの入ったロングヘアを後ろで束ねてポニーテールを作っていた。

森川さんもせっかく遊びにきたのだから黒いスーツじゃなくて、もう少しお洒落な格好をさせてあげたかったが、「あ、私この服しか身につけないので気にしないでください」と言い、先日買ってあげようとした時も断られたのだった。

最近少しづつ表情が豊かになってきたような気がする森川さんは、この話をしている時、少し寂しそうに見えた。


美島さんと合流した俺と森川さんは予期せぬ同伴者に面食らった。


「…………え?」


美島さんの横には何故か同じサークルのイケメンも来ていた。

あの飲み会の日に美島さんにピッタリくっついて酒を勧めまくっていたあの男だ。


「あ、紹介するね。こちら友人の来栖くるす謙也くん。あ、上原くんは同じサークルだから会ったことあるんじゃないかな?」


「あ、なんか一人でウイスキーあおって潰れてた奴じゃん(笑)。喋ったことなかったけどよろしくな。俺のことは謙也でいいぜ、上原」


「……おお、……よろしく」


「なんだなんだ、折角遊びにきたってのに暗いじゃねえか」


そう言って俺の肩を軽く叩いた。

俺は初見の他人にいきなり距離を詰められるのはあまり得意ではない。

人付き合いの得意な奴ならば普通なのかも知れないが、慣れていない俺は引き攣った苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

来栖は森川さんにも挨拶をしていたが、それは俺の時とは違いやけにうやうやしかった。森川さんは誰にでもするように微笑み、挨拶を交わしている。

どこか森川さんに対する来栖の態度に気持ちの悪さを覚えたが、きっと俺が来栖を苦手としているからなのだろうと思った。


「じゃあ折角だからくじを引いて決まったペアで交代しながら回ることにしよっか」


「……は?」


突然の美島さんからの提案。

いやいや四人で来ているならそこまで大所帯でもないし、折角だというのならみんなで回ったほうがいいじゃないか。

俺が露骨に嫌そうな顔をすると、来栖がニヤニヤしながら、


「あー、まあ上原も男だからなー。可愛い可愛い森川さんとか美島とかの女子みんなと回りたいって気持ちだよな。うんうん。分かる分かる」


そう言って小馬鹿にしたような視線を俺に向ける。


「いや、別にそんなんじゃねえけど」


俺はバカにされるのが苛ついてしまい、そう言い返した。


「じゃあ、ペア決めて回ろうや。ペアごとに度胸の入りそうなアトラクションに乗った回数で勝負な。負けたペアは昼飯奢りで」


勝手なルールをつけて会話を進める。


あらかじめ用意していたのか美島さんはスムーズに携帯のアプリを開いた。

各人一人ずつタップすると、ケータイのアプリが勝手にペアを決めてくれるようだった。

俺と美島さん。そして来栖と森川さんがペアで回ることになった。

森川さんは笑顔で対応していたものの、どこか嫌がっているようにも見えた。


「よろしくね、上原君」


「……おお、よろしく」


美島さんは上目遣いで微笑む。

やっぱり美島さん可愛いな、と思う反面、森川さんが違う男と一緒にどこかへ行ってしまう方が気になってしまい、モヤモヤした気持ちでいっぱいだった。


美島さんは少し寂しそうな目線を向けた後、「ほら、急がないと色々乗れなくなっちゃうよ!」

そういって俺の右腕に自分の腕を絡めて、彼女は俺を引っ張っていく。

取り敢えず二時間。

俺は彼女とふたりで過ごすことになる。


森川さんは大丈夫だろうか。

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