自販機彼女と誘い

講義が終わり、資料類を全て鞄に収めて席を立った俺の前に一人の女子が立っていた。

美島さん。

彼女は俺が入学当初から密かに気になっていた女子だった。

彼女に誘われたサークル飲みでは殆ど会話できなかったし、あれからも特に連絡は来ていなかった。

彼女のことを気にはしていたものの、最近は環境の変化もあって、接する機会も無かった。


「ごめんね、上原君。いま少し時間もらえたりするかな」


「……大丈夫だよ。食堂の方でいい?」


「ありがとう!」


そして俺と美島さんは場所を食堂の隅のテーブルに移した。

彼女はホットコーヒー、そして俺は馬鹿の一つ覚えみたいにいつも飲んでいるコーラを注文した。


「上原君、最近変わったね」


「そうかな?」


「そうだよ!なんかすごく……明るくなった!」


「それって結構失礼じゃね?笑」


「あ、ごめんごめん。悪気はないよ!」


そういって彼女と俺は笑い合った。

あまり女子と関わりが無かった俺にとって、こういう風に笑い話が出来る女子は少なかった。だからこそ美島さんに惹かれていたんだと思う。


「あと上原君、ごめんね。あの飲み会の日。私から誘っといて失礼だったよね」


そういって美島さんは目を伏せる。


「あー……、全然気にしなくて良いよ。俺は俺で木吉と遊んでたし。それに美島さん、席を立てるような状況じゃなかったでしょ」


「うん、本当にごめんね」


「ホント、気にしなくていいって」


自暴自棄になって自販機蹴り飛ばしたなんて到底いえない。

けれどこうして気に掛けてくれていただけでも俺にとっては嬉しかった。


「上原君、……あの美人さんと付き合ってはいないんだよね?」


「…………?」


「あ、ごめんね! なんか噂で聞いちゃって。最近上原君が女の子を良く同伴してるって! なんか気になっちゃって」


美島さんが言っているのはおそらく森川さんのことだろう。

でもどうして彼女がそんなことを気にするのかは分からなかった。


「森川さんは良い友達で、彼女とかじゃないよ。それに彼氏がいるっぽいし」


彼氏はいないと聞いていたが、こう言っておいた方が手っ取り早いと思った。


「そうなんだ。……けど上原君。もし本当に森川さんに彼氏がいるなら、正直あまり一緒に、行動しすぎるのもどうかと思う。……あ、私の勝手な考えだけどね!」


「……まあ、そうだよな」


美島さんが言っていることは正しい。

彼氏がいない森川さんだから、本当のところ問題はないのかもしれない。

けど、彼女を縛っていることもまた事実なのだ。


「もしよかったらだけど、二人じゃなかったらどうかな? 今度彼女も一緒に遊園地に遊びに行かない?」


「遊園地?」


「そう、丁度チケットが貰えるアテもあって! どうかな?」


森川さんを連れて遊園地には行ったことはないが、気晴らしにはなるかもしれない。


「わかった、じゃあ今度一緒にいってみようかな」


「ありがとう! 詳しい時間とかはまた連絡するね!」


こうして初めて美島さん含めて遊びに行く事が正式に決まった。

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