自販機彼女と謎の男
「上原さん、みてください!結構良く撮れてませんか?」
「うん、中々いいんじゃない」
「ありがとうございます!」
俺は森川さんと近くの公園に来ていた。
最近は写真を撮るためにあちこちに出掛ける事が増えたような気がする。
苦戦していた就活も森川さんが来てからというもの、選考を通過できる企業が増えてきていた。
これも身なりがキチンと整うようになったからだと思う。
よく考えれば、そりゃそうだよな。
皺だらけのスーツとヨレヨレのシャツを身につけた学生なんてどこの企業も取りたくないだろうさ。
その点、森川さんが来てからは、面接の日の朝、必ずスーツの用意とご飯までばっちり用意されている。
あと俺の愛してやまないコーラも必ず用意してくれていた。流石すぎる。
森川さんのおかげで俺は最高のコンディションで就活に臨むことが出来ていた。
そんな就活の合間は、森川さんにはお礼の意味も込めて、なるべく外出して写真映えするようなスポットを探すようにしていた。
ただ問題は森川さんの服装だ。
いまは八月。平均気温は余裕で三十度を超えてくる。そんな中でも森川さんは必ずスーツを着用している。
森川さんはいついかなる時も必ずスーツ姿を崩さない。そんな彼女が熱中症にならないかいつもヒヤヒヤしているが、本人曰く「ありがとうございます!対策はバッチリしていますので、気にされなくても大丈夫ですよ!」とのことだった。だがこちらが気を付けておくことも無駄ではないだろう。
スーツ姿ではあるが、カメラ片手にはしゃぐ森川さんの姿はとても好きだった。見た目は勿論だけど、彼女のことをもっと知りたい、そんな気持ちにさせてくれる何かがあるような気がしていた。
「みっ、美咲!?」
後ろから唐突に声をかけられて、俺と森川さんは同時に振り向いた。
背後には五十代くらいの男が立っていて、あろうことか森川さんの肩を掴んでいた。
「……何してるんですか?」
俺は咄嗟に男の腕を掴み、森川さんから引き離す。不審者か?すぐ通報しないと。
俺が携帯端末を取り出すと、男はすぐに頭を下げた。
「すまない、どうやら人違いのようだ。私がどうかしていたみたいだ……」
「いえ、わたしは大丈夫ですよ!」
森川さんがそう言うので、俺は端末をまたポケットに仕舞う。
男はどさりとベンチに座り込むと、頭を抱えた。
俺と森川さんは男から一体何があったのか、事情を聞いた。
男は警察官で、この日は非番だった。
五年前の夏祭りに最愛の娘とはぐれてから、娘が失踪してしまっているらしかった。
娘の手掛かりを探しているが、今のところ何も掴めていないそうだ。
また森川さんの顔が失踪した娘さんと瓜二つに見えたそうだ。
どんだけ娘の顔可愛いんだよ。
補正掛かってるんじゃないかと、この点については正直ちょっと疑わしかった。
失踪した歳を考えると、今は俺や森川さんと同じくらいの歳頃になっているとのことで念の為、男と連絡先を交換しておいた。
何かわかったことがあれば連絡すると伝えてある。男の事情を聞くと流石に放ってはおけなかった。
またこれは感覚でしかないが、男の娘について俺は無関係ではない気がしていたんだ。
結果的には男の連絡先を聞いていたのは吉だった。結果論だけどね。
そして男からは詫びとして、俺と森川さんの二人分コーラをしっかり奢ってもらった。
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