自販機彼女とオトコ
森川さんを同伴している。
それだけで周りの俺を見る目は一変した。
どんなふうに変わったのかというと、普段あまり関わらないような、陽キャ系の同級生にも声を掛けられたりするようになった。
そして会話の大多数は彼女のことだった。
正直めんどくさかった。
けど、なんとなく大学の中での自分という存在が少しずつ変わってきているような、そんな気がしていたんだ。
森川さんのとの関係を聞かれても、付き合っていることは否定していたこともあって、彼女に会わせて欲しいとの依頼はひっきりなしにきていた。
けれどそもそも森川さんには彼氏がいる、そう断ると大抵の人は「やっぱねー、あんだけ可愛いのにフリーは流石にねえか」と諦めるのだが、特に遊んでいそうなカラフル髪色のピアス男はまず諦めずに会わせろと言ってきていた。
そういう男には取り敢えず森川さんの都合が合わないことにして、ひたすらスルーすることにしている。
可愛い女の子もそれはそれで苦労が絶えないのかもしれないなと思った。
「私のせいでごめんなさい。」
森川さんは申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。
「いや、森川さんが悪いことは何一つないよ。男って意外と面倒なんだな」
「私がハッキリと申し上げるべきかもしれませんね。それにあまり調子に乗りすぎて、上原さんと噂になっても、ご迷惑をかけますし」
「…………」
俺は森川さん作の超絶美味いビーフシチューを食べる手を止めた。
「……まあ、森川さんも彼氏いることだし、あんま俺と一緒に遊びに行くのとかも控えたほうがいいんじゃない? そもそもこんな男の家に一人で上がり込むような仕事していると色々危ないこともあると思うし」
「ああ、その件ですけど」
彼女は綺麗な顔を綻ばせてにこっと笑う。
「あれ、嘘です。わたしは彼氏とかいませんよ」
「へ?」
「彼氏いるって言っておいた方が色々と楽なんです。それに今の私は誰かとお付き合いできるような、……そんな人間じゃないんです」
一瞬森川さんは暗い影を落とす。
けれど彼氏がいない、それを知った俺はただ嬉しくて、それに気がつくことは無かった。
これで彼女と付き合える訳ではないのに、何故か森川さんが誰かのものでは無かったことに安堵感を覚えていた。
俺はもしかして森川さんのことを……。
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