自販機彼女との関係

プライベートは詮索しない。


そんな制約があるせいで正直俺はいまだに森川さんのことをよく知らない。


彼氏がいる。


先日森川さんがぽろっと漏らしたあの言葉。

真意を確かめたいところではあったが、プライベートの詮索にあたるのでは無いかと思い、まだ確かめられずにいる。

それに俺が森川さんの恋愛事情を気にする権利はそもそもないしな。

この件はまだ俺の中でそっとしておくことにしている。


また森川さんには欲求と呼べるものが殆どなかった。

食べたいもの、飲みたいもの、行きたいところ、したいこと。

全て俺の趣味に合わせてくれるし、森川さんからの希望は何も無かった。


寂しさもあったが、あくまで俺と森川さんは線を引いた関係、ということなのかもしれなかった。


「これ、もしかして上原さんが撮ったんですか?」


「ん、ああ、そうだよ。昔撮ってみたやつ」


「すごい可愛いです! 上原さんセンスありますね!」


彼女は棚から落ちてきた一枚の写真を拾い上げてそう言った。


夕陽をバックに野良猫が欠伸している風景。

何となしに撮った写真だったが、森川さんにとっては大層お気に入りの写真になっていた。


昔、なんとなくカッコ良さそうと思って買った一眼レフで撮ってみた一枚だった。

買ってすぐの頃はよく写真を撮りに行っていたが、すぐに飽きてしまい暫く放置していた。


森川さんは猫好きなのかもしれない。


「私にもこんな写真が撮れるでしょうか」


「簡単だよ、シャッター押すだけだもん」


俺は難しい技術などは使えない。

出来てせめてシーン選択くらいのもんだ。

森川さんは一眼レフカメラを扱った事がないと言っていたので、俺は浅い知識で撮り方くらいは教えてみた。初めて森川さんが自分から興味を示してくれたのが、なんだか嬉しかった。


またどこかへ写真撮りにいってみようかな。

今度は森川さんも連れて。





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