自販機彼女と街を歩く
彼女がウチに来てから早一週間が経った。
呼ぶときに名前が無いと困るので、名前を訊ねたところ彼女は自分を『森川』と名乗ったので、そのまま森川さんと呼ぶことにした。
この一週間、基本的に外出するときは森川さんを同伴させた。
彼女と歩いていると明らかに他人の視線を感じる事が多かった。
その多くは森川さんに向けられたものだと思うけれど、俺に向けられる視線については、きっと美女と野獣だな、とか釣り合っていないカップルだな、とかそんな意味を含んだものなんだろう。
森川さんは、常にある一定の距離感を保って俺と接していた。
他人からみれば彼女というより友人と言われたほうがしっくりくるだろう。
ただ俺にとっては、女性経験が殆どないこともあって、この距離感は心地よいものだった。
女の子とのデートってこんな感じなのかな。
彼女に触れることはできないけど、それでも俺にとっては幸せだ。
「あれ、上原じゃん!」
ああ、俺の嫌いな絡み方だわ。
後ろを振り返ると声の主は同じ学部の同期だった。
入学当初は少し口を聞いたりしていたが、彼がダンスサークルに入って以降、学部の陽キャグループとなった彼に接する機会は殆どなくなっていた。
なんなら名前も思い出せない。
「なになに、上原って彼女いたん? しかもこんな美人な」
そういって同期は彼女を見る。目が完全に獲物を狙うソレに見えるのは俺の勘違いか?
「おお、久しぶり。彼女じゃないよ。強いて言えば……友人かな」
嘘はついていないと思う。
「へえ、そうなんだ!名前なんていうの?学部はどこ?」
こいつグイグイきやがる。
森川さんを狙う気が見え見えで不快極まりない。この場はさっさと切り上げたい。
「私は近くの女子校に通ってます森川といいます。上原さんとは良い友人関係です。良かったらこれからも仲良くしてあげてくださいね」
そういって森川さんはペコリと頭を下げた。
同期は目が完全に堕ちていた。まあ森川さん可愛いから仕方ないよな。ムカつくけど同じ男として理解できる部分もある。
「良かったら連絡先教えてくれたりしないかな!」
同期は急いで携帯端末を取り出したが、森川さんは微笑みながら言った。
「すみません、わたし彼氏がいるので交換は難しいです。すみません」
いたたまれなくなったのか、同期は苦笑いしながらそそくさとその場を後にした。
そして何故か俺の心にも、ぐさりと何かが刺さってしまったような気がした。
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