自販機彼女

ピンポーン


朝早くに家のチャイムが響いた。

ベッドから身体を起こすと時計の針は十時を指していた。あれから結局着替えも風呂も歯磨きも何もせずに落ちていたらしい。


今日は平日だが、大学の単位はほぼほぼ取得ができていて、講義がない実質の休暇日だった。


それにしても宅配を頼んでいた覚えはない。怪しい宗教の勧誘か、某局の集金か、一人暮らしになってからは、予期せぬ来客の時は対応しないようにしているが、この時は何も考えずにガチャリとドアを開けた。


「初めまして」


そういって扉の前の人物は深くお辞儀をした。


俺はといえば扉の前の光景があまりに現実離れしていたので、そのまま開けていたドアを閉めてしまった。


いやいや、あり得ないだろ。


扉の前にはリアルで見たこと無い程の美人が立っていた。形容し難いほどに美人。『扉を開けたら美少女が立っていた。』どこのラノベだよと一人でツッコむ。


ていうか冷静に考えてみると、もしかしたら彼女は俺に用事がある訳ではないのでは? 

例えば違う部屋の人に用事があったが不在で伝えて欲しいことがある、とか。


……多分そうだな。


再度ドアを開く。

開いた先に、彼女は変わらず立っていた。

しかし見れば見るほど美人すぎる。こんな美人をモノにするのはきっとチャラチャラしているイケメンなんだろうな。そう思うと昨日の怒りがまた沸々と湧いてくるようだった。彼女には何の罪もないんだけどね。


「あの、すみません。何の用事でしょうか」


俺は訊ねた。

彼女はにっこりと笑う。


「おめでとうございます、上原さん。貴方は見事に特賞を当てられました」


「……は?」


「差し支えなければ、身の回りのお世話をさせて頂きますので何なりとお申し付けください」


そういって彼女は頭を下げた。

突然の出来事で理解が全く追いついていなかったが、上原は俺の苗字だ。つまり彼女は俺のお客さんってことになる。


これはこの後聞いた話だが、彼女はあの自販機の特賞の景品として、やってきたらしい。


そして何故か基本的な俺の情報は全てインプットされているようだった。


よくよく考えてみればどうして名前や住所がバレているのかとか、疑問に思う点は幾つもあった筈だった。


ただ、この時の俺はとんでもない美人がやってきたことに舞い上がりすぎて、そこまで頭が回っていなかったんだ。



 

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