自販機カノジョ -なんとなく自販機を回した僕の前に現れたのは超絶美人の彼女でした-

雨宮悠理

自販機(五千円ガチャ)を回してみた

「俺って本当にツイてない」


そう言ってふらつく足取りのまま地面に転がっていた空き缶を蹴飛ばした。


「気持ちは分かるけどやめとけって。もうすぐ家に着くからさ」



頭にアルコールがぐるんぐるんと回って、気持ちが悪い。

ふらつく俺の肩を隣を歩く友人が支えてくれていた。体調も最悪だけれど、それよりも今はアルコールで増大されたイラつきの方がより酷かった。


滅多にないことだったが、これはサークルの飲み会に参加した帰り道の出来事だった。


サークルの飲み会に参加したのは、覚えている限りで約二年ぶりくらい。


大学に入りたての時に勢いで加入して以来、殆ど活動に参加した事がないサークルの飲み会に成り行きで参加した。


そんなサークルの飲み会に何故参加したか、その理由は単純で気になっている女の子から直接誘いを受けたからだった。


その子とはゼミも一緒で、サークルには参加せずとも比較的交流があった。

彼女から誘いを受けた時、飲みに参加すること自体に若干の抵抗があったけれど、それ以上に彼女に誘われたことが嬉しかったんだ。


けど幽霊部員だった俺は一人で参加する自信はなかった。

そこで少ない友人の中で、同じサークルに所属していた木吉を誘うことにした。

木吉も俺と同じ幽霊部員だったが、結構気のいい奴で俺の為ならと参加を承諾してくれた。


そんなこんなで飲み会に参加してはみたけれど、結局のところ会の中での俺たちは誰からみても完全に空気と化していたと思う。


多少は馴染もうと頑張りはしたが、同期とも後輩とも殆ど話が合わず、この場にいること自体が次第にいたたまれなくなって、時間の半分は外に出て二人でスマホ画面とにらめっこして過ごす羽目になってしまった。


肝心の彼女はといえば、参加していたチャラ男系のイケメンに捕まって、ガンガンお酒を飲まされていた。

そのテーブルの盛り上がりは凄く、なんなら飲み会中で一番近づくことのできない席だった。

ポーズかも知れないが、彼女が嫌がりもせずに楽しそうにしていたことも少し気に障った。


そんなこんなで結局彼女とは、飲み会が始まる前に受付で一言二言会話したのみ。

誘われた側としては正直あり得ないと思ったね。でもそれは俺が積極的に話しにいかなかったことも原因だし、結局これも自分のコミュ障のせいなんだよな。


不快極まりない自己嫌悪感と、また近頃就活も上手くいっていなかったストレスもあったのか、俺は度数の高いウイスキーをロックでガンガンあおった。


それもたった一人で。あの時は完全に周りが引いてたね。


でもそれしかあの時は現実逃避できる手段が思い浮かばなかったんだ。


そんなこんなで結局、会が終わってみれば木吉の肩を借りなければ帰れない状況に陥っていた。

参加メンバーの何人かは俺を見て面白がっていたが、道化以外の何者でもないんだろう。


普段よりも遥かに遅い足取りで帰り道を歩いていくと、昼間はあまり活気のないレンタルビデオショップのライトがギラギラと光っていた。

そしてその店の裏にある駐車場に、一際ライトが煌めいている自販機があるのが見えた。


普段は気にも留めていなかったが、あんなところに高額自販機があったのか。


『1万円で人生を変える自販機』


いかにも胡散臭い自販機だった。


どこにでもある千円自販機のような雑多な感じではなく、シンプルな白いボディに『一回五千円』とだけ書かれていた。


こんなんで人生変えられたら苦労しねえっつーの。


心の中でそう毒づいてみたものの、この行き場のないストレスの発散にこいつは使えるかもしれない、そう思った。


どんな景品が出るのかさっぱり予想ができなかったが、もしかしたら高額商品が当たるかもしれないと少し期待をして、五千円を投入。重たいハンドルを時計回りに回すと、ガチャンという音と共に何かが排出口に落ちる音がした。

排出口を確認すると一般的なガチャガチャと変わらない程度の大きさの黒いカプセルがあった。開くと中から出てきたのは紙ペラ一枚だった。


『特賞』


紙には少し大きめのフォントで、ただそれだけが書かれていた。

景品名や連絡先を探したが、特賞であること以外の情報は何も得ることはできなかった。


「なんだよ、冷やかしかよ。ふざけんな!」


そう言って俺は渾身の力で自販機を蹴りつけた。この時を振り返るとモノに当たるのは本当に最悪の行為だったと思う。

ただこの時は情緒不安定で積み重なったストレスと怒りをどこにぶつけていいかが分からなかったんだ。


自販機はその衝撃で『ビーーーー』と、エラー音を辺りに響かせ始めた。

その音で平静を取り戻すと同時に焦りを覚えた。

業者に連絡しようにも、どこにも連絡先の情報が記載されていないのだ。

しばし対応に困っていたが、三分くらい経つと警報音は消えてなくなり、自販機も警報が鳴る前の状態に戻っていた。


「……ちょっと焦ったな。ったく、モノに当たるんじゃねえよ馬鹿。まあ何も無さそうで良かったわ」


そういって木吉はまた帰路へと歩を進め始めた。

俺も後に続こうと歩き出した時、お釣りの受け渡し口のところでカラカラと何かが落ちた音がした。


ぴったり五千円払ったのでお釣りはないはずなんだけどな、と思って確認するとそこには一枚のSDカードが転がっていた。


スルーしても良かったのだが、なんとなく置いていく気にもなれず、それを拾い上げポケットに収めると、俺はその場を後にした。


木吉のおかげでなんとか家に辿り着くことができたが、飲み会が散々だったことに加えて、謎の自販機に五千円飲まれたことで俺のストレスは最高潮に達していた。


風呂に入る気力は湧かなかったし、早く気持ちを切り替えたかった。

そのままベッドにダイブすると、自然と瞼が下がってきた。

ただただ悲しい気持ちのまま夢の世界へと落ちていった。

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