第14話 運命の糸は獣たちの魂を導く


「これ……あなたがやったの?」


 少女はまっすぐな瞳を俺に向けると、震える声で言った。


「そうだ。俺の恩人を力づくで追い出そうとしていたから、悪いとは思ったがおとなしくしてもらった。これ以外のやり方を思いつかなかった」


「そう……でも暴力はよくないわ」


 少女はか細い声で俺を諭すと、俯いて頭を振った。


「ああ。自分でも思慮の足りない人間だと思う。……それより、君はどうしてこんなところにいる?」


「私は人に呼ばれてセントラルエリアに行った帰り……送ってくれた人が車からあなたたちの小競り合いを見かけて、それで……」


 少女がそこまで言いかけた、その時だった。ふいに後部席のドアが開いて、長身の人影が姿を現した。


「どうしたんだ、ナミ」


「カイドウさん……」


 良く通る声とともに俺の前に現れたのは、驚くほど整った顔と野生動物のような目を持った長身の機人男性だった。


「こいつはたまげたな。君がこの男を倒したのか?」


 男性は少女と同じように倒れている機人と俺を交互に見ると、目を丸くして唸った。


「やむを得なかった。俺の知人を強引に立ち退かせようとしてたんだ」


「ふむ、建設反対派か?……やれやれ、何度説得しても効果なしか。これだから古いタイプは困る」


「俺は機人じゃない。人間だ」


「ほう、人間か。……この辺りは食い詰めた機人がたむろする街だ。少し先に人間の街だってあるのに、なぜここにいる?人間の街の方が仕事だってあるんじゃないか?」


「あいにくと人間も苦手でね。なじみの薄い人間たちと働くぐらいなら、顔見知りの機人と働いた方が気が楽だ」


「それで仕事仲間のために現場監督を殴ったというわけか。麗しい同僚愛だな」


「手を出したことは認める。だが先に不穏な動きを見せたのは、この男の方だ。身の危険を感じて思わず拳が出ちまったんだ。もし修理費……最近じゃ治療費と言わなきゃいけないのかな…が必要なら、ファイトマネーで払わせてもらうよ」


「ファイトマネーだと?」


「ああ。実は俺、入門したてのマシンファイターでね。こんなストリートファイトをやらかしてたのがばれたら、ジムを馘首になっちまうかもしれない」


「面白い。初めて見るタイプのファイターだ。人間にもこんな暴走マシンがいるんだな」


「随分とマシンファイトに詳しいんだな。プロモーターか何かかい?」


「いや。君と同じマシンファイターさ。ただし、俺の方が少しばかり実戦経験が豊富だ。……こう言う提案はどうだい、俺に一撃でも当てることができたら、そいつの治療費を肩代わりしてやる。悪い話じゃないと思うがな」


「あんたが?……そんなことをしてあんたに何のメリットがあるっていうんだ」


「別に何もないさ。ただ、機人の点検ハッチを一撃で狙えるファイターと、拳を交えてみたくなっただけだ」


「なるほど、腕に覚えありってわけか。いいぜ、誤魔化したって馘首になる時はなるんだ。その提案、乗らせてもらうぜ」


「カイドウさん、止めて。この人はあなたのような場数を踏んだプロじゃないのよ」


「ちゃんと手加減するさ。……それに、この男が本物なら、たとえビギナーだろうとそう簡単にやられはしないはずだ」


「ファイターさんよ、言っておくが俺は機人には何の恨みもない。俺が機人と拳を交える時は、そいつのことを知りたい時だけだ」


「いいだろう。俺も君に興味がある。その拳がただのストリートファイターの物か、そうじゃないかがな」


 カイドウと呼ばれた機人はそう言うと、不敵な笑みと共に高級そうな上着を脱ぎ捨てた。


             〈第十四回に続く〉

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